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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百三十三話 幸綱と、義清 (一)

 「儂を討ちに参ったか?いや、訊くまでも無いことだな」

 刃先を向けられながらも笑みを見せる義清に、幸綱は寡黙する。

 心情を読み取る(スキル)を用いても、恐怖の念が一切見えない。これも主君として肝が座っている証なのだろうか。騒ぎ立つ城下に気を奪われることなく、幸綱はもう一方の手を腰に伸ばした。



 「否、儂は其方を殺めるつもりはない。

  この真田源太左衛門幸綱、其方に目を通して貰いたき逸物があり、此処に参った」


 義清は一枚の書状を受け取る。途端に見入る義清。

 何重にも折られた書状の表には、力強く書かれた【武田太郎晴信】の文字。其処には、協定を結び直さんとする晴信の言葉が綴られていた。無論、それは晴信による《偽り》の書状である。



 書状に目を落とす幸綱の傍らで、刀を鞘にしまった幸綱は周囲を見渡す。二人だけが取り残された天守、其処に違和感を覚えた幸綱。

 今回の夜襲が敵の既知事項であったなら、最低でも一人は味方を天守に置いておくはずだ。しかし今回は全くといえるほど気配を感じない。

 城内にも数名の家来と見られる男達はいたものの、目を盗むには呆気無い程の警備の薄さ。此処まで容易く辿り着けてしまうと、逆に不気味さを覚えてしまう。





 幸綱は不審がりながらも、視線を移す。

 目と鼻の先。物陰に潜む男に、彼は目で問う。

 いけるか、と。

 その男、《横田高松》は胡座をかいたまま、弓を握りしめた。


 先程の幸綱の言葉は、あながち嘘ではなかった。

 何故なら、伏兵として紛れている高松含む四人の刺客が彼を仕留める手筈になっていたからである。

 幸綱は己の家来に手柄を譲り、囮役を自ら買って出たのだ。



 「案ずるな......儂の腕を信じろ、幸綱殿」

 その四人の刺客を率いていたのが、横田高松。

 彼の襲撃が失敗に終わった時、他の三人が同時に仕留めるという保険をかけている。

 しかし、高松の手は依然震えたまま。


 必ず当てられる。迷いを見せてはならない。

 背に矢を抱え、己にそう言い聞かせながら、彼は鋭い眼差しで弓を引く。



 障子の僅かな隙間から、弓の先端を覗かせる。

 それを確認した幸綱が一歩退こうとした







 その時









 「弓を下ろせ、其処に潜む伏兵よ」












 は......?


 突然の言葉に、幸綱達は硬直する。

 未だ書状に目を落とす男は、以前と変わらぬ声色で語る。





 「......む、どうやらまだいるようだな。

  一つ、二つ、三つ、成程。

  其方が用意した伏兵は四人か」







 (何故......っ!?)


 幸綱は驚嘆し、口を押さえる。

 どうして分かったのか。辺りを見る素振りも見せることもなかったというのに。

 高松は思わず弓を下ろす。心臓の音が徐々に早くなるのと同時に、目眩を誘発する。



 「遂に面が剥がれたな」

 義清は書状を地に置き、陣羽織の懐から取り出したのは火打ち石

 幸綱は混乱の色を隠そうと、汗ばむ手を腰刀にかける。

 その瞬間、立ち上がった義清は腰にかけられた巾着袋を手に火打ち石を打ち、火をかけた。




 あれは

 義清の手に握られているもの、その正体に気づくや否や、幸綱は叫ぶ。








 「逃げよっ、備中殿!!」

 「遅い」




 義清は袋を高松の方へ投げた。








 (......何?)


 状況を理解し切れずにいた高松達は、側に落ちた袋を見て驚嘆する。

 


 







 「これは......っ」








 高松が立ち上がったその瞬間













 一瞬の閃光と共に起こる、大爆発。

 凄まじい音と地響き、爆風と共に、天守の一角が吹き飛んだ。










 「なんだ、今の音は」

 城下では、城の一角から黒煙が上がっている様子を目に、動きを止める。

 しかし、村上家の中で誰一人として、主君の救援に向かおうとした者はいなかったという。








 「ぐ......っ」

 煙が捲き上る。

 風が止み、幸綱はゆっくりと目を開ける。

 其処に、高松の姿はなかった。




 「其方の仲間は崖から落ちたな。

  ふっ、敵を前にして文字に耽るほど、儂は愚かではないわ」

 「備中.......殿」




 壁の(えぐ)れた天守。辺りには炎が広がる。

 幸綱は垂れる汗を拭うことも忘れ、ただ呆然と立ち尽くしていた。



 「残りの者はあまりの衝撃にとち狂い逃げ出したようだ。無理もない、奴らにとって爆破など初めてのことであろう。さて、残るは其方一人よ」



 再び胡座をかき、以前と変わらぬ優しい微笑みを見せる男。

 火の手が迫る部屋で、彼は幸綱に言った。





 「真田源太左衛門幸綱殿。

  其方は、《甲陽軍鑑》なるものを知っておるか?」

闇が芽吹く

次回、村上義清という男。

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