94話 回想2:質問/回答
「は?」
思わず口から出てきた。
「何言ってんの?」
「お前らが破壊して回ってるせいで、この世が乱れてるんだろうが」
敵の口からは同じような事が繰り返し出てくる。
「化け物の巣を破壊して、それでどれだけ周囲が変わると思ってる。
今まであったものすら消えるんだぞ」
「それで良くなってるんだけど」
「消えてるんだぞ!
今まで生きてきた者もいなくなるんだぞ!
非道な事をしておいて、開き直るのか」
「だって、今までより良くなるんだぞ。
それの何が悪いって……」
「そうやって開き直って、お前らは自分らを正当化するんだな!
消えていった者達の事など省みないんだな!
それで良いと思ってるのか────」
そこまで言った敵の声を、マキが放った銃弾が止めた。
パン、という音と共に、男のもう一つの膝が弾ける。
「ぎゃああああ!」
「良いに決まってるでしょ」
マキははっきりと言い切った。
「今まであった悪いものが消えて無くなって、代わりに良いものが出て来る。
何が悪いの?
あんたら、悪いものを悪いままにしておきたいわけ?」
「お前らが消していく事を問いただしてる……」
パン。
今度は足首の一つが吹き飛んだ。
「聞いてるのよ。
さっさと答えなさい」
「ぐあっ……」
パン。
更にもう一つの足首が飛んだ。
「悲鳴なんていいから、答えなさい」
「おい、待て、少し落ち着け……」
パン。
今度は肘が吹き飛んだ。
「あんたがそうやって自分に都合のいい事ばっかり言ってくってんなら、こっちにも考えがあるからね」
「ま、待て……」
パン。
もう一つの肘も撃ち抜かれる。
「ひっ……」
「だいたい、相手の言う事聞かないで、自分の言いたい事ばっか吐き出し続けるってどういうつもり?
相手の意見もきかず、一方的に言いたい事を言うなら、こっちだってそれなりの態度をとるしかないじゃない」
「わ、分かった、分かったから……」
パン。
掌に穴があいた。
「だいたいね。
こっちはね、あんたらが残した化け物どものせいで苦労してるんだし。
破壊しておけば余計なものも残らないでいいっていうのに。
なんでそんなものを後生大事に残すってのよ。
ふざけんのも大概にいてよね」
パン。
もう一つの手に穴があく。
敵は悲鳴をあげるが、もう何も言おうとはしなかった。
「だいたい調和って何よ。
あんたらがそうやって消さずに残したもんがどんだけ迷惑ふりまいてると思ってんの。
悲惨な状況に陥ってる人達が苦労してるってのに。
それを解消しないで残すってどういうつもり?
それの何が良いの?」
「…………」
「言いたい事は言うけど、こっちの言う事には答えないつもり?
言っておくけど、もう撃ち抜く所なんて命に関わる所くらいしかないからね。
次があるとは思わないでよ」
「……………」
「で、質問の答えは?」
「わ、分かった、分かった!
