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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百二十話 崩壊、放棄

 「....は?」

 俺は思わず声を漏らす。それは周りも同じで、皆が突然の出来事に驚きを隠しきれずにいる。

 晴幸すらも表情をゆがめてしまう所を見れば、それが異常な光景である事を物語っているのは確か。


 「其方はかの城を築城した本人であるな」

 「は、いかにも」

 「ならば訳を聞かせよ。此度の城攻め、其方の協力あってのものじゃ。

  それとも何か都合の悪いことでもあるのか?」

 冷静な口調で訊ねる晴信に対し、鋭い目を向ける幸綱。

 その周りには、奇々怪々な視線を向ける人々が屯う。


 

 嘘だ、嘘に決まっている。如何してそんな表情が出来る?

 今回の戦には、幸綱の存在が必須だと皆が知っている。その事実は当然幸綱にも分かっている。

 そんな状況下において堂々と参戦放棄出来る筈がない。

 きっといつものように、(スキル)の通じない男に向け、探るような仕草を見せているだけだと。


 この時の俺はきっと、そう思い込もうとしていたに過ぎなかった。

 


 「確かに私は、かの城の築城を家臣に(・・・)命じました。

  しかしながら、私はかの城について何の関与もしておりませぬ。

  故に城の構造などつゆ知らず、私が参陣致した所で、意味のなきことかと」


 幸綱は事実を語ることで、己の無力さを説いている様にしか見えない。

 お前は本当に、今回の戦を放棄する気か?

 焦りの色が見え始める。晴幸は眉間に皺を寄せたまま、依然彼の言動を注視していた。

 数分の口論の末、晴信は遂に吐息を吐く。まるで諦めに似た表情を浮かべる。


 「……其方は一度決めて仕舞えば曲げぬ主義だと知っておる。

  どうしても譲らぬというのなら、それでも良い」

 直後の言動に、俺は固唾をのんだ。

 吐き捨てるかの如く鋭い口調で、晴信は睨む。

 怒っている。周囲は悟るが、幸綱は以前無表情のまま。


 「其方の信用が、地に落ちるだけじゃ。

  此度の軍議に其方は必要ない、早急に去れ」

 「殿……!」


 板垣の声と共に、幸綱は立ち上がった。

 彼は迷うことなく、部屋の障子へと歩を進める。

 「幸綱殿……っ!」

 乾ききった俺の声に、幸綱は立ち止まった。


 「……其方が無鉄砲にかようなことを申す筈が無い。

  聞かせよ、それも何か策の内なのであろう?」

 顔を綻ばせながら俺は問う。それは一種の淡い期待によるもの。

 立ち止まる幸綱に、小さな希望を覚えていた。

 しかし、そんなちっぽけなものさえ、儚く崩れ去ってしまうのだ。


 「何か勘違いをしておるようだが、儂は其方の思う程強い男ではない。

  少しは他人を理解しようとする姿勢を見せたらどうだ」


 思いもしなかった言葉の羅列。

 声の出ない俺を横目に、幸綱は躊躇う事さえなく障子を閉める。

 静寂の広がる部屋の中で、俺は拳をぐっと握った。

 「軍議を続ける」

 静寂を切り裂く男の声に、俺は強張った力が抜けてゆくのを感じていた。


 こうして、軍議は何事も無かったかのように終結する。

 その日の夕食にも、幸綱は姿を見せなかった。

 たった一つの空席。それが誰を指しているのかを悟りつつも、晴信は咎めようとしなかった。








 そんな夜、夕食の後、自室へと戻る甘利虎泰の許に現れる一人の男。

 男は、あの時と同じ目で甘利を睨みつける。


 「甘利殿、少しばかり宜しゅうございますか」

 「……丁度良い、儂も其方に訊ねたいことが山程あるのでな」



 冷涼な風が、冬の兆しを見せる。

 甘利は頬を緩め、歩き出す。

 其れを見た男は、静かに彼の後を付いてゆく。


 






仲間割れ、そして……


次回、出陣

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