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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百三十一話 危機、決意

250,000文字突破しました

 その頃、高松は戦況に硬直していた。

 弓隊が遠距離から敵兵を狙いつつ、本隊が砥石の如く(そび)える壁を登れば良いだけなのだが、一向に敵兵の足取りが止む気配がない。それどころか、敵は本隊に次々と石や熱湯を浴びせ、侵攻に歯止めをかけてくる。


 隊は崩れ、砥石の崖を落ちてゆく。

 生々しい音を立てて落ちる男達は皆、血に塗れた姿で原型を無くしていた。



 高松は見上げ、苦しさを帯びた笑みを浮かべる。采配を握る拳に力が入る。

 思えば、初めからおかしな点は多々あった。まるで我々の夜襲が《元から予期されていたもの》だと言わんばかりの、兵の統率さと士気の高さ。

 ただの偶然だとは考えにくい。しかし、村上家に通じていた者の仕業だとも考えにくい所がある。此度の侵攻に際し、夜襲の情報は一部の家臣団の中で内密にされていたはずだからだ。


 (どちらにせよ、儂の想定・・・・を超えておらぬ事には変わりはない)



 「備中守殿」

 「今行く」

 高松は茂みの中からの声に応える。そのまま視点を移し、遠方に浮かび上がる城を見つめる。

 思っていたよりも、暗順応に時は必要としなかった。


 「そうだ、それで良い。

  暫し時を稼いでくれればよいのじゃ」


 睨み面に、口を噤む。

 高松は周囲の目を欺かんとするかの如く、暗闇へと姿をくらませた。








 「儂は」


 異論を唱える者、結論を急ぐ者。各々の目は唯一点を向いている。

 声が詰まる。晴幸は晴信の惑う様子を悟りながらも、口を開こうとはしない。

 家臣というものは、ただ主君に対し《促す》立場に過ぎないことを知っているから。それでも晴幸は、己の言葉が伝わっている事を信じてやまなかった。

 

 手の悴み、血まで冷える感覚。

 無論錯覚に過ぎない訳だが、そんなことを思っては常に身を震わせている。

 己が沈黙を好むような人間ではない事を、今再び実感するのだ。



 そんな晴信か導き出す結論。

 躊躇う程に、興味に似た何かが込み上げてくる。

 次の一手を考えていた晴幸にとって、絞り出した彼の言葉は、思いがけないものであった。






 「......いや、もう暫し方待つ」




 その声に、晴幸の思考が止まる。

 見上げた先にあるのは、松明に照らされた晴信の、覚悟の表情。

 

 「その御言葉には、何か訳が?」

 「……」


 晴信の沈黙に、遂に晴幸の表情が歪む。

 何故だと問わずにはいられなかった。その理由は至極単純である。

 晴信という男に限って、撤退の意を取り下げるとは思いもしなかったからだ。

 

 晴信はもう少し様子を見たいと、周囲に意見を求める。

 家臣達は顔を見合わせながらも、同意の意を見せた。


 「し、しかし、殿」

 「其方の言い分も分かる、されどこの通り、決まったことじゃ。

  それに儂の一存だと申したのは、其方の方であろう」

 晴幸は呆然と目先の男を眺めていた。

 こやつらまで、愚か者に成り下がってしまったか?



 夜襲が失敗した時点で、ここに留まり続ける理由はない。それは誰もが経験し、分かりきっているであろうこと。少なくとも板垣は却下してくれるものだと思い込んでいた。

 これまでの経験を、まるで無に帰したかのような言葉に、晴幸は失望を覚えた。



 いや、何か彼なりの理由があるに違いない。

 導かれた結論がそうだとしても、それだけは訊ねておきたかった。

 晴幸の頭にあるのは、己の持つ(スキル)の存在。第三の(スキル)を用いて、彼の真意を探ろうと思い立つ。

 しかし気づく。晴信に関する事象は如何なる場合でも通用しないことを。






 「殿っ!《合図》にございます!!」

 その時、背後から一人の男が転がり込む。

 晴幸の背筋が伸びると共に、晴信は呟いた。


 「来たか」


 まるで、この瞬間を待っていたかのような素振りで、晴信は立ち上がった。

 晴幸は彼の表情を見て驚嘆する。

 未だ額の汗が拭えない晴信。明らかに我が家の忠臣を削りかねない戦況不利な状況。



 しかし、彼は笑っていた。

 降雪の中で彼はただ静かに、不敵な笑み(・・・・・)を浮かべていたのだ。










 「やはり恨みを持つ者等の力は、計り知れぬのう」

 義清は盤面に埋め尽くされた石を見つめ、ほくそ笑む。

 そんな彼を横目に綱頼は立ち上がり、一歩ずつ後を退く。


 「何処へ行く」

 「厠にございます」

 「左様か、行って参れ」


 綱頼は即答するが、瞬時に後悔の念に駆られる。

 義清はゆっくりと綱頼の方を向き、微笑んだ。


 「其方は儂の大事な家臣じゃ」

 

 綱頼は口を噤み、一礼。

 その場を去った彼を尻目に、義清は再び盤面に目をやる。


 その時である。

 背後から足音を聞く。義清は接近する足音に目を細める。

 綱頼ではない。そう思った瞬間に、肩に硬い感触を覚えた。






 「油断したか、義清」


 義清はゆっくりと振り返る。

 そこにあるのは、鋭い光を帯びた瞳。










 真田幸綱(・・・・)が、彼の前で刀を向けていた。








何故

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