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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百四十一話 幸綱と、義清 (九)

 その時のことを、誰もが思い出せずにいた。

 未だ降る雪と、狂うように血を擦りつけ合う者達。

 鳴らした指の音と同時に、彼らは一斉に動きを止めたのである。



 我々は、何をしていたのだ?



 状況を知り、傷口の痛みを覚える。

 あまりの痛みに我を取り戻し、叫ぶ者。

 呆然とした数百人のつわものは知る。

 槍や刀を腹に刺し、地に伏せる友の姿。

 我々が殺し合っていたのは、己の仲間・・・・であったと。


 




 「やはり、こう老いた身では身体が持たんな……」



 胸を押え、息を切らし、速まる鼓動を抑えようと努める義清。

 スキル代償・・に耐え、歯を食いしばる義清の頭に流れる声。

 

 


 《我が家臣全員の記憶を書き換える・・・・・・・・とは、何とも回りくどいやり方だ。

  さっさとあの男を追い出すことも出来たであろうに。

  我等のチカラに見せるなど、以ての外じゃ。》

 「……それは彼方あちらも同じであろう。

  チカラを貰ったとなれば、等価なものを与えるのが筋というものじゃ……」


 わらしべ長者とはいかない。つまり双方に得などありはしないと、この男は言いたいのだろう。

 無論、自分も偽善として振舞っているだけなのかもしれないが、苦しいのはお互い様。それを知っているからこその行為、行動。

 価値観の違いを前に、偽物・・は微笑する。


 「いずれは犠牲を生んでしまう。それは必然であり、運命さだめと言う他ない。

  然し、それを望む主君などおらぬ。故に辛いのだ。

  運命を受け入れねば、主君としての務めは果たせぬ。違うか?義清」


 己に問いかける。己の中の存在に、問い掛け続けている。

 無茶をするものだと、雑音ノイズじみた声が頭に響いた。

 問いに答えない。してやられたような気分に苛まれる。

 この男に勝てない事は、自分でも分かっていた。




 「殿っ!!早く御逃げを!!」


 天守に現れる影に、振り返る。

 あの時と変わらぬ優しい笑みを、義清は浮かべていた。







 「っ!!」

 綱頼は依然、殺気付いた様子で刀を振るう。

 顔の目前を霞め、体勢を反らした晴幸。直ぐさま後方に足を付くことで踏ん張り、襲撃を免れた。

 何かが吹っ切れている。不意に目を合わせる二人。

 晴幸の表情からいつしか、余裕が消えてしまっていた。

 

 「……何故このような真似をする?

  儂を罰するならば、其方が此処で儂を殺せば良い話ではないか」

 綱頼は答えない。否、綱頼に晴幸の声は届いていないように見える。

 《己の使命に囚われた従者》。晴幸がそれに気付くまでに、時間はかからなかった。


 似ている。幸綱の持つ服従のスキルに。

 だが違う。少なくともこの男は、己の意思に従っている。

 

 「儂の知る義兄上は、何処へ行った」

 「誤解じゃ、あの男は儂が出会った頃から変わってなどおらぬ」

 「いや、義兄上は変わられたのだ、それは確かじゃ。

  それに、其方は義兄上と同じ匂いがするのだ。疑うのは当然であろう」

 

 それは、本物の幸綱の中に現れた偽物・・の話をしているのか?

 幾ら何でも察しが良すぎる。晴幸の中に生まれた疑心は、徐々に大きくなってゆく。


 「故に参れ。命を果たさねば、此処に残る意味はない」

 「何を申して居る、此処に残るのは晴幸わしを捉える為だけではないと、そう申していた筈だ」


 綱頼の言葉が、徐々に支離滅裂さを増しているように思える。

 再び刀を構える綱頼を、晴幸は睨んだ。もはや言葉では伝わらない。

 あらゆる仮説を立てながら、それを胸にしまい込んだ晴幸。彼もまた同じように、刀を手に立つ。








 振り上げられた綱頼の刀。頭上で光る刃に対し、晴幸は低く構える。

 彼の頭をよぎる、この状況を打開する一番の方法。

 それは、この男を此処で殺し、気付かれぬにくい場所へ捨て置くこと。



 そんな様を、に見せるわけにはいかない。

 故に許せ。この身体を返すのは、もう暫し先の事になろう。


 途端に変わる晴幸の表情を、綱頼は見ていた。

 戦く様子など微塵もない。そのまま振り下ろされた刀は、晴幸の首目掛けて落とされる。



 その時

 脳裏にぱちんという軽い音が響く。



 「っ!?」



 同時に、綱頼の身体が硬直した。







 「ふんっ!!」

 異変を見逃さなかった晴幸は、刀を手に綱頼を押し倒す。

 新雪の中に倒れる綱頼と、その上で刀を構える晴幸。



 「儂は、何を……」



 綱頼はただ、怯えた表情で呟いた。




 

 

異変、その正体は

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