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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百四十九話 優しさ、強さ

ほんとにごめんなさい!

テスト期間で2週間以上更新が滞ってしまいました!

本日より再開します!!

 弓を引く音。敵の向ける刃先が、晴信目掛け光を放った。

 暗闇に紛れ忍ぶ敵の気配を察しながらも、晴信は一切動じることはない。 

 板垣達は一歩も動けず、ただ目前の光景を眺めている。

 

 「板垣殿……!」

 「駄目だ、動くな、動いてはならぬ」

 「し、しかし、かようなままでは殿の御身が……」

 

 依然続く緊張状態。かつ劣勢である現状に、板垣は歯を食いしばる。

 極限まで張り詰めた雰囲気が、板垣達かれらの身体を蝕む。

 下手に刺激を与えるべきではない、《本能》がそう告げている。

 主君を守るという、ただそれだけのことさえ出来なくなっている。

 


 「政信とやら。此方からも、一つ訊ねさせてはくれまいか?

  何故そこまでして、戦意を露わにする」

 

 晴信の言葉に、彼の表情が変わった。

 睨みを利かせる晴信に、顎を引き睨み返す政信。

 その表情こそが、彼の全てを物語っていた。


 「……もしや」

 現に板垣の傍で呟く甘利は、険しさを帯びた表情を見せる。

 察していたのは板垣も同様、彼等の思考は一致していた。


 やはりそうだったか。

 義清は再び、我々と関係を結ぼうとしている。

 回りくどさを覚えるのは、武田側が安易に考えを覆さないことを知っていたせいだろう。

 

 《此処で我々の申し出を断れば、どうなるか。》


 誰もが身に染みて覚える重圧。言葉なくして、その圧力は効果を増す。

 武力をもってそれを見せつけることで、我々の考えを大きく変える。村上勢の狙いは其処にあった。

 義清も一寸の希望を見出していたのだろうが、最終的な決定権は晴信にあり、当の晴信はその動きに気付いている。

 関係を打ち砕いたのも、信念を貫き通したのも、全ては我々の愚行と言えば、それは正しかった。

 



 「ここまでして、なお己の信念を貫きますか、晴信殿」




 信念とは違う。晴信は目を細め、拳を握る。

 機会を与えてくれているのは、奴なりの優しさなのだろう。

 支城を攻め込んだ者に同盟を請うなど、安易に出来ることではない。

 相当の覚悟を持った上での、決断だったに違いない。


 言ってしまえば、自尊心・・・がそれを許さなかった。


 我ながら馬鹿らしい理由だと、晴信は遂に頬を緩める。

 優しさに背き、いばらの道を進む。

 常日頃から胸に抱いてきた思いを、晴信は無碍にできなかった。



 優しさから目を背けることが、果たして強かだと言えるだろうか。

 正しいと、言えるだろうか。

 答えは、自明である。






 強いわけがない。

 正しい、わけがなかった。









 「……我が殿の御好意を無碍にするとは、

  晴信殿、貴殿には心底失望致しました。

  ならば、致し方なき事」

 「殿っ!!」



 その時、一人の男が晴信の前に立った。

 途端に敵側から放たれた矢が、男の頭を貫く。

 

 

 「な、ぁ……」

 甘利はその出来事に、声を失う。

 倒れる男、その血を浴びる晴信。

 微かな生温さを肌で感じ、晴信は遂に、我を取り戻すのだった。




 「とっ、殿を囲め!!皆の者、殿を御守りするのじゃ!!」

 板垣は居たたまれず、味方に告げる。

 もはや時を稼ぐことは出来ない。このままでは、本隊壊滅は必至。

 一刻も早く、この場から晴信を遠ざける方法を模索する。




 「……板垣。其方は、儂に失望したか?」

 呟きに似たか弱き声に、板垣は目を向ける。

 晴信の表情に、得体の知れぬ苦しさを垣間見ていた。


 「殿、此処は危のうございます。御下がり下さい」

 「板垣」

 「私は、付いてゆきたい御方に付いてゆく、ただそれだけにございます」



 板垣の言葉は、晴信を素直に驚かせた。

 平然と即答した板垣にとって、考える必要など皆無だった。

 常人には考えもしない事をやってのける、そんな生き方に憧れを抱いたこと。

 《付いてゆきたい者に付いてゆく》。板垣の中にある理由とは、ただそれだけのことである。

 

 

 「……儂を守ってみせよ、板垣」

 其の言葉に、板垣は強く頷く。

 後方へと下がる晴信を囲み、刀を構える武田家臣。

 政信が再び手を上げると同時に、敵兵は武器を構えた。






 その時、敵側の方から鋭い悲鳴が上がった。


 「な、何じゃ」

 突然の事に混乱を見せる村上軍。政信は後方を振り返り、どうしたと問う。

 直ぐに叢から現れた男は息を切らし、片膝立ちで叫んだ。


 「も、申し上げます!!

  砥石城より此方へ向かっていた碁詰隊・・・が壊滅の模様!!」

 「な、何だと!?」


 その瞬間である、

 馬に跨る一人の鎧武者が、敵兵の背後から現れた。

 凄まじいといえる速度で突き抜ける鎧武者は、次々と敵兵を踏み倒してゆく。


 「な……何者だ……!」

 前線へ姿を現すや否や、鎧武者は手綱を引き馬を止める。

 血に塗れたその姿に、晴信は笑みを浮かべた。






 「遅いぞ……晴幸……っ!!」




 降りしきる雪は、徐々に弱まってゆく。

 赤い鎧に、黒い陣羽織を羽織った、赤き目を持つ隻眼の男。

 板垣達は呆然と、月明りに照らし出されたその姿を見ていた。



 

 一筋の光に照らされた男は笑みを浮かべ、深く息を吸い、高らかに咆哮した。





 「儂は武田家当主、武田晴信が家臣、山本晴幸であるっ!!

  我が殿を御助けに、此処へ参上仕った!!」









晴幸(俺)は、一体何をしたのか


第4章、クライマックス。

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