表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第3章 第二の、転生 (1546年 2月〜)
104/188

第百話 緊迫と、融和

お待たせしました、記念すべき百話目です。

 誰が見ても、真っ先に思い付く熟語は〈奇妙〉だろう。

 木々を揺らす東風。西の空が赤く染まり始める頃合いに、上空を飛び交うからす

 当に今の己の心を表象するかの様な、不思議な感覚に溺れた。

 胸を覆い尽くす、言葉には表し難い感情。

 何かがあった?じゃあ何が?

 所詮は違和感でしかない。言うなれば、不安に似た何かである。

 

 「何故、儂はここに……?儂は……何を……」

 俺は声の方を向く。

 先程とは打って変わった、震えた声と青ざめた表情を見せる上原がそこにいた。

 地に落ちた刀は夕日に光り、上原のまなこに光を与える。


 「貴様……っ、しらを切るつもりか……!」

 「良い、下がれ」

 俺は後方の男を止め、立ちあがった。

 かれの言葉に多少の苛立ちを生むが、何も知らなければ仕方のないこと。

 「っ!」

 途端に上原の瞳孔が開く。俺が近づいてくる事を察したのだ。

 三歩近づく度に、一歩退く上原を捕らえる様に、俺は手を伸ばす。

 


 周りに立つ者はきっと、驚嘆しただろう。

 己を殺そうとしたはずの男に抱擁・・する馬鹿が、何処にいるのだろうか。



 何もない、何もなかった。きっと悪い夢でも見ていたのだろう。

 そう言い聞かせる様に、耳元に囁き続けた。

 次第に上原を蝕む緊張と力みが抜け、目を細めた上原は俺に寄りかかる。


 男一人の重み、微かな泥の臭い、俺はゆっくりと彼の背を摩る。

 スキルが解けた後は、その間の記憶は消えるらしい。

 確かに、自我喪失による行動など、記憶に残らない事の方が多い。

 ただ、上原が失った記憶はもう一つある。幸綱が彼にスキルを使ったことだ。


 胸の苦しさを覚える。俺にまとわりつく、不治ともいえる病。

 これまで幾度と感じた、ぶつけることの出来ないもどかしさを今も抱えている。

 言えないということが、これほどまでに辛いものだと知っているのに。

 




 その時、草むらから草の擦れる音を聞く。

 その音に俺は現実へと引き戻された。

 何かが来る。

 俺は眉を顰め、その方向を見る。


 「上原様!!」

 途端に草を掻き分け現れた男は、上原の名を叫ぶ。

 安堵の表情を見せる上原につられたのか、俺は息を吐いた。


 上原の事を知っている、また現れた方角からして、この男は恐らく内山城からの使者だろう。

 安堵が不安へと変わる前に、何があったのかを訊ねる。



 「申し上げます!

  内山城を攻め立てた敵勢が再び侵攻を始めた模様!!

  既に志賀城へと向かっている様です!!」

 「っ!」


 全員の表情が強張る。俺は驚きつつも、心で平静を保とうと努めた。


 「まさか、城が落ちたのか?」

 問いに目を逸らす男。

 その意味を、其処にいる誰もが悟った。


 まさか

 上原のスキルが解けたのは


 「幸綱……!」


 俺は歯を食いしばる。

 そんな筈はない。

 こんな所で、奴が死ぬ訳がない。

 俺のスキルは、此処まで不正確なものだったか?


 違う、信じたくない訳じゃない。何かがおかしい。

 何だ、何が俺をここまで慎重にさせている?

 落ち着け、考えろ。


 俺は顎に手を当てる。

 俺には此処までの経緯が、全てを物語っているように思えた。


 「……仕方がない、こうなれば内山城は捨て、志賀城へ向かうのが得策じゃ!」

 「お待ちくだされ」

 

 全会一致の兆しが見えたその時、俺は彼らの決断を遮った。

 俺は男の方を向き、問う。



 「其の方、その報告は、誠に信用できるものか?」


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