49話 寄り道 → 襲撃
「お待たせー」
連絡があった後で現地に到着し、車から降りて声をかける。
既に能力のある者達は中に突入しており、残っていたのは協力者達だけだった。
「待ってまたよ~」
安堵の声があがってくる。
化け物の巣窟の前で、しかもトガビトの襲撃の可能性があるだけに心配してたのだろう。
カズヤ達の到着を考え、同行していた者達も到着の数分前までは待機していたのだが。
わずか数分であっても、その間に襲撃されたらと思えば気が気ではなかったに違いない。
「悪いな、本当に」
ねぎらいながらカズヤは警戒の準備を始めていく。
あとどのくらいかかるか分からないが、襲撃がされる可能性はまだ残っている。
事が終わるまでは気が抜けない。
もっとも、一番の問題はすぐ後ろをついてきていたユウキである。
「あんたら、なんでここにいるのよ」
不快指数を更に上げた声と顔が迫ってくる。
鬱陶しいが避けるわけにもいかない。
何とか食い止めて、ヨドミの中に入り込まないようにしたかった。
邪魔にしかならないので。
ただ、理も非もなく勢いに任せて突っ込んでくるのでどうにもならない。
何よりも、
「ここ、あんたら突き止めたの?!」
ヨドミの所在地と分かってるようで、詰問が更にきつくなる。
どうしようもないので、一言で終わらせる事にした。
「黙れ」
対立してる奴に必要以上に優しくしてやる理由もない。
害にしかならないのならばなおさらだった。
「なんですって?」
相手もさすがにその言い様に腹を立てたようで、声のトーンが一段落ちる。
激昂してまくし立てるより、ある意味よっぽど怖い。
しかし、カズヤとてそんな事を気にするほど優しい世界にいるわけではない。
「聞こえないのか?
耳がおかしいのか?
それとも頭がおかしいのか?」
全く動じる事もなく尋ねていく。
「ちょっと、どういうつもりよ」
「なんならそこに入るか?」
相手の問いに答える事無く自分の意志をつきつける。
「そこで死ねばどうなるか分かってるよな?」
「…………」
さすがにこれでユウキも口をつぐむ。
ヨドミや境界の中での死がどうなるかは、彼女も何度か見てきた。
現実でどうなってしまうのかも。
だからこそ、それ以上何も言えなくなる。
「じゃあ大人しくしてろ。
こっちは忙しいんだ」
話はそれで終わりだった。
何か言おうものなら────それがどんな内容であっても────カズヤは容赦なく行動する。
それもまた、何度か目にしてきた。
悔しいが、ユウキにそれを止める力はない。
ここがごく一般的な町中などであったら話しは別なのだが、ヨドミの目前である。
無理矢理引きずり込まれる可能性があった。
というか、確実にそうなると確信していた。
しかもここにはカズヤだけでなくその仲間がいる。
これ以上踏み込む事は出来なかった。
ユウキから連絡を受けた封印派の仲間が到着したのは、それから十分ほどしてからだった。
車から降りてきた者達は、すぐに様子がおかしい事を察する。
「あの、何かあったんですか?」
アヤナはユウキに尋ねるも返事はない。
なんでも、と返事はしてくれたが、ユウキは悔しそうな顔をしている。
何がどうしたのかと思うが、それ以上聞くのも躊躇われた。
その原因であろう崩壊派の方に目を向ける。
見知った顔(といってもカズヤくらいしか知らないが)はいない。
ワゴン車の運転席と助手席に二人、外で回りを見ている者が二人。
もう一台のワゴン車にも、運転席と助手席に二人がいるだけで、他の者の姿はない。
(どこに行ったんだろ)
考えるまでもなくヨドミに突入してるのだろうとは思った。
それを阻止出来なかったのだろう。
だから悔しいのか、と思った。
概ねその通りであるのだが、細かい部分はさすがに予想も出来ないでいた。
ただ、それだけでここまで落ち込むとも考えられなかったので、何かしらあったのだろうとは推測したが。
(何があったの?)
