54話 結果/壊滅/犠牲 → 撤収/帰還
戻ってきた事務所にアヤナをつれていく。
事の顛末は既に電話で伝えてるので、細かな説明などはする必要がなかった。
一応、気力で精神の平静をもたらしてはいる。
医者に診せたり、カウンセリングに通わせる事も考えてはいる。
ただ、それらも本人次第となる。
どこまで立ち直るかも含めて。
とりあえずこれ以上ここで何かが出来るわけではなかった。
「ま、あとは親御さんに連絡して。
そうしたいなら家に送っていくし、不安ならこっちで休んでもらって構わないから」
言ってる事は伝わってるのか、アヤナも無言で頷く。
ただ、どこまで伝わってるのかは定かではない。
言われて携帯を取り出してはいたが、そこで動きが止まってしまっている。
色々と考えたり悩んだしているのだろうとは思ったが。
「……あんなの見たら、そりゃああなるだろうなあ」
そういう声も出て来る。
仲間の、そうでなくても人が嬲り殺されてる所を目にしたのだ。
自分もそうなる可能性もある中で。
まともでいられなくなっても無理はない。
「でも、家に連絡くらいはさせておかないとまずいだろ」
「つっても、俺らが言うわけにもいかないし」
「警察かどこかに保護された事にしておくか?」
「どんな理由でだよ」
「それより、事故った事にして病院に行ってた方がいいんじゃ」
当面の対応策を、アヤナいる部屋の隣で語り合っていく。
余計な心配をさせないよう声をひそめながら。
妙案というようなもの出てこないまま時間だけが過ぎていく。
「先生に来てもらって、カウンセリングとかしてもらった方がいいんじゃないかな」
懇意にしてる医師などにそういった方面の者もいる。
今すぐは無理かもしれないが、連絡は入れておこうという意見も出て来た。
「でもまあ、とりあえずは家への連絡だろ」
「だな」
無断外泊させるわけにもいかないので、そこをどうしようかと考えてしまう。
本人が電話をしない事にはどうしようもない。
「まあ、俺らがうだうだ悩んでてもしょうがないか」
そう行ってカズヤはアヤナのいる部屋へと向かっていった。
来客用の応接間入り、アヤナの向かいに座る。
入ってきたのは分かるのか、カズヤに目を向けてはくる。
だが、どこかぼんやりとした印象はぬぐえない。
取り乱したりはしてないが、まだ正気とは言い難い。
気力で精神を安定させてはいても、まともに考える事までは出来ないのだろう。
それでも構わず、話しをはじめていく。
「まあ、災難だったな」
そう言うも特に返事はない。
反応もない。
どのように受け取ってるのか分からないので、次の言葉が繰り出しづらい。
「けど、このままって訳にもいかないんでね。
とりあえず決めてくれないか。
帰るなら送るし、泊まるなら家に連絡してほしいし」
「…………」
「まだ、考えがまとまらないか?」
「…………」
「だろうな。
俺らも最初の頃はそうだったし」
実際その通りである。
初めて戦った時、初めて怪我をした時、自分を見失う事はあった。
なので、茫然自失になってしまったらどうなるのかも知っている。
「けどまあ、それじゃどうしようもねえからさ。
とりあえず決めてくれ。
決められないなら、家に電話をしてくれ。
友達の所に泊まるとでも言って」
「…………」
言いながらアヤナの手にしてる携帯(実際はスマートフォンだったが)をトントンと指でつつく。
「これを使ってさ」
言われてアヤナはスマートフォンに目を落とす。
数秒ほどそれを眺めていたが、ゆっくりと操作をはじめる。
普段であれば数秒とかからず終わらせるであろう操作を数分かけて行い、電話をかけていく。
何度目かの呼び出し音の後に相手が出たらしく、相手に向かってゆっくりと口を開いていく。
「あ、お母さん?
うん…………あのね…………」
訥々と話していくのを見て、少しは持ち直してきたのかと思う。
本調子にほど遠いにしても。
ただ、これでアヤナが泊まっていくのが確定した。
寝床を用意しようと準備を始めていく。
小さな雑居ビルは事務所で使ってるだけではない。
他の階にも別の目的で使う部屋を確保している。
武器や道具の置き場だったり、寝泊まりするためのベッドだったり。
その一つをアヤナ用に用意していく。
そちらにアヤナを連れていき、横にさせた。
眠れないかもしれないが、起きてるよりは良い。
起きているとどうしても疲れが抜けきらない。
横になるというのも意味がある。
何はなくとも休む事が今は大事だった。
その一方で、カズヤ達も今日の事を振り返っていた。
「まさかなあ……」
出て来るのは、最後に見た封印派の事だった。
「あそこまで使えないとは」
アヤナの前では控えていたが、いざ仲間だけになると遠慮の無い言葉が出て来る。
「弱いのは分かってたけど、あれほどとは」
「これじゃ共同戦線は無理だな」
「あれでどうやって化け物を倒すつもりなんだか」
もとより対立してる相手である。
共に手を取って、というのは無理である。
だが、もし出来たとしても、これでは話しにならなかった。
「こっちに仕事を回してくるのも分かるわ」
情報とともに仕事を押しつけてくる理由がよく分かる。
あれだけ一方的にやられるようではどうにもならない。
今までのヨドミの攻略もどうやっていたのか気になるくらいだった。
「今度の事件、俺達でやるしかないのかもな」
トガビトからの襲撃や、それらが守ってるヨドミ。
とても封印派に頼る事はできなかった。
「元々頼りにしてねえけどな」
「確かに」
「そうなんだけどねえ」
落胆や呆れが漏れてくる。
そこに同情や哀れみはない。
「あんだけ偉そうにしといてこれかよ……」
日頃の態度と、実際に化け物を相手にしてる時の姿の差があまりにも酷すぎた。
常日頃文句を言われ続けてただけに憤りも大きい。
「本当に、使えねえ連中だ」
だんだんと愚痴が多くなっていく。
「で、あの子はどうするんだ?」
確認しておくべき事としてアヤナの事が再び持ち上がってくる。
「あっち側の人間だろ?」
「みたいだな」
封印派と一緒にいたのは誰もが知っている。
「だったら、わざわざ助ける必要も無かったんじゃ?」
「いや、まだ巻き込まれてそんなに経ってない」
懸念を口にする者をカズヤが制す。
「まだそんなに凝り固まってないかもしれん。
一応、こっちの考えを話してみようと思う」
「説得すんのか?」
「まさか」
首をすくめた。
「俺らの考えを言うだけだ。
それを聞いてどうするかは、あの子次第だ」
出来ればこちらがわについてもらいたい。
それが無理でも敵対や対立しない関係になってもらいたい。
少人数でやってるカズヤ達には、協力者が必要不可欠だった。
一緒に行動する仲間も。
そういった者になってくれればという期待があった。
「何にしても、明日になってからだけどな」
もう休ませてるし、カズヤも疲れている。
他の者もヨドミの攻略とユガミの撃破で疲労している。
今日はさっさと休んでおきたかった。
アヤナの事が無くても、明日も作業はある。
「さっさと寝よう」
いつまでも起きてるわけにはいかなかった。
続きは明日の17:00予定。
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