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【打ち切り】クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-  作者: よぎそーと
八章

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72話 回想:そこかしこ

 チンピラがノボルに気づいたかどうか。

 それは分からない。

 何せ化け物が取り憑いている状態だ。

 ノボルが近づけばすぶに境界となる。

 境界の中では一般人は何が起こってるのか認識出来ない。

 出来ても記憶に残る事はほとんどない。

 だから、接近してきたノボルが殴りかかってきた事をしっかり理解出来たかは謎のままになる。



 それを見ていたカズヤは呆気にとられた。

 何も言わず、何の素振り見せずに殴りかかったのだから。

「え……?」

と言って絶句するしかない。

 彼らに化け物が取り憑いてるのは分かるし、どうにかせねばならないとも思う。

 だが、それは化け物に対してであって、取り憑かれてる者ではないはずだった。

 カズヤはそう思っていた。 

 だが、ノボルは遠慮も容赦もなく取り憑かれてる人間を殴りつけていった。

「嘘でしょ」

 思わず呟いたが、目の前で展開される出来事は何一つ嘘のない現実だった。



 最初の一人に拳をぶちこんだノボルは、すぐ近くにいる者に蹴りを入れる。

 両者ともその一発で地面の上をのたうち回る事になっていった。

 さすがに他の四人も何が起こったのがすぐに察していくが、ノボルはもっと早い。

 もう一人を一撃で沈める。

 チンピラは最初の半分に減っていた。

 それでも三対一で数の上では不利である。

 最初の奇襲の効果ももうない。

 不意を突かれた人間はかなりもろいからここまでは上手くいった。

 なのだが、これから先はどうなるか分からない。

「何すんだこらぁ!」

と威嚇してくるチンピラ共はナイフを取り出してくる。

 そういった用意をしっかりしてるあたりが、彼らの普段を物語っている。

 そんなものが必要な所にいるのだろう。

 そんな相手にノボルは、気力を放っていく。

 威力・範囲を拡大した衝撃を。

 下手すれば拳より威力のある攻撃がチンピラ共を遅う。

 悲鳴すらあげる事も出来ずにチンピラ共は宙を舞う。

 アスファルトから靴底が離れ、三メートルほど飛んで背中から着地する。

 何とか立ち上がってくるが、覇気はない。

 そもそも意識があるのかも悩ましい。

 確かに言葉を叫び、動き回ってくる。

 しかし、境界の中において人間の意志がどれほ働いてるのかは分からない。

 この場においてまともに動いているという事は、普通の人間ではない事を照明してるようなもの。

 それがカズヤやノボルのように特殊な能力を得たからなら良い。

 だが、チンピラが得ているのはそういったものではなく化け物である。

 悪い意味で何かが違うとしか考えられなかった。



 だからと言ってノボルが容赦する事もない。

 なおも立ち上がってくる化け物付きチンピラに向かっていく。

 怪我のせいか、動きが鈍くなってる所に近づいていき、化け物を狙っていく。

 当然チンピラは抵抗しようとするが、今度は体捌きと格闘技術を用いて体を絡め取っていく。

 柔術や合気道に近い接触・掴み合ったところから相手を無力化していくやり方で。

 腕を押さえながら相手の背後に回る要領で攻撃が届かない位置に入り、それから気力を用いていく。

 文字通りの接触距離から化け物めがけて気力の炎をあげていく。

 避ける事も出来ず化け物は燃やされていく。

 それは同調してるチンピラにも少なからぬ損傷を与えていく。

「ひぎいいいいいいいいい!」

 何がどう伝わってるのか分からないが、化け物が感じてる痛みをチンピラも受け取ってるようだった。

 化け物が燃えてる間も、燃え尽きた後ものたうち回っている。

 それでもノボルは気にせずに化け物を燃やしていく。

 倒れたりふらついている他の連中も同じ事になった。

 化け物を倒せば取り憑かれていた者も悲鳴をあげる。

 どれほどの苦痛を受けてるのか分からないが、地面の上を転がるだけで起き上がってこない。

 最後の一人が倒れ、境界が解除されてもそれは変わらない。

 倒されたものは正気を失った目と顔で転がっていた。



「おまたせ」