疑問は本人が喋ってくれるまでわからなそうだった。
……そう思っていたのだが。
「なんだ、また増えたのか」
する事もなくユウキと共にその場で待っていたアヤナ達に、カズヤが声をかけてくる。
「さっさと帰ってくれればいいのに」
本気でうんざりした口調で言われて、少しばかり悲しくなった。
そこまで邪険にしなくても、と思ってしまう。
お互い相容れない考えで動いてるので、決して仲良くは出来ないにしても。
しかしカズヤは容赦しない。
「居ても邪魔なだけだし、こんな所にいても襲撃されるだけだぞ」
「それはそうかもしれないですけど」
アヤナの口から思わず声が漏れる。
「でも、ヨドミがあるなら放っておくわけには」
「あ、それはこっちでどうにかするから」
はっきりと言われた。
「そっちが出る幕はないと思うよ。
今、やっつけにいってる最中だし」
「そうですか……」
そうなのだろうとは思った。
ワゴン車二台にしては人数が少ないので、もしかしたらと考えてはいた。
だが、そうなると本当にやる事が無い。
封印派と違い、彼らは一日で、それも一回でヨドミを破壊してしまう。
しかも、さして時間はかからないと聞いている。
アヤナやユウキがいても何の足しにもならないだろう。
そもそも手伝うつもりもないが。
ただ、どうしても聞いておきたい事もあった。
「あの、本当にいいんですか」
それほど親しい間柄ではないので、尋ねて良いか悩む。
しかし、聞かねば何も分からないので、駄目で元々と尋ねてみた。
「ヨドミを壊すと、周りが変わっちゃうんですよね。
それでも構わないんですか」
折に触れて周りの者達から聞いてきた事である。
普通に考えれば多少の躊躇いが生まれて当然であろう。
それらが無いのか気になっていた。
それに対してカズヤは短く答えた。
「壊れてるのが変わって何が悪いんだ?」
(壊れ……え?)
思いもがけない言葉だった。
「それって、どういう……」
「言った通りだ」
カズヤの言葉は短い。
必要な説明がほとんどない。
だが、はっきりと言い放つその言葉に嘘があるとは思えなかった。
「教えてもらってないだろうけど、実際そうなんだよ。
こっちとしては、やらない理由がない」
言いながらユウキの方を見る。
「お前もさ、そういうのちゃんと教えておけよ」
「……黙れ」
言われたユウキの声は低く押し殺したものになっていた。
それを聞いてアヤナはただならぬ事になっているのを感じた。
「お前の都合で、勝手に消されてしまう人だっているんだぞ。
それをどう思ってるんだ」
「それこそお前はどう思ってるんだよ。
二進も三進も行かなくなってるのをそのまま放置か?」
「質問してるんだ!」
「そうやって質問攻めにして言いくるめようって魂胆が見え見えなんだよ」
少なくともカズヤはそうとらえていた。
実際に、封印派の者達が明確に回答や提案をしてきた事は無い。
そんな連中なので、まともに相手をするつもりもなくなっていた。
「文句あるのはいいけどよ。
いい加減片付けるぞ」
無駄な争いを長引かせないために、そこで話しをしめる。
この手の話しは何の結論も出ない。
どれだけ繰り返しても平行線だし、やるだけ無意味といえた。
封印派は自分の考えにこだわりすぎてる、と感じもするので余計にそう思うのかもしれない。
「何にしてもさ。
何が一番良いかっては、色々見て回らなくちゃ分からないもんだろ。
あんたもそこは考えていってくれ」
アヤナに向けてそう言って、ワゴン車の中に頭を突っ込む。
「……で、あんたらさ、本当にこのままここに居座るつもりか?」
「え?」
「こっちに近づいてるのがいるみたいだし、さっさと逃げた方がいいぞ」
そう言って、車の中から何かを取りだそうとしている。
まだ車から出してはいないが、開いた横のドアからすぐに取り出せるようにしてるように見えた。
他の者達も、周囲に塩をまいたり、お酒をまいたりしている。
何かが接近してるのだろう。
アヤナ達に感知は出来てないが。
「……って、もう遅いか」
そう言った途端に、周囲が境界になっていった。
続きは明日の17:00予定。
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