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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百二十九話 今宵、開戦

 師走の夜空は、灰に混ざる。

 見上げる度にその魁偉さを身に染みて覚える。

 横田備中守高松は些か戦く仲間を横目に、終始笑みを浮かべていた。


 霧雨が肌を濡らす中で目を細める。明かりの灯る城。光を帯びた瞳の奥。周囲に誰もいない事を三度確認し、高松は一歩踏み出した。


 「今宵は宴じゃ、城兵は我らを出迎えてくれることだろうよ」


 一時の静寂。其れを切り裂く一本の矢。

 高松は鋭い眼差しで手綱を引く。

 雄叫びに似た咆哮、男達は彼の後ろを付いて行く。

 降雪に変わり始める頃、彼等は城に向けて走り出すのだった。






 「殿、冷えまするぞ。羽織を」

 降り積もる結晶。晴信は飯富虎昌の声に頷く。

 高松隊が夜襲をかけ、既に小一時間が経過している。

 未だ何の報告もない陣中には、徐々に暗雲が立ち込めていた。


 それを悟らせない様に振舞っている。いや、所詮は振舞っているつもり・・・に過ぎない。

 晴信には分かりきっていた。己の洞察力に苛立ちさえ覚えてしまう。

 しかし、一番はやはり村上義清という男を恐れているせいか。

 晴信は沈黙の中で模索する。己を取り巻く暗雲の正体を。

 

 「殿!」

 「......っ」

 飯富の声に驚く晴信。眉間に(しわ)を寄せる飯富。そんな彼の瞳は澄んでいる。

 晴信は一度息を吐く。この男は知っているのだと、そう感じてやまない理由を見つけられた気がした。


 「......飯富、其方は妻とよくしておるのか?」

 「な、何を仰いますか......」

 「こう戦続きとなると、話すこともままならぬであろうに」


 我ながら馬鹿な問いだと思う。

 それでも一度思い立てば、訊ねない理由はなかった。思いを抱える自分と共有できる存在を、今になっても探し続けているのだ。


 「御家の為ならば、私は何も案じませぬ」

 「そうか、其方の息子はどうだ」

 「......未だに尿を漏らす臆病者にございます」


 上手くいっているとは言い難い。やはりそれも己の為した《独断》のせいか。

 そんなことを考えているようでは、戦など微塵も務まらないことも、己の言動が唯の欺瞞(ぎまん)に終わってしまうことも知っている。

 


 飯富に声をかけようとしたその瞬間のこと。陣中に現れた男は晴信の名を呼び、目前にひざまづく。

 飯富は事態を悟り、彼の隣へ移動する。


 「遅かったではないか。何をしておった」

 「申し訳ありませぬ。それが、敵兵の士気がすこぶる高く、少々手こずっております」

 「士気だと?何故だ、我らの兵力では足りぬと申すのか?」

 「いえ、そのようなことは」


 男によれば、城内に立て籠もっていた敵兵の数は約五〇〇。七〇〇〇の兵を率い、夜襲を仕掛ける我らが手こずる筈がない。

 ならば、原因はその士気の違い(・・・・・)にあるということか?


 士気の違い。その言葉に晴信は気付く。

 この男の話が本当なら、何が彼らをそこまで奮起させているのか。



 (......もしや)


 晴信は顎に手を当て、思考する。

 途端に目を見開き、不意に立ち上がった晴信は、周囲の注目を浴びる。





 「かの城(・・・)の残党か......っ!」











 「そろそろ、気付く頃であろうな」

 砥石城天守。

 村上義清は澄んだ瞳で、碁盤に石を置き続ける。


 「殿、もしや全て狙っての行動で......?」

 「申したであろう。《此度の城兵はこれまでとは一味違う》と。

  さて、類稀なる軍才を持つというあやつが、如何に采配を振るうか、楽しみじゃ」

 脳裏を巡る思考に、笑みを零す義清。その側に居るのは、矢澤綱頼。

 綱頼は彼に表情を悟られぬよう一心に俯いている。硬直する彼の様子は、まるで床の冷たさに凍えている小動物のよう。












 「殿......?」

 敵兵の士気が高い理由に、周囲は気づいていない。

 武田陣中で唯一人、晴信だけが頭を抱え項垂れる。



 「......晴幸を呼べ」



 砥石城攻略の糸口。

 死線脱却の糸は絡まり、縺れる。

 晴信は掠れたような声で、そう呟いた。


晴信と義清。二人の名将が見る景色は

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