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6話 調査 → 境界

 何かが接近してくる気配を感じていた。

 物音が聞こえるわけではないが、確かな存在感を感じる。

 気力を用いて周囲の状況を掴んでいく。

 可能な限り広範囲に張り巡らされたそれは、何かが触れれば即座にカズヤに伝達するようになっている。

 さほど持続はしないが、効果範囲は探知機よりは広い。

 こうした突発的な出来事にならば十分に役立つ。

 必要なのは広い索敵範囲である。

 それも数分で終わる戦闘で用いる事が出来れば良い。

 持続時間は必要なかった。

 その結果はすぐに伝わってくる。

 効果範囲に入った相手が、家と家の間を通って接近してくる。

 まさかこの近隣の住人と言う事もないだろう。

 それらがやってくるのを待つ。



 壁の上を伝ってきたと思しきそれらは、現れるとすぐにとびかかってきた。

 気を放っても良いのだが、まずは手に握った塩をかけて牽制する。

 広く拡散したそれは、飛び出して来た三体を包んでいく。



 ぎしぇええええええええええええ…………!



 悲鳴が静寂をやぶる。

 声とは違った異質な何かが、振動として体全体に伝わってくるような感覚をおぼえる。

 全身を蝕む痛みに、異形の存在も痛みをおぼえてるようだった。

 この者達に、生命体が持つ痛覚が存在してるのかは分かってないが。

 だが、体勢を崩して路上に落ちた化け物どもは、更に強烈な苦痛をおぼえて悲鳴をあげていく。

 周囲に振りまいた塩の中に突入したのだ。

 無理もないだろう。

 身もだえるそれらは、のたうち回ってその場から逃げようとする。

 冷静にその姿を見ていたカズヤは、化け物が先ほど遭遇したのと同じような姿をしてるのを確認する。

(やっぱり、同じ所から出て来てるのかな)

 その可能性はある。

 同じ本拠地から出て来る化け物は、姿が似通う事が多い。

 そうでない場合もあるが、大まかな特徴は共通するのがほとんどである。

 倒れてる者達には、先ほど見た赤い人影と似たような部分が多い。

 個体差はあるかもしれないが、ぱっと見で違いを明確に指摘出来るほどではない。

 まず間違いはないだろう。

(だとすりゃ)

 この近くに本拠地があるはず。

 遭遇間隔が狭まってるのを考えれば、数百メートル以内に存在してるかもしれない。

 何キロも離れてるとは考えにくい。

(探す手間は省けるか)

 代わりに別の手間が発生する。

 まだ横たわってる人影たちに近づき、これからの事を考える。

 本拠地を見つけ、片付ける。

(徹夜かなあ……)

 やるべき事を放り出すつもりはないが、心身への負担がきつい。

 出来ればもうちょっと楽をしたいものだった。

「ま、いっか」

 これっぽっちもそう思ってはいないが、口ではそう言っておく。

 どのみちやらねばならない事なら、せめてどこかでやる気を奮い立たせねばならない。

 頭も気持ちもそう思ってないが、だから言葉だけでもと声に出していく。

 効果はさしてないが、ほんの少しは前向きになれそうな気がした。

 そう思いながら手刀を叩き込んでいく。

 先ほどと同じように、中心となる核を破壊し、化け物を消していく。

 悲鳴が消えて静けさが戻ってくる。

 消え去っていく化け物を見返すことなく自転車に戻り、探知機に目を向ける。

 それは消えていく化け物と、それが来た方向を交互に指している。

 再び自転車に乗ったカズヤは、その針を見ながら化け物の来た方向へと向かっていった。

 完全に化け物が消滅し、針が一つの方向を示していくのを見ながら。



 先ほどよりは速度を落として自転車をこいでいく。

 壁を伝ってやってきたので、やってきた道をたどるのが難しい。

 可能な限り反応のある場所の近くを走るようにしてるが、それでもある程度の距離を置く事になる。

 見失わないように注意をしながら、反応を辿っていく。

 時々反応が消えて針が方向性を失ってくるくる回る事もある。

 その都度道を戻ったり別の方向から回り込んだりしていく。

 規則正しく動き回ってるわけではないので、道順に一定の法則性がないのも混乱を増やす。

 それでも確実に足跡を見つけて出発点へと向かっていく。



「これか」

 到達したのは、何の変哲もない一般的な家屋だった。

 それほど古いというわけではないが、最新というほど新しくはない造りである。

 二十年から三十年ほどは経ってるだろうか。

 小さいという程ではないが、大きいという程でもない。

 ごく普通の家である。

 だが、探知機の針は、その家を指している。

 念のために周囲を回ってみたが、そこからぶれる事はなかった。

 間違いなく、この家が本拠地になってるはずだった。

 そのせいか、何となく雰囲気が悪い。

 どこがというわけではなく、全体的に落ち込んでるような、くすんでるような印象があった。

 その周囲だけ空気が濁ってるような気がする。

 まだ境界にもなってないのにこんな調子なのだから、結構酷い有様になってるのかもしれない。

(住んでる奴らもただじゃすまないだろうなあ……)

 この家が空き家である事を切に願った。

 住んでる者達がいたら、間違いなく不幸になってるだろうから。

 化け物どもの危険さはそこにある。

 接した者の気力や体力を奪い、運気まで奪っていく。

 体調が落ち込んだり、気持ちが萎えたり、生活に問題が発生したり。

 とにかく良いことから見放される。

 一匹二匹にまとわりつかれてるなら、ちょっと落ち込んでるくらいで済む。

 それでも、少し熱っぽかったり、苛立ちが収まらなかったりと、それなりの支障が出てくる。

 これが本拠地となってるならどれだけの影響があるか分かったものではない。

 それを思えば、誰も住んでないのが最善であろう。

 さっさと片付けようと思い、門扉に手をかける。

 その瞬間に、世界がグラリと揺れた気がした。

 今まで何度も感じてきた感覚だった。

 本拠地に、化け物の巣に乗り込むときの減少。

 境界が発生する前触れ。

 慣れる事のない不快さが身を包んでいく。

 それがおさまるのを待つことなく、踏み込んでいく。

 瞬間、風景が一変した。



 先ほどの遭遇から三十六分後。

 伏見アヤナを助け、布佐ユウキに押しつけてから一時間二十五分後の事である。

 続き明日の、17:00くらいに投稿予定。

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