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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百三十八話 幸綱と、義清 (六)

 「時が無い、いずれこの天守も崩れよう。

  手短に伝える。其方に一つ、頼みたき事があるのじゃ」


 天井の形が、原型を崩してゆく。

 義清の見る先を、幸綱は半開きの口で見つめていた。

 木々の網組が徐々に曲がり、亀裂を広げる。


 義清の声はもはや幸綱には届いていない。己の犯した失態と後悔に苛まれた身体は、自由を奪われ、五感すらまともに機能しない状態に陥ってしまった。

 後悔の念、失意の奥底。今思えば素直に聞き入れるべきだったのかもしれない。

 理性を捨て欲に走ってしまった事を、今になって悔い改めなければならなくなった。


 「山本勘助。いや、今はまだ《晴幸》と名乗っておるのだったな」

 「……!」


 ただ、彼の一言は彼の耳にすんなりと刺さり、驚愕させた。

 否、驚愕に似た警戒・・の意を引き出した。

 視線を動かした先に見える義清の姿。

 山本勘助、いや、山本晴幸。

 もはや割り切れる。その名が彼から発せられることは、決して不思議なことではない。

  

 「奴は武田に仕官しておる筈だ。其方も存じておるであろう?」

 「……知らぬ」

 「とぼけるな。其れとも未だに儂を疑っておるのか?」


 幸綱は口を噤み、視線を逸らす。

 それでも警戒してしまう原因は、山本晴幸に関する《申し出》をしたいという、義清の言葉。

 私に何をさせようとしているのか、幸綱には予想がつかなかった。

 今はただ、義清の言葉を待つことしか出来ないでいる。


 義清を謀った伝手が此処にきて現れた。徐々に蝕まれる己の思考に焦りを覚える一方で、次の一手を見いだせないままでいる自分に、不甲斐なさを覚え始める。




 「山本晴幸を、儂の許に連れて参れ」

  彼の申し出に、眉を小さく動かす幸綱。

  義清は遂に立ち上がった。その目は天守の外、燃え盛る炎を突き抜けたその先を見つめている。


 「甲陽軍鑑は武田の戦術を書き留めた書物、儂は其方にそう申したな。

  故に必然として、武田家の参謀である山本晴幸。奴についての記述が大半を占める資料でもある。つまりは、だ。奴が深く関わっておるのじゃ。我等の運命に、あの男が大きく関わっておる」

 

 この時代の鍵を握る人物は、山本晴幸。

 利用しようとしているのか?幸綱を自分のものにし、時代を動かすために。

 実際のところは分からない。ただ、そう思えてならない。


 駄目だ。危険すぎる。

 幸綱は拳を握り、再び義清を睨む。

 この男に、晴幸を会わせるべきではない。






 「ならば、無理にでも捕える他は無いな」



 幸綱の視点は、無意識のうちに彼の目元へと向かっていた。

 黄色に光る眼。先程と同じ、怪気な光を帯びている。

 同時に、己が身に感じた違和感。










 「今、何と申した」



 心を読むこと。

 寿命を視ること。

 他人を操ること。


 全て容易かったはずなのに、今では何もかも

 ふと、目元を抑えてみる。

 幸綱は直ぐに、違和感の正体に辿り着いた。





 まさか、義清このおとこの持つチカラはー




 義清は光る眼を向け続けている。

 何も難しい話ではなかった。











 義清やつの心情も、寿命も、見えなくなっている。

 幸綱のスキルは、目の前の男に奪われた・・・・のだ。



義清編、残り2話

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