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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百十七話 とある、老将

 「村上義清は代々に渡り高梨家と争いを続けておる。

  この機に乗じ、殿は敵の出城を攻める積もりなのであろう」

 「砥石城……か、あいわかった。

  話には聞いておったが、やはりそうなのだな」


 火に照らされた甘利あまり虎泰とらやすの表情は、血の気をも悟らせる程に真剣さを帯びていた。彼と対面する男は終始、口元を緩ませている。男の名は横田よこた備中守びっちゅうのかみ高松たかとし。晴信の父、信虎の代から武田家に仕えている老将。

 弓と矢に長け、足軽大将として甘利虎泰の備えとなり、これまで数々の戦功を挙げてきた。 二ヶ月前の志賀城攻めの際にも、甘利と共に上杉軍の撃退に大きく貢献している。

 

 晴信の砥石城攻略の話は、未だ家中にさえ広くは語られていない。その事実を知っているのは、晴幸(俺)含む武田家中の重臣数名のみ。その理由は、甘利が高松に向け口にした言葉にある。


 信濃の北に位置する高梨家と争っている今、今回はいかに気付かれずに城攻めの日を迎えるかにかかっていた。敵国の間者が紛れて居る可能性を加味すれば、故に晴信がわざわざ口にせずとも、如何に振舞えばいいかは自明である。

 

 「備中殿、くれぐれも無理をするな。

  其方はもはや自在に動ける身体ではなかろう」


 甘利の言葉を耳にした高松は口角を上げ、着物の袖を捲る。

 腕の太さが露わになると、甘利は溜め息を吐いた。

 齢六十にもなって、それほど強靭な肉体を保っているのは奇跡といえる。

 

 高松は近江国甲賀の出身で、元六角氏の家臣。

 彼の過去についてはさほど知らないが、高松が甲賀忍者・・・・の血を引く一族の可能性を考えれば、それなりに納得がいく。

 

 「がははは!!この横田高松、枯れ果てたと思われては叶わぬものじゃぁ!!」

 相変わらず五月蠅いじじいだ。高松の高笑いに甘利は耳を塞ぐ。甘利は鬱陶しさを覚えつつも、心の中で彼の普段通り・・・・さに安堵を覚えていた。

 いつもは笑顔で豪快な振舞いを見せる一方、戦となれば誰をも寄せ付けぬ真剣な眼差しを浮かべ、洞察眼と確実さが目立つ、まるで別人の様な姿を見せる。

 その様は、まさに戦を理解した老将というのに相応しい。

 甘利も、そんな彼を頼もしく思っているのは事実だ。


 「頼むぞ」

 「任せよ、如何なる御役目でも、必ずや成し遂げて見せようではないか」


 高松は静かに、されど威勢の良い返答の後、一本の弓を手に取る。何をする気かと思いきや、高松は庭へと歩を進め、立ち止まった。


 「……如何した、備中殿?」

 「甘利殿。其方には、殿が何を見て何を思い、何を目指しておられるのか分かるか?」

 


 高松は甘利に目を向けず、片肌を脱ぐ。そこに現れる筋肉質の身体。彼は矢を弓にかけ、構えの姿勢を取る。


 「殿の見ておられる景色、拙者には皆目分からぬ。しかし、殿の理想に御答えすることこそが、我ら家臣の務め。

  甘利殿、拙者は思うのじゃ。ただ浮世に流され続ける者共を導いてくれる御方を、我等は捜し求めていたのだと」



 その瞬間、放たれた矢は音を立て、数十メートル先の的を射る。




 「拙者はこのひと時を、幸せに思うぞ」



 高松はようやく、甘利に向け屈託なき笑みを見せる。

 戦の中に生き甲斐を覚えるとは、やはりこの男はとんだ戦馬鹿だ。

 呆れたように息を吐きながら、甘利は遂に顔を綻ばせるのだった。





 そんな二人の会話を、密かに物陰で耳にしていた

 真田幸綱(・・・・)は何も言うことなく、その場を静かに去るのだった。

知識無き転生者による、堅城攻略の策

雌雄を決する時は、静かに迫る。

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