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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百二十二話 義清と、綱頼

 同時期、北信濃。

 葛尾城かつらおじょうに響き渡る、威勢の良い咆哮。

 木刀を振るう少年達。その傍に立つ男は、現れた存在に気付くや否や叫ぶ。

 静寂の広がった中庭に、葉の擦れる音が一層際立った。


 「殿、御早うございます」

 「良い、続けよ。

  今朝も早くから精が出るな。皆、しっかり鍛錬に励むのだぞ。

  綱頼、御主に一つ話がある。ちと顔を貸してくれんか」

 「は」


 呼応に優し気な笑みを振りまく男、名を村上義清むらかみよしきよ

 矢沢綱頼やざわつなよりは御辞儀を見せ、少年達に指示を残し彼の後を付いて行く。






 「何やら信濃の内で、不穏な動きを見せている者がおるようだ」

 「武田、にございますか?」

 義清の部屋へ迎え入れられた綱頼は、中央で互いに向かい合う。

 綱頼が導いた咄嗟の正答にも驚く様子を見せず、義清は頷いた。

 

 「まだ若造のくせして、奴はとんだ戦鬼いくさおにじゃ。

  海野平の合戦をきっかけに、奴は父の実権を奪い、諏訪頼重との同盟を破棄。

  あげく頼重を自害に追い込むなど、親不孝にも程があろう。

  そうは思わんか?」


 綱頼は苦笑し、茶を一口ひとくち

 確かに近年の彼の行動は、平穏を主軸に置いていた信虎とは対照的だ。領土拡大を思考の中心に置く、野望を抱えた男。

 互いの考えの違いが引き起こした事には変わりないが、綱頼には武田晴信という男が、ただ血の気の多い人柄には思えなかった。


 「つまり、再び武田が戦を仕掛けると?」

 「察しが良いな、そういうことだ」

 「しかし、笠原清重殿やその他家臣達が命を絶った志賀城の戦で、

  武田は多くの兵糧と資金を失っている筈」

 「左様、先の志賀城の戦からたった二月ふたつきしか経っておらぬというのに。

  恐らく武田領内に、膨大な資金を蓄えておる富豪者がいるのかもしれぬな」


 義清は遂に天を見上げ、息を吐く。

 煙さながらの白さに、数十度目の冬を実感する。

 龍の彫刻が施された天井に目を向けながら、義清は頬を緩めた。


 「次の標的は我等じゃ。当然、我らが高梨殿と対立を深めているという事実、見落とす筈があるまいよ」


 義清は項垂れつつ笑う。

 (確かに砥石城は、東信濃における防衛線に大きく関わる支城。攻められるとしたらそこしかない。)


 しかし、何故だ?

 それが誠ならば、なぜ貴方様は笑っておられる?



 「砥石城・・・の守備を固めるよう指示を出す。

  奴よりも先を回る。此度の城兵は、これまでとは一味違う・・・・・・・・・・故な」

 綱頼は思わず、その意味を訊ねる。

 訊ねたにも関わらず、義清はそれ以上を語らなかった。

 


 「笠原清重、奴が死んだのは必然であった」

 「必然」

 「否、これもあの男の運命さだめだったのやも知れぬな」



 義清は天守から領内を見下ろす。

 乾ききった冷風に、身を震わせる。

 「ふ、くくく……」

 「殿……?」

 綱頼の声が強張り、小さくなる。

 その肩の震えは、寒さのせいではない。

 


 「晴信は、既に儂の掌の上じゃ」





 綱頼の頬に、一筋の汗が垂れる。

 背を向ける義清に目を向けながら、綱頼は気付かれぬ様に着物の裾から巾着型の袋を取り出す。

 其処に描かれていた紋様に、彼は目を細めたのだった。




誰よりも先を行く男

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