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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百四十五話 解放、帰還

 彼は、声を聞いた。それは紛れも無い、ひと・・の声だった。


 作兵衛は足を止め、一寸先の暗闇に目を向ける。

 ただ枯木と雑草が生い茂る雪道。作兵衛は鋭い眼差しで唾を飲む。

 そのまま音の方角へ導かれる様に、道なき道に足を踏み入れた。


 晴幸様、もしや、晴幸あなた様の身に何か?


 足元の悪さ、不安定さすら構わず、彼は走る。

 息を荒げ、喉の渇きを覚える。それでもなお、無意識に急ぎ始める。

 一寸先を求め、晴幸あのおとこの家臣として出来ることを一心に考えていた。

 




 幾分と掻き分けた先に見えた、微かな光。

 飛び出つ鳥の如く、作兵衛は走り抜ける。

 「晴幸様っ!」

 その瞬間とき、作兵衛の足が再び止まった。

 




 雪の中で相対する、二人の影。

 仰向けに倒れる者、その上から短刀を構える者。

 作兵衛は二人の正体に気付くや否や、言葉を失う。


 

 



 「申せ、其方の知る幸綱殿とは何者だ」

 「な、何の話にござるか、」

 「……は?」


 晴幸は顔をしかめる。

 先程とは打って変わり、明らかに恐怖に塗れた表情を浮かべている。

 死を目前にして白を切って来たか?それにしては、やけに現実味があった。


 「は、晴幸殿、私を殺す御積もりですか!?」

 「っ!?」



 思わず身を潜めた作兵衛は、綱頼の言葉に息を詰まらせる。

 沈黙の中、二人の将が交わしていたのは《命の駆け引き》。

 連れ戻す事への焦りと困惑の間で、身動きが取れなくなってしまった彼は、ただ必死にこの短時間で起こったであろう数々の出来事を想定していた。

 今の彼にとって、間に立つ・・・・という選択肢は二の次であった。


 


 綱頼の身体が妙に震えているように見える。それは寒さのせいか、感情まことの類か。

 どうにもならない言葉を胸に、晴幸は歯を食いしばる。

 それは、今までの言動を覆す綱頼の様子に対してのことではなかった。



 違う、これは、



 これはすべて、己への感情。


 

 何も、分からなかった。

 敵の様子も、幸綱の安否も、勝敗が決したのかも定かではない城攻め。

 此度に限った事ではない。ただ、分からないことが多すぎる。

 策士としての能力ちからではない。ひと・・として持つべき力を、晴幸は持ち合わせていなかった。




 駄目だ。儂はつくづく鈍感だな。

 人間の感情を学ばぬ愚か者とは当に、の事だった。

 己の無慈悲さを嘆くことさえ許してはくれない。

 元に返る時機など、当に過ぎていた。





 もはや、儂の役目は終わっていたというのか。





 「晴幸殿……?」

 晴幸は短刀を手にしたまま、目を閉じる。

 空を切る雪が、肩を濡らしてゆく。





 次に目を開けた彼の瞳には、光が宿っていた。

 突然の状況に戸惑いを見せつつ、脳裏に流れる情報を基に、状況を理解する。



 成程、これは突然の豹変ぶりだな。

 幸綱のスキルと似ている。ただ違う、何か別の力が作用している。

 確信は持てないが、御前も幸綱にはないスキルの存在を想定していたみたいだな。


 脳裏に現れた言葉の羅列が、疑心を確信へと変えてゆく。

 本物を知る為の『鍵』が、形作られてゆく。

 その『鍵』を前に、言葉を投げかける者。


 晴幸・・。此れは、本当の感情だ。

 見間違えるはずもない。今まで幾度とまみえてきた者。それは間違いなく自分である。スキルに苛まれた男の、決死の表情を。




 手にしていた短刀を、地に捨てる。

 この雪はいずれ、己の感情さえ凍らせてしまうのだろう。

 だからこそ、霞んだ世界で生まれる言葉は、限られたものでしかない。





 「苦しんでおるのだな、儂も、其方も」





 偽物は、本物に『鍵』を差し出す。



 そう口にし、《俺》は小さく微笑んだのだった。





『俺』の帰還。幸綱と『本物』。

高松の『言葉』、晴信隊の『行方』。


数多の人間が交錯した第4章。

佳境にして、最大のドラマが待ち受ける。

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