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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百四十六話 正体、追い打ち

 それ(・・)を幻想的だと、誰が思ったことだろう。

 幸綱に示唆した道を伝い、井戸へ辿り着く義清。

 城が焼かれる様を遠目に眺め、口を噤む。


 「殿、御怪我は」

 「案ずるな、何ともない」

 家臣の言葉に対する、安易な受け答え。

 誇張などしていない。多少すすが付いてしまったが、実際それくらいなものだ。

 

 「それにしても惜しいものだな、城を自ら焼くとは、此れも全て狙って・・・のことか」

 「……ただ幸綱あのおとこに渡すというのも、しゃくであろう……」

 頭の中に響く声に、義清は歩みながら呟く。

 中々難しいだろうが、幸綱あのおとこのことだ。

 あそこまで脅しを聞かせておけば、本当に連れて来るかもしれない。

 あくまで可能性の話に過ぎない訳だが。


 「話せば分かる。儂には及ばずとも、あの男は賢かった。

  我等の持つチカラ委細・・まで、既にあの男には自明であろうよ……」

 「奴に正体を明かした理由は分かる、されど、あれほどチカラを使う必要は皆無であろうに」


 義清の持つ、明かされなかったスキルの正体。それは、《他人の記憶を操作するスキル》。

 その(チカラ)によって、他人の記憶を可視化することができる上に、特定のカテゴリーを取捨選択することが可能になる。


 彼は天守に佇む間、味方全員・・・・の記憶から、彼に関わる全ての記憶を消していた。

 誰も天守に登らない様に、それはいわば、二人で語り合う場を設けるための布石。

 言うまでもなく、義清には幸綱を殺すつもりなどなかった。あくまで《転生者》という特別な枠組みに括る為だけに、その重要さ、危険さを知っているからこその行為。逆に言えば、それでしかない。


 「はっ……理由など、其方が一番分かっておる事であろう……」

 「一心同体、故に分からぬこともあるのだ」

 義清は本物の声を遮断する。

 此れ以上の言及は必要ないと判断したためだ。


 「殿、如何なさいますか」

 「案ずるなと申したであろう。晴信(てき)は既に撤退を図っておる。奴らが向かう先も、我らが向かうべき先も、既に明白じゃ」


 己の城が燃える様にも、依然平静を保っている義清。

 周囲の状況を把握できる(チカラ)を用いたとて、晴信隊の動きまでは分からない。されど、歴史が進むべき道筋を教えてくれている今、晴信達の動向を掴むことは容易かった。


 義清は遂に息を吐く。

 「皆にひとつ、頼みたいことがある」


 そう語る義清の表情に、笑みが戻る。

 誰しもがその穏やかな笑みの裏にある何かに、気づくことはない。






 【武田本隊】


 板垣信方は、不意に暗闇へと目を向ける。

 揺らぐ松明の火、板垣は目を凝らした。


 「如何された」

 「いや……」

 

 甘利の声に、我を取り戻す板垣。

 気のせいだろうか。

 何かが走り去ったような音を聞いた気がした。

 

 「明日の朝方には帰還できますぞ」

 「今回ばかりは、戦らしさを感じなかったな」

 家臣の言葉を耳に、晴信は依然前を向き続けている。

 その途端、前方から走り向かってくる者一人。

 それは、本隊の先頭を進む者の一人であった。


 「如何した」

 「申し上げます!!

  む、村上勢による夜襲にございます!!」

 「何だと!?」

 

 遠くに見える焔火。旗印に掲げられている、丸に上文字。間違いなく、村上家に伝わる家紋であった。


 「ひ、引け!この狭い地で戦えば危険にござる、直ぐに引くのじゃ!!」

 「し、しかし、後方からも同じ家紋を掲げた大軍が押し寄せていると......!」

 「まさか、我等は既に挟み撃ちにされておるという事か!?」


 板垣は呆然ながら悟る。

 やはり、気のせいなどではなかった。

 この状況下では、恐らく側面にも兵を紛らせている。



 いや、違う。重要な点はそこではなかった。

 こうして板垣は気づかされる。己らに降りかかっている事の重大さに。



 この夜襲を支持した人物とは、一体誰だったか。

 そんなものは分かりきっていた。村上義清なくして、敵勢の夜襲はない。

 つまり、義清は生きている。

 幸綱と高松。彼らによる襲撃は、失敗したのだと。







 突然のことに動揺を隠せない。

 精神が命運を左右する戦いに、この状況は不利。

 村上勢は武田本隊を叩き、追い討ちをかけるつもりだった。



 


 「く……くくく……」


 その時、板垣の耳に届く笑い声。

 其の方を見ると、晴信が額に手を当て、馬上で笑みを零していた。




 「やってくれるではないか……!

  義清め……っ!!」




 光を帯びた目は、雪を搔き切るような鋭敏さを持つ。

 この絶望的な状況を、楽しんでいる。

 暗闇から、一寸の希望を見出している。

 それは当に、猛虎の嘲笑と言うべきものであった。



晴信隊に忍び寄る危機。

晴幸は、そこにいない。

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