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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百十八話 かつての、盟友

 そんな其々の思いが錯綜する中で、晴信は唯一人思案にふけっていた。

 皆が己の指し示した一途の目的に目を向けている。そう実感すればするほど、己に圧し掛かる責任・・の二文字が肥大してゆくのである。

 時折一人になった時、誰の目にもつかない場所で、彼は思考する。諏訪すわ御料人ごりょうにんはそんな彼の変化を案じていた。物思いに沈み、光を失った目を向ける彼を。


 此れ以上迷いはせぬと、そう決めたのだったな。

 御料人の膝を枕に寝そべる晴信は、心でそう言い聞かせる。


 「また......戦が始まるのですね」

 「……其方は案ずるな」

 御料人の言葉に晴信は目を閉じる。



 村上義清、諏訪頼重と手を結んだ海野平の戦いにおいて、真田幸綱は我らを敵に戦っている。故に敵を真っ向から見たあの男の話は信用できるだろう。

 村上義清(やつ)は侮れぬ男だ。真向に挑めば、今の兵力差では五分五分が良い所。

 奴の持つ情報網の広さも噂に聞いている。奇襲をかけようとした敵に隠れ、先回りをしていたという話も。

 だからこそ予防線(・・・)は張ったつもりでいる。策が敵に漏れた際の予防線だ。


 敵軍の侵攻が明らかになった際には、一旦侵軍を止め、甲斐近辺まで兵を引かせる。恐らく義清からすれば、我が家が攻め入った事実を口実に、甲斐制圧を名目にした上で我等の許に攻め入る事だろう。

 その時は地の利を生かす。いわば敵を(おび)き出す策に切り変えるという訳だ。


 ただ、今回の戦で義清を討ち取ることが出来るとは到底思えない。故に別動隊を陰から砥石城へと向かわせる。

 問題は、城攻めの詳細までも知られてしまった時。城兵の数が多くなり、恐らく城攻めは難航を極めることになるだろう。

 戦は情報戦とよく言われるが、我が家は情報量において不利な状況に置かれる可能性が高い。それは間違いなく義清との器量と兵力の差、そして父の代から培ってきた我が家との結び付きによるものだ。


 だが、儂は敵に背を向けるつもりは毛頭ない。

 その信念だけは曲げることはない。



 「御料人、一つ訊ねたいのだが」

 「何にございましょう」

 「村上義清という男は、其方の父と如何なる間柄(あいだがら)であったか」


 咄嗟に出る条件反射。それ以上の発言について、晴信は思い留まってしまった。


 (海野平の合戦は、確か村上義清と諏訪頼重の二人が大将として参陣していた筈。義清(やつ)を知っていなくとも、噂くらいは耳にしたことがあるだろう)

 それでも、問い質す事に抵抗を覚えてしまう。それは何故か?


 《諏訪頼重への思いは全て、水に流してきた》

 問われるのは、それが虚言か否かということ。

 無意識のうちに、そう思い込んでいただけ(・・)なのかもしれない。

 


 晴信は俯き、御料人は目を細める。

 諏訪家として過ごした年月(としつき)に懐古の念を抱く様に、彼女は微笑んだ。


 「盟友(・・)と呼ぶべき御方でありました。

  時に碁を指し合い、共に語り合う仲であったと」

 盟友。それは信虎にとっても同じことが言えるだろう。それを壊してしまった己の責任をも露骨に感じてしまう。悪い癖だ。


 「それともう一つ、《不可思議な御方》であったと、父の口から聞いたことがございます」

 「不可思議......だと?」

 「はい。私にも意味は分からずじまいだったのですが.......」


 それはどういう意味だろうか。

 並の人間とは違ったものを持っているのか。それとも、超越した何かを備えているのか。

 いくら考えたところで、結論は出なかった。


 晴信は遂に御料人の目を見る。

 澄んだ瞳で見つめる彼女に対し、晴信は思わず言葉を漏らした。


 「かつての盟友を、儂は敵に回した。

  父上を裏切ってしまった。其方の父に対しても同じくそうじゃ。

  ただ、それでも其方は儂を信じてくれるのだな」


 「当然です、私は殿の妻にございますよ」

 あまりの即答さに少々驚いてしまう。

 この女子(おなご)には、いつも助けられておるな。

 晴信は息を吐き、悟った。


 「四郎」

 御料人の声に、晴信は振り向く。

 二人の(まなこ)に映るのは、四足歩行で近付く赤子の姿。

 まだ一歳にもならない、まだ首が座って間も無い息子のあどけない表情に、思わず笑みが溢れる。


 「こやつに、苦労はかけられぬな」

 そう言って、晴信は彼の頭を優しく撫でた。



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