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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
145/188

第百四十話 幸綱と、義清 (八)

6/14 大幅改稿しました。

 触れた手の感触。

 冷たさが入り混じった混沌の中に、幸綱は溺れる。

 微かな声が耳に届いた瞬間、頭に靄が現れ始める。


 力が抜けてゆく。視界が白濁に包まれる。

 宙に浮く感覚。皆、同じ思いを抱えていたのだろうか。

 己の力を真に受け、初めて実感する。


 こんなことになるなら、初めから出会うべきではなかった。

 牙を向こうとしても、見えない力が幸綱の身体を押さえつけている。

 己の意思とは裏腹に、抗う気力も、全てが泡沫の如く消える。

 よろけた幸綱を義清は抱えた。腕の中に収まり項垂れた幸綱の目は、虚ろ。

 


 「……そうか。皆が其方の様な表情を見せていた。

  そして、其方は幾度とそれを目の当たりにしてきたのであろう。何とも苦しいものだな。其方も儂も、望んでもいないチカラを得てしまったが故に」


 幸綱は頷く事さえない。全身に麻酔を打たれた様に、幸綱かれの思考は止まっていた。

 そんなことすら筒抜けな義清は、何を言おうと無駄だと、目を細める。

 彼の耳に届くのは己の命令だけ。義清は無表情で、淡々と告げた。


 「真田源太座衛門幸綱。一刻も早く此処から去り、あやつ・・・の許へ参るのだ。

  天守を出て突当りに隠し道がある。そこから井戸へ通じる道を使え」


 幸綱は遂に顔を上げる。死んだ目を向けながら、小声で返す。

 『主様の御言葉ならば』、と。

 義清は頬を緩ませ、立ち上がった幸綱の背を押した。









 








 「.......何のつもりだ」

 背後に漂う殺気に、晴幸は振り返ることなく問う。


 

 「この時機を今かと待ち侘びておったが、其方のおかげで手間が省けた。

  晴幸殿。私が此処へ参ったのは、其方を《我が殿の許に御連れする》為じゃ」

 「......何?」

 「知っておるのだぞ。義兄上は変わられた。

  其方こそが、義兄上を義兄上でなくしてしまったのだと。

  殿は元凶そなたを、自らの手で罰すると仰せられた」


 

 何を言っている?

 晴幸わしが幸綱を変えてしまった?無論そんな覚えはない。

 そもそも、それに義清が関与する理由こそ不明である。


 「......其方は幸綱殿を信じ、寝返ったのではなかったか?」

 「ああ、信じておる。故に参った。

  しかし、それは義兄上の為であり、其方とは別の話じゃ」


 徐々に近づく鋭い眼光を、背に感じる。

 支離滅裂な言動に戸惑いつつも、晴幸は息を吐く。

 何方にせよ、この状況を打破しなければ、この男に殺されかねない。


 「儂を殺すつもりは、毛頭無いということか」

 

 訳も無く、思い当たる節も無い。

 それでも殺される・・・・など、儂には二度と御免だ。

 頬を緩ませる晴幸に対し、綱頼は刀を握りしめた。




 (できるか、綱頼。)


 鮮明な記憶に熱が帯びる。脳裏に焼き付いた声が、綱頼の身体を突き動かす。

 振り上げた刀は静かに空を切り、晴幸の頭上に光っている。

 目をやれば怪しげに光る刃に、一種の頼もしさを覚える。


 能天気といわんばかりに背を向けている晴幸。

 それを目前にして、躊躇う綱頼。

 案ずるな、ただ傷を負わせれば良いだけだ。

 此処でやらねば、顔向けなどできはしない。

 やれ。悔いの残さぬように。






 決死の形相で、力強く振り下ろされた刀。

 

 その時、晴幸は振り返ったー











 降雪の最中で、響き渡った金属音。

 腕にのしかかる、石のような感触。

 一瞬の静寂。何が起こったのかを悟った綱頼は、遂に目を見開いた。





 晴幸は彼の奇襲を、自身の刀で防いだのだ。






 「どうした、しけた(つら)をしておるのぉ。綱頼殿」




 軋む刃と刃の間で、笑みを浮かべる男。

 その目は赤く、誰よりも深く、

 異物に相応しき色を、浮かび上がらせていた。














 「......」

 義清は誰も居なくなった天守の中心に座り、目を閉じる。

 数秒間の沈黙の中で、義清は何を思っていたのか。

 次に瞼を開いた義清の目に、光はなかった。




 「其方と会うのはやはり、もう暫し先のことになりそうじゃ」







 呟いた義清は微笑み、ぱちんと一度、指を鳴らした。


転生者、危機。

すみません。義清編、もう一話続きます。

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