俺が間違って……」
男の腹をマキが足で思い切り踏みつけた。
敵が悶絶する。
「助かりたいからって都合のいいこと言ってんじゃない」
「ひい……」
「さっきまで威勢よく言いたい事を言っておいて。
だったら根性見せなさいよね」
「だから、俺は」
「あのね、あんたの正義とかそんなのどうでもいいのよ。
こっちはそんな事言ってるんじゃないから」
「…………」
「こっちはね、あんたらの目的とか聞いておきたいの。
どっちが正しいかなんて聞いてないから」
「…………あ、ああ」
「それにね、正しいか悪いかなんて言うまでもないでしょ」
マキは自信たっぷりに言い放つ。
「間違ってるのも悪事を働いてるのもそっち。
こっちはあるべき正しい事をしてるんだから」
敵はもう何一つ言い返さなかった。
言えば間違いなく撃たれるのだから。
それからの質問は順調に進んでいった。
出血多量で敵が死なないように、傷口を気力の炎で燃やして止めたのも功を奏したのだろうか。
マキの質問に敵は素直に答えていった。
「お前らが邪魔だったんだ」
彼等は封印派の者であり、上層部より指示を受けて行動をしていた。
目的は一つ。
可能な限りヨドミを破壊している者達を抹殺する事。
今までもそうだが、これ以上の破壊が世界にどれだけの影響を与えるか分からない。
最悪の事態になるかもしれない。
それを防ぐ為に、今回の行動がとられた。
ヨドミの中で抹殺が。
現実において殺してしまったら後始末が大変になる。
どれほど裏から操作しようと、警察などの動きを全て防げるわけもない。
それに、どうしても目撃者などが出てきてしまう。
封印派への注目を集める可能性は出て来る。
そうなった場合の説明が困難なのは論をまたない。
化け物退治とヨドミの破壊による周辺への影響など、誰が信じるというのか。
そのため、ヨドミの中において全てを片付ける事となった。
そこで行われた事ならば決して外に出る事は無い。
だからこそ、内部に突入出来る者達が、ヨドミの破壊に赴いた破壊派の者達を始末していく事になった。
ただ、既に破壊されてしまった場合はどうしようもない。
その場合は、出来れば破壊派の者達を少しでも倒す事で今後の被害拡大を防ぐ事が求められた。
また、内部での始末が出来なかった場合、出て来た瞬間を狙って攻撃する。
出来ればそうならないのが理想だが、今後の被害拡大を考えれば多少の問題はやむをえない。
それが封印派の考えだった。
「なるほどねえ……」
話しを聞き終えたマキは呆れてしまった。
「そこまでするんだ」
マキからすれば、そしてカズヤにしてみても、そこまで封印派がやるのが理解出来なかった。
そもそもそこまでして変化をさせないでおこうというのが分からない。
「そこまでして最悪の状態を続けたいの?」
「それが最悪だと誰が決めた」
おそるおそるであるが、敵はそう言い返してくる。
確かに簡単に決められる事では無い。
正邪善悪というのは、確かにあるのだろうが誰かがこうだと決めるのも難しい。
また、それらがどこかの誰かの都合で勝手に歪曲される事もある。
だが、
「あんたらが決める事でもないでしょ」
封印派がやってるヨドミの封印とて彼等の考えによって行われてる。
それが最善だと思ってるのは封印派の方だ。
「それとも、家庭が壊れ、生活がたちいかなくなってたりするのが良いってわけ?」
「それを、我らが勝手に決める事など……」
「私がごめんよ」
相手に全部を言わせずにマキは言い切った。
「親父が飲んだくれてたり、母さんが外で男を作ったり、兄貴が家から帰らなくなってヤクザになってたり。
そんなののどこが良いのよ」
「何の話だ……」
「私の周りであった事よ。
全部ヨドミのせいだった」
敵はさすがに驚いていた。
カズヤも初めて聞いた事なのでびっくりした。
「調和だなんだって言ってたけどね、あんたらがそうやって決めてるのはそんなものよ。
私はそんな状態が続くなんてまっぴらよ。
それが消えてなくなるってんなら、喜んで消す」
「だが、それを克服するのが……」
「だからヨドミを破壊するんじゃない。
何をやっても化け物に邪魔されるんだから」
「だが、化け物に取り憑かれるのはその者にも問題があってだな」
「あんたらが勝手に決めつけないでよね」
「化け物が取り憑くのは向こうの勝手。
