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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百二十五話 浪人衆、偵察

 その出来事を、俺は忘れられる筈が無かった。

 平然な面持ちを貫きながら、記憶の奥底に埋め尽くされていたのは晴信の表情。壊れた玩具にこびり付く錆び。それを人間の間に垣間見たようで、少しばかり不思議さを覚えたのだった。





 明くる朝。師走の予兆を感じながら、俺達は砥石城へと出立する。

 当然敵だと知られることも、目立つことも許されない。故に俺達は列を為しつつ、裸足とみすぼらしい召し物を纏い山中を進む。

 ぬかるみに足を取られつつも、前進を続ける幾人の将。唯前方を睨み続ける者達。それはいつか俺が躑躅ヶ崎館へ足を運んだ時と同じ。

 あの時ほどの自尊心は消えつつある。それは俺が数々の死線を掻い潜り、己がいかに弱い人間であったかを知った為だ。


 砥石城付近へ辿り着いた俺が抱いた第一印象は、『目立つ』ということ。

 山の尾根上に築かれている砥石城から、近隣国を一望出来る事は登らずとも分かる。

 それはつまり、砥石城自体が幾方向から目に付きやすい城であるということだ。

 外見だけを見れば強固そうな城ではあるが、これまで見てきたような城に比べると簡素な(つくり)である。(当然内装については噂程度にしか知らない訳だが……)



 「これは攻めがいのありそうな城じゃ」

 俺の横で笑い声を零す老人。また隣で老人を睨みつける虎胤の顔が見えた。


 よく甘利と行動を共にしている男か。

 俺は直ぐに理解が出来たが、相手は俺に面識はない様子だった。

 老人は俺に気付くと、見定める様に俺を眺め始める。


 「な、何か?」

 「其方、山本殿と申したか」

 「ああ、そうだが……」


 途端に老人は歯を見せ、着物の袖をぐっと捲った。


 「此の横田高松、唯の爺と思われてぁ困るっ!!」

 「備中守殿っ!」


 虎胤は慌てながらも高松の口を押える。

 突然の出来事に少々戸惑ってしまったが、腕の中でもごもごと動く高松に、思わず笑みを浮かべた。






 「驚かせてしまったな。此の者は横田備中守高松殿。甘利殿の備えとして仕えておる男じゃ」


 そう言いつつ、彼は腕を放す。

 途端に始まる高松の問い詰めに、虎胤は耳を貸そうとはしなかった。

 俺は簡単に会釈を返しておいた。


 「そう言えば、此処に居る者は皆、浪人衆であるな」

 「皆……?」

 俺は驚嘆する。皆ということは、虎胤もそうなのか?


 「む、ああそうか、其方には伝えていなかったか。

  我々はかつて、下総国衆である臼井原家の一門であった。だが居城である小弓城を巡った合戦において、敗北の末に城を奪われた。故に我が父、友胤と共に甲斐に落ち延び、先代、信虎殿の家臣になったという訳じゃ。

  そのような意味でも、儂は其方に興味を持った。

  他国から流れ此処に辿り着いた、儂と同じ境遇の男をな」


 虎胤も俺と同じ。否、幸綱も。

 いつの間にやら、高松は口を閉ざし頷きを見せている。




 「儂は、恩を返さねばならぬ。故に我等はな、殿の名誉にかけて戦っておるのじゃ」


 砥石城を見上げながら、虎胤は呟いた。

 そんな彼を横目に、俺は口を噤む。


 武田晴信。奴はいずれ再起不能・・・・となる危険性を孕んでいる。

 そんな気がする、いや、そんな気がするだけだ。

 唯の杞憂で済めばいいものだと、俺は思うのだった。

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