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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百二十六話 重役、先鋒

新元号、令和!

 山々を伝いながら、《城の外見とその近辺を一通り偵察》した俺達は、城下から離れた村で休息を取ることにした。

 「其処まで歩けば、我等を知る者はまずおらぬであろう」

 横田高松はそう語りながら、軽い足取りで山道を進む。対し俺は終始息を荒げている。先程からどうも身体中が痛い。足の指先から始まった痛みは徐々に全身を巡りながら増し、俺は歯を食いしばった。


 (全く、情けないものだな。)

 前を行く二人の背中を睨みながら息を止め、毅然とした姿勢で歩き続ける。

 現役社会人として働いていた頃の面影は既になく、其処には老いた身体・・・・・あの頃の魂・・・・・だけが残っている。

 馬無くして老体を引きずり、歩き回った事が招いた結果。

 同じ年寄りでも、ここまで身体機能に差が出てしまうのか。

 この男とは違う。駿河で過ごした十一年と、甲斐で過ごした三年。

 きっとその間を、書を読むことと策を生み出すことだけに費やしていたからだ。


 


 遂に辿り着いた閑散とした村の隅で、俺は膝に手を付く。

 地に座った途端に、疲労が俺の身体中を襲い始める。

 相変わらずの晴天。乾き切った空気と喉の渇き。

 俺は見上げながら、瓢箪の水を一気に飲み干した。



 「御疲れのところ済まない。山本殿、城を直に見た上で聞かせてもらう。

  この戦、我が家にとっても極力被害は出したくないのは百も承知。

  さて、其方は如何に攻めるつもりだ」

 「如何に……」


 (こりゃとんだブラック社員だ。)

 この様子を見ても、休ませてはくれないのか?

 眠気を遮る虎胤の言葉は、俺の脳を休息から思考へと切り替えた。

 否、切り替えざるを得なかった。


 一応此処に来る以前に、おおよその策は練ってきたつもりである。勿論晴幸に協力を求めた上でだ。

 結論付けてしまえば結果論。この目で見た所で、俺の考えが変わることは無い。

 まずもって《あの晴幸が許そうとはしない》だろう。

 「此度の戦、安易に考えるべきではありませぬ」

 「一つでも戦況を見誤れば、多大な被害を生むと、そう言いたいのか?」

 俺は顎に手を当て、思考を続ける。



 『史実の通りならば、奴はこれから武田の侵攻を二度防ぐことになる。』

 俺の頭の中には、いつかの幸綱の言葉が回り続けている。

 (幸綱は史実通りだと言っていたが、例え史実との差異が生まれた所で、スキルによる義清自身のステータスが変わることは無い。)

 つまり、侮れない相手であることには変わりない。そんなことは考えずとも自明だ。





 「山本殿、此の近くで川を見つけた。水を酌みに行かぬか?」

 沈黙を切り裂くのは、横田高松。

 話を断ち切る良い口実が出来たと、途端に俺は疲れを忘れ立ち上がる。

 「どれ、原殿。其方にも酌んできてやろう」

 「あ、ああ。忝い」

 虎胤の返事に、高松はにこり笑みを見せる。





 歩いて五分。高松に案内されるように訪れたのは、砂利の広がる景観。

 その中央に、幅広の川が姿を現す。

 (近隣の民による、共同の河川か)

 所々から水を酌む音を聞き、俺は辺りを見回す。


 「のお山本殿。其方は儂に何か、申したいことでもあるのか?」


 その時である。前方に背を向け立ちすくむ高松が、言を発したのだ。

 そのまま振り返り、俺は其の視線に硬直する。

 獲物を狩りかねんとする目。その標的は、間違いなく俺である。

 

 言うべきか?いや、言わねばならない。

 今がきっと、絶好の機会だ。

 思い立った俺は、ゆっくりと息を吸った。


 「……儂は悩んだ。だが、遂に腹は決まった。

  横田備中守殿。此度の先鋒、其方に頼みたい」


 高松の表情から、笑みが消える。

 俺は終始、彼に鋭い視線を浴びせ続けた。



  横田高松


 セントウ  一八五七

 セイジ   一二〇二

 ザイリョク 一二四九

 チノウ  一一六三


 此の男ならば、任せられる。

 傍から見れば根拠の無い自信に過ぎないだろう。しかし俺にとっては、確信に近い自信。重要な役目、それは城攻めの先陣。敵の消費も無い中で、最も被害を受けやすい部隊。

 この年齢にして二千近いステータスを叩き出すとすれば、此の男は忍びの類だろう。それも未だ現役さながらの機動力を持っているに違いない。

 彼ならば生きて帰り、かつ敵陣に接近できる可能性は高い。そう思ったのだ。


 「こんな老いぼれに先陣とは、恐れ多くも光栄なことだな」

 「そうか、其方ならば殿も納得なさるであろうよ」


 戦闘に長けた者が、先陣として選出されることは多い。

 それを名誉なことだと捉えるか否かは、当人次第である。

 

 「……それが其方の言葉なら、儂は其方に従う気はない」

 「殿の御命でもか」

 「殿の御命とあらば、仕方あるまいよ」

 高松は静かに笑う。この返答を無論予測していた俺は、平静を貫いていた。

 いや、その返答は当然ともいえる。此の男に危険を及ばせようとしているのは俺なのだ。

 やはりという人間は、こんなにも醜く成り下がってしまったのだな。


 「一つ訊ねる」

 「何じゃ」


 其れでも俺は、己の意を貫かんとする。

 それは過ちの上にある、小さな感情こころの行く末。





 「……何か企んでおるのか」

 「はて、何のことであろうか」


 笑いながら背を向ける高松の姿を、俺は何も言うことなく見つめ続ける。

 じきに陽が暮れる。突如起こる身の震えを、俺は寒さのせいにして歩き出す。

 

新年度も宜しくお願いします。

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