こっちがどうこうって問題じゃないわよ。
それに努力っていうなら、化け物倒してその巣を潰すのも努力よね。
何が悪いの?」
「…………」
「はいはい、そんなにらみつけない。
言い返せなくなってるのは分かるけどね」
言いながらマキはカズヤに声をかける。
「それ、こっちに貸して」
「これって、化け物ですか?」
「そうよ。
こいつに取り付けてやって」
言われてカズヤは言いたい事を理解した。
敵の方は顔色を変えていく。
「まて、どうするつもりだ」
「別に。
そこまで言うなら自分で証明してもらおうかなって思っただけ」
敵に化け物をくっつけながら言う。
「あんたの言う通り取り憑かれるほうに問題があるなら、あんたにも証明してもらいましょう。
今までの行いが正しいなら、取り憑かれる事もないでしょうからね」
「よせ、辞めろ!」
悲鳴を無視してマキは化け物を男にくっつけた。
「ま、取り憑かれても余所に泣きついたりしないで、自分でどうにかしてみてよ」
そう言ってマキは男を再び車に引き込んだ。
そのまま車を発進させていく。
背後で男がみるみる憔悴していくが気にもしない。
「あの、どこへ行くんですか?」
車は市街地を抜けて人気のない方へと向かっていく。
いったいどこに向かってるのだろうとカズヤは尋ねた。
「まあ、ちょっと山奥までね」
「はあ」
「こいつがすぐに仲間に泣きつかないように、遠い所にでも連れていってあげようかってね」
「なるほど……」
「ま、あとは自分の努力でどうにかしてもらうわ。
そういう考えだっていうなら、最大限に尊重してあげたいし」
「はあ……」
何とも言えずカズヤは曖昧な返事をした。
運転席でマキはため息を漏らしながら呟く。
「努力は大事だし、必要なのは分かるのよね」
「ええ、まあ」
「でも、努力を無駄にされてくんじゃ意味無いし。
そもそも化け物なんて努力でどうにかなるものでもないんだし」
「ですね」
実体験からそう思える。
自分がどれだけ努めてもどうにもならない事もある。
「それでも、そんなのが良いって言うんだから仕方ないわ」
「まったくです」
後ろでもがいてる敵を見ながらカズヤは頷いた。
化け物から解放されて、カズヤは心身共に軽くなったのを感じた。
今までの重苦しさがなくなり、気持ちも体も頭も快調に動くようになった。
それまで、いかに無駄な努力を強いられてたのかもよく分かる。
もちろん、何かしら必要なものを培ったり身につけたりするための努力は必要である。
それを否定するつもりはない。
しかしそれを理由にして無駄を強いられたいとは思わなかった。
「後ろの人がどれだけがんばれるか、楽しみよね」
「そうですね」
これまた頷いていく。
「自分で言うくらいなんだから、それこそ自分の努力でどうにかするんでしょうね」
「頼もしいわ。
敵で無ければ最高だったけど」
車を走らせながらマキはうそぶいた。
三時間後。
県境の山の中に入った車から二人は敵を外に出した。
素っ裸で化け物に取り憑かれたままの敵を連れ、道路から外れた山の中に放置していく。
目隠しも手足の戒めもそのままだ。
本人の努力や才覚がどうであれ、これではどうにもならない。
それでも構わずそのまま放置していく。
運が良ければ助かるかもしれないが、その可能性は極めて低いと言えるだろう。
それが狙いであるし、むざむざ生かしてかえすつもりもない。
今回の事で封印派とは相容れないのははっきりもした。
ごくわずかであっても生還する可能性を与えてるだけまだ甘いとすら思っていた。
それよりも今後の対策である。
「戻ったら、皆に知らせないとね」
そういうマキの横で、カズヤは無言で頷いた。
化け物だけではなく、封印派まで相手にしないといけない。
状況が余計に面倒になっていく。
どうやってこの状況を切り抜けたらいいのか、まだ何にも考えが浮かんでこない。
何より、
「ノボルさんもいないですしね」
その事が痛い。
戦力として、という即物的な理由もある。
だが、何よりも大事な者を失ってしまった喪失感が大きい。
「そうね……」
マキの声も、先ほどまでと違って落ち込んだものに聞こえた。
続きは明日の17:00予定。
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