表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第3章 第二の、転生 (1546年 2月〜)
115/188

第百十一話 二人の、転生者 (第3章最終話)

 一五四六年九月。


 紅葉が山道を彩る季節。

 そこに無心で歩き続けながら、小枝を拾う一人の男。

 片目には眼帯、頬には大きな傷。

 隻眼の男は不意に見上げ、目の前の存在に微笑みかける。


 「何をしておるのだ」

 「少しばかり隣村に用があってな。其方は薪を集めておるのか」

 「ああ、幾度も屈む御陰で、腰が痛い」

 「はっ、幾ら策士と言えど、老いには敵わぬと申すか。

  そうじゃ。後に山菜を其方へ届けよう」

 「忝い」


 は、男の背中を目で追う。

 俺と同じ境遇を背負う、もう一人の転生者・・・

 真田幸綱、彼が武田家(ここ)へ現れて半年が経った。

 今や例の一件から完全に回復し、剣豪・塚原(つかはら)卜伝(ぼくでん)殿に剣を指南して貰っているらしい。

 彼の持つ驚異的な回復力に、俺は影で感服していた。





 良し、こんなものだろうか。

 薪によって籠が満たされ、俺は元来た道を引き返す為に方向を変える。


 その途端、吹き抜ける突風。


 「っ......」

 木の葉が舞い、思わず目を閉じた。

 同時に、記憶の一片が蘇る。

 たった一月前に交わした幸綱との会話を。

 

 俺は静かに瞼を開ける。

 最近は、何気ないものにも既視感を覚えてしまうな。

 俺は立ち止まったまま、天を見る。

 あの日も今日の如く、よく晴れた日だった。



 幸綱は俺に全てを語った。どうやら第三のスキルは、触れた相手を主従関係に出来るスキルで間違いはなかった。

 幸綱によれば、《相手に触れながら命令を一つ語り掛ける》ことが、スキルの発動条件だという。スキルの効果は一人から周囲に伝染してゆき、その効果が切れるのは命令を達成した時、もしくは主君もといえる幸綱の死によって為される。またスキルを同時に二人以上の人間に使用する事や、直接死に関わる命令を掛けることは不可能だという。だが、婉曲的に死を迎える可能性はあるみたいだ。


 様々な情報を一気に投げつけられたような気分だったが、大方予想のついた事柄ばかりであった為、理解に苦労はかからなかった。

 

 ただ一つだけ、気がかりな事があるとすれば、高田のこと。

 幸綱(かれ)スキルは所謂洗脳の一種であり、スキルの発動中は命令に背くことが出来ない。しかし、あの時術(スキル)で視た高田のように心で自我を保つことは可能だという。

 ただ身体が思い通りにならない事によって、自我を保とうとする事がどれほど苦痛なのかは自明。


 もしかしたら、高田の死因は我々にあるのではないだろうか。

 あの日からそう思えて仕方がなかった。


 

 「幸綱殿、儂はいつ死ぬ」

 俺が幸綱に訊ねたこと。

 それに対し、幸綱は目線を外に向けたまま語る。


 「案ずるな。まだ十年以上先のことじゃ」



 今思えば、答えを聞いたところで意味は無かった。

 《寿命》と《死》の違いは、しばしば誤解される。

 《天寿を全うするまでに残された期間》、それが寿命。幸綱の見たもの、それは単なる寿命に過ぎない。

 仮に俺がここで腹を切って死ねば、その(スキル)の結果に意味は為さなくなる。

 

 明日さえ不明瞭な乱世。

 この世界において、我々が得た力は非力なものだと悟る。

 歩みながら、眉間に寄る皺。

 俺達は、一体何を信じるべきなのか。

 唯一分かるとすれば、存在することが証明となる事柄だけ。一つ挙げるなら、今此処に生きていること。限りある命を削り、守っていること。

 未来ではそんなことに疑問を持つこともなかった。


 


 我々に必要なのは知識だけではない。一人では生きられない我々を辿り着くべき場所まで導いてくれる、血濡れた己が身を洗い流してくれる仲間の存在。

 俺にとって幸綱は、そんな存在に成り得るだろうか。





 (スキル)を使うのは、我々の出現によって狂い始めた歴史を元の軌道に戻す為だと、幸綱は口にした。

 しかし、我々はただ己の(スキル)に振り回されているだけなのではないか?

 それは、本物の晴幸さえ同じこと。

 得体の知れない力に縋るのは、あまり良いことではないのかもしれない。







 日暮れが迫る。

 屋敷に戻った俺を待つのは、いつもの光景。

 一人の女性に微笑みかけ、俺は床の間に腰を下ろす。


 「晴幸殿、御城には向かわぬのですか?」

 若殿(かのじょ)の声に、俺は頷く。


 「ああ、今日は此処に居る。

  久方振りに、其方の飯が食べたくなったものでな」


 若殿は予想外の言葉に戸惑いを見せつつも、頬を緩ませる。

 去った若殿に目を向けることなく、俺は縁側に留まる蜻蛉に目をやる。

 






 其方は儂が憎いか?

 こんな境遇に落とされた事を、恨んでいるか?



 微かに聞こえた声に、俺は微笑む。








 恨んだところで意味はない。そうだろう?

 途端に、脳裏に走る雑音(ノイズ)は、原型を無くしてゆく。


 俺は立ち上がり、縁側まで歩む。

 背筋が凍る心地を覚え、俺は息を吐く。

 今宵は、肌寒くなりそうだ。

 そう思いながら、俺は縁側の障子を

 ゆっくりと閉めるのであった。




 第3章 完

これにて第3章完結です。ありがとうございます。

第4章は歴史を大きく狂わせる出来事が、俺(晴幸)と幸綱に降りかかります。


第3章完結のあとがきを、後ほど活動報告にて更新します。そちらも是非お楽しみに。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