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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第3章 第二の、転生 (1546年 2月〜)
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第九十六話 孤独、進行

 幸綱が内山城を訪れる数刻前。

 上野から出陣を為した援軍は、列を為し山道を進んでいた。


 「……まさか、籤引くじびきとはなぁ」

 上杉家家臣、金井かない秀景ひでかげは男を横目に手綱を動かす。

 目指すは唯一点のみ、大軍は歩む速度を落とさない。



 此度の憲政の決定に反論の余地を与えられなかった業正は、一人城に残る。その中で告げられた突然の決定に急遽(きゅうきょ)(くじ)()きが行われ、先鋒に選ばれた上杉家家臣、倉賀野為広の名代として、彼の家臣である秀景が援軍を率いる事となったのである。

 

 生ぬるい風が、木々を揺らす。

 統率する秀景の心情から溢れ出す不安・・を、彼は決して口にすることは無い。

 長丁場となりつつある戦に、長野業正の出陣拒否。当に《あの時》と似た状況。

 其れこそが、秀景が抱える不安・・の正体である。


 


 「そう言えば、内山城が武田の手に落ちた様じゃな」

 明後日の方向を向く男の瞳に映る、内山城の姿。

 峠(山頂)となる地を踏みしめた男と秀景は立ち止まった。



 「あの城、我らが奪えばどうなる」

 「それはならぬ。

  笠原殿の援軍として参った我らが奪えば、両家の関係に溝が出来てしまう」

 「ならば笠原家が城を奪い取る様を、黙って見ておれというか」


 突然の声色の変化。男の言葉に生じる違和感。

 それは秀景の中に芽生え、次第に大きくなってゆく。


 「我等の身を守る事こそが、第一であろう」

 「高田、殿?」

 その男、高田たかた憲頼のりよりは不敵な笑みを浮かべていた。


 好機だ、此れ以上の好機は無い。

 今、敵の目は志賀城に向いている。ここで笠原殿の口を塞ごうが塞ぐまいが、我々は最小限の被害で城を得られるのだ。


 

 「まさか、初めからそのつもりであったというか」

 「全て、業正殿の言葉じゃ」


 業正。その名に秀景は口を噤む。


 出陣前、業正は高田に言い伝えていた。

 此度の戦は、我が身を守ることに専念すべきだと。

 〈其方も思うていたのではないか?〉

 高田の言葉に、秀景はひどく動揺する。



 「どうする、金井殿。

  此処で奪えば、其方が城主よ」


 城主。鎧を纏う身体にじとりと汗が滲み、秀景は拳を握る。



 「如何致しましたか、金井殿」

 後方に続く大軍から発される声。

 それを遮断するかのように、秀景は俯く。




 (この男の言い分も、一理ある)

 そう思った、いや、そう思い込もうとした。

 丁度いいのかもしれない。此度の憲政の決定に、疑問を感じていたのは確かだ。

 

 秀景は再び城に目をやる。

 規模の小ささに反した壮観さが、彼の心を打つ。

 あの上に、立てるならば。

 




 秀景は振り返る。数千の兵を眺め、その壮大さを実感する。

 今、秀景わしは皆の命を抱え、此処に立っている。

 その命を救うも救うまいも自由だ。そうだろう?

 秀景は決意した様に、大きく息を吸った。



 「我らの目指すべきは内山城!皆の衆、今戦、勝ちたくば付いて参れ!!」

 一瞬の咆哮の後、秀景たちは突如として進路を変え始める。

 彼等の矛先は、内山城へと向けられていた。

 





 【内山城天守】


 「それで、真田殿……先程は何を……」

 「いえ、大したことはしておりませぬ」


 内山城の守護を任された幸綱は、指示通り城内に残る。

 そんな幸綱は唯一人、〈居心地の悪さ〉に襲われていた。それは此処に残る者が、己が見せた行為に対して動揺を隠せていない事からも分かる。転生者以外にちからの説明が出来ない以上、所謂いわゆる《危ない》奴だという印象を持たれるのは当然だろう。

 ちからを使わずとも、そう思われている事は自明。


 このちからを使う度に、己の孤独さを痛感する。

 相手を掴まずともちから自体は発動できるのだが、その効力は微々たるもの。

 〈頭に触れる〉ことこそが、最も術の効果を生み出すというのは、過去の経験から明らかなのだ。

 


 仕方がないとしても、やはり使うべきでは無かったか。

 他人の思考を操作コントロール出来ることが、どれ程恐ろしいことかを理解している自分にとっては、至極厄介な力でしかない。

 そのせいで、私はー


 幸綱は首を振る。

 忘れろ。ここに来るまでの事は、全て過去に葬ってきた筈だ。

 幸綱は忘却に縋ろうと務めた。



 その時、天守に一人の男が飛び込んでくる。



 「お伝えします!!

  敵の援軍が、内山城こちらに向かっております!!」

 「っ!?」



 突然の報告に、城内に残る者は動揺を露わにする。

 当の幸綱は、その言葉に立ち上がった。


 「......それは誠か?」

 「は!急遽、志賀城から進路を変えた模様!」


 どういうことだ、此れ程の防衛線を引いたというのに。

 もしや、此方が手薄なのを敵に知られたか?

 いや、そんなことはどうだって良い。

 その言葉が本当なら、間違いなく我等は総崩れだ。


 幸綱は眉に皺を寄せる。

 考えろ、どうすればいいか。



 「真田殿!!これはどういうことだ!?

  援軍は来ぬと申したではないか!?

  どうしてくれるのだ!このままでは我等は全滅じゃ!!」


 一人の男が幸綱の前に立ち、怒りの表情を見せる。

 幸綱は何も言えぬまま、歯を食いしばる。



 その通り、内山城ここに援軍は来ない。

 それが史実通りなら、だ。


そこにあるのは、史実と異なる現実だけ。



次回、幸綱の決断。

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