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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百二十一話 幻影、出立

 空しさの勝る叫びは、何処にも届きはしない。

 未だ止むことのない、夢の上書き。

 意味の無き抗いも空しく、理想とは程遠い実像だけが目の前に残る。

 様々な情報源も機械的オートマチックさながら、現実に複写される。

 望む筈のないことゆえに、いつしか諦めを覚えてしまった。


 《諦める》なんて俺らしくない。そんなことは知っている。

 しかし、どうしようもない・・・・・・・という事実が目の前に立ち塞がっている、無論そんな現実にも気が付いていた。それは複雑な心情を抱える者ならば、誰しもが持つ葛藤だといえるだろう。

 圧し掛かる言葉の数々に押しつぶされそうになる。否、それらは所詮錯覚に過ぎない。

 そんな錯覚すらも鮮明に、繊細に、明瞭になってゆく。錯覚が確実性を帯びてゆく。

 拡散された光の粒が集約し、遂に一本の閃光が、俺の目の前を貫いた。



 空っぽ・・・の朝を迎えた俺は額に手を当て、ぼやけた視界を振り払おうと努める。

 傍には壁を背に眠る一人の男。

 左目の視界は依然強い白光を帯びている。朦朧とした意識の中、握力の失った手で眼帯を探し取り付けた。

 「起きろ晴幸」

 隻眼の男はゆっくりと顔を上げる。まだ眠いのだと言わんばかりの表情で、大きな欠伸を漏らした。

 惨めな様だと、俺は睨みつけるかの様に、彼を見下ろしていた。







 軍議から二日後、俺達は砥石城落城へ向け出陣する。

 先陣は甘利隊、後方に位置する俺は馬上で思案していた。

 この二日間、俺は幸綱の姿を一度たりとも見ることは無く、此度の陣中にも幸綱らしき姿は無かった。


 何度も言うが、少なからず真田幸綱はこの砥石城攻めに深く関わる人物。

 ならば、晴信が簡単に手放す筈がない。晴信と幸綱は元々グルであったと、どうしても考えてしまうのだ。

 しかし、そうなると転生者(同じ境遇)の俺に相談を持ち掛けないというのも、おかしな話である。

 やはり幸綱は本気なのだろうか。今頃どこで何をしているのか。





 「随分と思案に耽っているな、晴幸殿」

 「虎胤殿……!」

 原虎胤の声に我を取り戻す俺は、彼の方を向く。

 俺の右隣に付く彼は、左腕を伸ばし、鎧の上から俺の肩を叩いた。


 「真田殿の事は案ずるな、しっかりせよ。

  其方は其方のすべきことをするのみ。

  殿の理想に御答えすることこそが、家臣の役目ではなかったか?」


 殿の理想。そんなことを思った時もあったな。

 虎胤は微笑み、再び天を眺め語り始める。



 「あの文を貰った時、儂は其方に興味を持った。

  これほどまでに頭の回る男がいたのかとな。

  故に確信を持った。其方は如何様な戦況をも、大きく覆せる。

  殿はそんな其方の器量を、見出したのだと」


 そこまで過大評価されてしまうと、少し怖気付いてしまうな。

 俺は苦笑しながらも気付く。己の中でいつしか、《今すべきことをするだけだ》という考えに移行していた。



 そうだ、これまでも俺は一人で戦ってきた筈だった。

 寧ろ、仲間など必要ないと言わんばかりに、拒否反応を示していた。

 しかし今は違う。一筋の光が、俺の行く末を照らす。

 こうして、俺は己の道を歩み続けていたのだと悟る。





 ああ、その通りだ。



 手綱を握る手に、温かみを覚える。

 熱を帯びた身体は、小刻みな震えを続ける。

 天を向く俺は、遂に頬を緩ませた。


 今日も同じだ。今も遠い未来も変わらない青空に、冬の訪れを知らせる風。

 出陣の日に、雨が降ったことは一度たりとも無かった。







 

 足掻き、苦しみながらも。誰かに信用され支えられる。

 今の自分に有難みを覚え、痛みや苦痛を抱えながら、俺はこれからも老いた身体を動かしてゆく。



 

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