 化け物を倒したノボルはそう言ってカズヤを促す。

「行くぞ。

 こっちの方向に何かあるかもしれん」

 そこには、倒れてる者共を気にかけてる様子はこれっぽっちもなかった。

 むしろカズヤの方が気になっている。

「あの、これ……どうするんですか」

 六人のチンピラを指して聞く。

 応えは、

「いいんじゃない別に」

 淡泊なものだった。

「取り憑かれてるならかわいそうだけど、同調してたようだし」

「かなり苦しんでるみたいですけど」

「それだけ化け物に染まってたんだろ」

「染まってる?」

 思わぬ言葉だった。

「取り憑かれててもな、不調になる事も無い奴もいるんだよ。

 むしろ化け物と同じような行動をとったりしてな。

 波長があうんだろうな」

「そうなると、どうなるんですか?」

「そこにいる連中みたいになる」

 言ってのたうち回る連中を眺める。

「体も中身も化け物とつながるんだろうな、こうやって化け物を攻撃すると取り憑いてる方も痛みを感じるようだ」

「そこまで取り憑かれるもんなんですか?」

「そういう場合もあるよ。

 取り込まれてるっていうか、染まってるっていうか。

 こうなると、もう人間じゃなくて化け物もみたいなもんだ」

 こういう状態になってるのを同調とも言っている。

 取り憑かれてるだけ、操られてしまってるというのではない。

 自らすすんで化け物に成り下がってるようなものだった。

「もうどうしようもない。

 そこまで行ったなら、一緒に片付けるしかないわな」

 救いようがないのだ。

「中には化け物になる奴もいるし。

 こういうのに遠慮や躊躇いなんかしちゃ駄目だ。

 人間と思ってると足下すくわれる」

「そういう事もあったんですか?」

 はっきりと言い切るあたり、かつて何かあったのかもと思った。

「まあな」

 予想は間違ってなかった。

「化け物になっちまった人間もいる。

 元が人間だからって躊躇ってたら死ぬ。

 下手な情けをかけたりしてられないぞ、そういう奴が相手だと。

 優しさや理想なんぞクソの役にも立たないからな」

 何があったのかは分からないが、そう言うしかない出来事があったのだろうと思った。

 そうでなくても、人の情けや優しさがすがれるものでも頼れるものでもないのはカズヤもよく分かってる。

 化け物に取り憑かれてる間に起こった様々な出来事が教えてくれた。

 下手な情けや同乗など何の役にも立たないどころか、むしろ仇になってかえってくるという事も。

「でもまあ、こんなのがいるってんだから、こっちで正解なんだろうよ」

 確信に満ちた声をノボルが発していく。

「同調する奴がいるってんなら、それだけのものがあるはずだからな」

 言われてカズヤも頷く。

 指示機は先ほどからずっと一つの方向を示し続けている。

 ノボルの言うとおり、この先に何かがあるのは確実だった。



 良くも悪くも似たような出来事は重なって発生する事がある。

 化け物と同調してた連中を倒してほどなく、ノボルの携帯電話が鳴った。

 それも何度か。

 その都度ノボルは電話を手に取って短くやりとりをしていく。

「なんだかなあ……」

 苦笑気味に呟く。

「学校とかお母さんの職場とかでヨドミが見つかったって」

 やはりあったのかと思った。

 ただ、意外とは思わなかった。

 やっぱりあったのか、とそれが当然のように考えた。

「こっちも早く見つけないとな」

「そうですね」

 このまま放置するわけにもいかない。

 さっさと見つけて片付けていきたかった。



 それから二十分後、カズヤとノボルはこの場にあったユガミを発見する。

「まあ、そこかしこにあるもんだ」

 続けて発見された事に驚くやら呆れるやら。

 そんなノボルにカズヤも「まったくですね」と頷く。

「そんだけ毒されてる人がいるって事ですか?」

「だろうな」

 でなければこれほどヨドミが存在するわけがない。

 嘆いても仕方ない事実である。

「さっさと片付けようや」

 どうにかしたいなら、その言葉通りにがんばるしかない。

「面倒ですね」

「面倒だな」

 やるせないのは止められない。

「でも、何とかしていこうや」

「はい」

 他に選ぶ道はなかった。

 続きは明日の17:00予定。

 誤字脱字などありましたら、メッセージお願いします。

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