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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百五十一話 晴幸、躍動

 政信の見上げる先にある、焔に浮かび上がる影。

 食い入るように見つめる武田兵に対し、武器を向けることで警戒心を露わにする敵兵達。

 場違いな雰囲気を覚えたことに心の中で苦笑しつつも、隻眼の男は闇の中で、微かな笑みを浮かべていた。


 「はっ、助けに参っただと?格好つけおって。其方一人に何ができるというのだ」

 「……」


 俺は応えない。それには政信も、眉を潜めざるを得なかった。

 俺は微かに顎を引き、政信の様子を伺う。二者の間に続く沈黙は、無数の視えない棘を生んでいだ。



 大須賀久兵衛政信


 セントウ  一四六三

 セイジ   一一五六

 ザイリョク 一〇八二

 チノウ  一三七〇



 俺は即座に、この男が軍を率いる立場であることに気付く。途端に、俺は敵兵全員ではなく政信かれ一人に焦点を絞った。彼が指示しなければ軍は動かないと判断した為である。

 そんな彼の問いに応えないことで、彼は俺の行動を、果たして行き当たりばったりの産物だと思うだろうか。

 思わずとも、十分な《脅し》にはなっている筈だ。その為の沈黙である。

 

 「晴幸殿、一体何を」

 板垣は息を呑む。武器を向けられても平然と構える晴幸(俺)に、微々たる不気味さを覚えていた。一方で晴信は何も言わず、その光景を目の当たりにしている。

 晴幸が仕掛けていたを、一つ一つ脳内で回収してゆき、遂に一つの結論に辿り着いた晴信(かれ)は目を細めた。



 晴幸の行動は、見事に当てはまっている。

 少人数の戦における、大原則に。




 「義清殿に言われたのか」

 「何をだ」

 「我が殿を討てと、そう御命じになったのか」

 「そうじゃ、故に此処で晴信殿を迎え撃った」

 「それは、其方の意思ではないのだろう」

 「……ならば何だというのか」


 遂に口を開いた俺の問いに、政信は反応する。

 依然睨みを利かせた政信の表情に、俺は悟った。

 もう一声かければ、全ての布石が揃うと。



 「つまらぬ、やはり其方はつまらぬ男じゃ。無意味に主君に従い続け、自ずと動こうとしない小心者。

  其方は義清殿に対し、一度たりとも己の考えを申し伝えたことが無いのだろう。違うか?」

 「だまれっ!!貴様に儂の何が分かるというのじゃっ!!」


 政信の怒りが響く。次に目が合った時、彼は殺意に満ちた表情を向けていた。

 俺は一切表情を変える事無く、彼の目を見続けている。


 「……口を開いたと思えば何じゃ、そのやかましい口、今直ぐにでも塞いでくれる。

  晴信殿より先に、先ずは貴様を討つ」

 「久兵衛様っ、かような挑発に乗るのは……」

 「うるさい!!下郎共、奴に矢を放てっ!!」

 「っ……!」


 人が変わったように采配を振るう政信。家臣達は突然の変化に惑いながらも、弓を引き始める。

 今の政信にとっては、順序など関係が無かった。

 怒りのままに突き動かされた身体に、抗う術も、抗うことすら忘れてしまっていた。

 極限まで狭められた視界が、当に討たんとする男の姿を捉えた時。

 どこからか聞こえた、微かな声に我を取り戻した時。

 見えた。いや、見えてしまったのだ。己が牙を向けていたはずの、男の表情を。







 「させるか」




 どすの効いた、低い声。

 窮地にも関わらず、男は馬上で笑っていた。

 当に、鬼と言わんばかりの、形相で。







 「ぐぁあああっ!!」

 其の悲鳴に、目を見開く。

 血を噴き出し、目の前で倒れる味方に、政信は寒気を覚えた。


 直ぐに矢の飛んだ方向に目を向ける。

 弓を構えていたのは、先ほど碁詰隊の壊滅を伝えた伝令役の男。

 訳が分からなかった。しかし、直ぐに顔をしかめる。



 政信は、この男を知らなかった。

 

 

 「今じゃ!作兵衛!!」

 「はっ!第二隊、武器を以て攻め立てい!!」


 徐々に広がる視野。政信はようやく、周囲を見渡した。

 目に映るのは、無数の四つ割菱の旗差し。

 こうして気付かされる。囲まれていたのは、政信かれらの方だったと。



 「謀ったな……貴様……!」



 弓を下ろし、鋭い眼差しを向け続ける作兵衛。

 彼こそが、偽の伝令を伝え敵陣に忍び込んだ張本人。

 作兵衛は俺に目を向け、強かな頷きを見せた。

 


 「謀っただと?くくく、矢を放ったのは其方が先であろうに」

 晴信は遂に、軍配を手に馬に乗る。途端に始まる殺し合いを目前に、晴信は無表情のまま。

 彼は静かに目を閉じ、軍配を持つ腕を振り上げる。




 晴幸、其方はよくやった。 

 やはり儂は、間違ってなどいなかった。

 板垣の申す通り、信念を持ち続けるからこそ、皆は儂に付いてくる。

 優しさを捨て、棘の道を選ぶ。

 その行き着く先を皆に見せてやるのは、儂の役目じゃ。


 故に、妥協などしない。してはならない。

 晴幸あやつがこじ開けた突破口を、無碍にしてなるものか。

 晴信は決意と共に目を見開き、勢いよく腕を振り下ろしたー





 「突然の刺客に動揺させつつ、間者によって混乱を招く。ここまで荒らせば、敵は冷静な判断が出来なくなっておるはずじゃ。

  武田兵をもってすれば、敵兵が崩れるのも時間の問題だろう。よくやったぞ、作兵衛」

 「……いえ、全ては晴幸様の策にございます。

  私はただ、晴幸様の指示する様に動いたのみですぞ」


 俺は混乱に乗じ、作兵衛と共に戦況を脱することに成功する。作兵衛は平然とした態度を装いながらも、内心は喜んでいるように見えた。

 状況は予想通り、此方の優勢。戦火を目前に、作兵衛は味方に加勢することを提案した。しかし、俺は立ち止まったまま告げる。


 「のお、作兵衛。一つ頼みを聞いてはくれぬか」


 その内容に、作兵衛の表情が一変した。



 「儂は、幸綱の許へゆく。

  あやつを助けにゆくのだ」


 

唯一、やり残したこと

第4章、残り5話(予定)

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