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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百四十七話 危機、打開策

 粉雪は、赤く冷え切った掌に滲む。其処に、本物の晴幸の姿はなかった。

 俺は綱頼と向き合いながら、本物とのやり取りを思い出す。

 一度身体を返せば、当分は此方側・・・に戻ってくることはない。

 彼の意識は、身体と乖離していても繋がる筈だった。

 その間、彼は何処どこで何をしていたのか。それだけは決して、本物やつは語ろうとしなかった。





 「綱頼殿、其方は何か、おかしな事を吹き込まれたりはしなかったか?」

 「い、いえ、何も……」

 俺は出来心で訊ねるが、返ってくるのは期待通り・・・・ではなく、予想通り・・・・の返答ばかり。否、寧ろ自覚が無いというのも当然・・といえよう。

 手掛かりすら掴めない今の状況では、そう割り切る他なかった。


 いや、手掛かりはなくとも、予想くらいは出来ている。

 敵に潜む転生者の存在。

 その正体も、既に。


 「晴幸様!」

 声の先に、作兵衛が走り寄る様子を見る。

 そうだ、すっかり忘れていた。俺に与えられた役目とやらを。

 俺は微笑みながら、「大事無い」と告げる。立ち上がり様に短刀を仕舞い、悴んだ手をそっと差し出した。


 「立て綱頼殿。少しばかり後れを取ったが、我等も殿の許へ向かうぞ」

 「は……はっ」


 綱頼の様子に悟る。未だ理解が追い付いていないようであった。

 無理もない。城攻めのはずが、色々な事が同時に起きすぎている。

 それにスキルの記憶が残らないというのは、今までにもあったこと。

 逆に言えば、スキルの存在を肯定できる証拠にもなり得るのである。


 追い付いていなかったのはまた、作兵衛も同じ。

 だだ臨機応変さに長けていた彼は、既に次の一手を見つめている。

 彼にも乱世を生きる者の力が身についてきたものだと、感心せざるを得なかった。




 冷たい風が吹く。降雪は既に、吹雪に変わりかけている。

 そんな中、俺は目を見開く。

 


 何だ、この感覚は。

 いつかの時と同じ、一言で表せば、《いや》な感覚。

 激しい悪寒に、身が一度震える。



 背後から何か・・が、来る。









 「伏せろっ!!」

 「!?」

 俺は驚く作兵衛の口を押さえ、頭を押える。

 綱頼も何かを察したように、体勢を低くした。


 くさむらの奥から聞こえる金属音。

 一方向に歩む大軍のシルエットに、俺は呟いた。




 「あれは、敵の軍勢か」

 「……あの方向には確か、殿の率いる本隊が列を為して居る筈」

 「もしや、義清殿の狙いは……!」



 そうか、そういうことか。

 俺は舌打ちし、過ぎ行く大軍を睨んだ。




 義清は、撤退を図る晴信達を一気に狩ろうとしている。

 このような木々の生い茂る狭い山中で挟み撃ちなどされれば、太刀打ちも出来ないだろう。




 「晴幸様!直ぐに戻らねば、殿の命が危のうござりますぞ!!」

 「落ち着け作兵衛……!ちと考えさせよ……!」



 俺は焦る作兵衛を諫めつつ、顎に手を当て思考する。


 直ぐにでも晴幸の許に向かい状況を伝えたところで、何が出来るというのか。それに、今向かえば必然的に我々の姿を見られてしまう。

 ただ一番の問題点は、《圧倒的に人数が足りないこと》にあった。


 「晴幸様!!」

 作兵衛の声に、俺は歯を食いしばる。

 頭に手を当て、遂には唸り声を上げた。





 駄目だ、あきらめるな。打開策はきっとある。

 考えろ、考えろ、考えろ、

 









 「……いや、《見つかっても良い》のか……?」

 





 その時、脳に刺す一筋の光明。


 敵が抱える小さなに気付き、俺は手を放す。

 暫くして息を吐き、力が抜けたように項垂れる。

 顔を上げた俺の表情に、作兵衛と綱頼は驚嘆した。


 「……義清は我等が此処に留まっておることを知らぬ。今はそれを利用するしかない。綱頼殿。其方に一つ、任せたき事がある」

 「は、はっ!」

 「案ずるな、儂に任せよ。必ずや我等の手で、殿を御守りしよう」


 

 俺はゆっくりと拳を握る。

 まだ策はある。諦めてはならない。

 今回ばかりは本物(おまえ)に頼らずとも、やりきってみせる。



 俺は、武田晴信の参謀だ。

 そう心の中で呟く俺の口元は、笑っていた。



晴信と晴幸。

二人が浮かべる笑みは、吉と出るか

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