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【打ち切り】クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-  作者: よぎそーと
四章

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40話 ???

「ひ、ひ、ひ……」

 必死になって走ってる。

 それが無駄だと分かっていても。

 境界に取り込まれ、化け物に襲われて。

 残ってるのは走ってる彼一人。

 他はもう倒されてしまっている。

 それでも何とか逃げてるのは、起こってる事を他の者達に伝える為……などではない。

 ただ単に、生きていたい、少しでも長く生き残りたいという欲求の表れだった。

 何一つ責められるものはない。

 死に直面すれば、生への渇望が発生するのは当然の流れであろう。 

 生者が生者たる所以である。

 かなわぬ願いであるのは、彼自身承知してもいるが。

 しかし万が一の可能性を求め、ただひたすらに走っていく。

 その周囲を化け物達が取り囲もうとしていても。

 無駄なあがきでしかない。

 住宅地の中で発生した境界の中、前後に伸びる道に、左右の壁の上に化け物は集まってきている。

 逃げ場はもう無い。

 対する男にも、もう対抗手段はない。

 塩や線香などの道具はすでに使い果たしている。

 彼自身も気力を使ってしまっているので、これ以上それを用いた技を使う事は出来ない。

 武器に込められた気はまだ残ってるが、それだけだ。

 化け物を一匹か二匹倒す事は出来るだろうが、その先があるわけではない。

 この場を発生させている敵を全て撃退など思いもよらない。

 震えながら、歯を鳴らしながら武器を構える。

 威嚇のつもりで、少しでも相手が怯む事を願って。

 化け物を少しでも倒そうなどという勇壮さは全く無い。

 そんな彼に、周囲の化け物は一斉に飛びかかっていった。

「…………うわあああ!」

 武器を振り上げる事も出来なかった。

 悲しいくらいにか細い抵抗は、呆気なく終わる。

 他の者達がそうであったように、男は化け物の餌になっていった。



「はあ……」

 話を聞いてた伏見アヤナは間抜けな声を上げてしまう。

 聞かされた事は頭に入ってるのだが、現実感を抱けない。

 想像力の限界を超えてしまったせいで、伝えられた事を上手く思い描けないせいだった。

「本当に、そんな事が?」

「あったみたいだよ。

 生き残ったのから聞いた話だと」

 布佐ユウキは更に言葉を重ねていく。

 ここ最近起こってる事である。

 化け物の動きが活発化してるようで、この付近での目撃例と襲撃が多発している。

 そのせいで損害が拡大していた。

 調査などで出歩いてる者達は化け物に取り憑かれてしまい、様々な故障や不幸に見舞われてる。

 対抗する能力を持たない場合、そうやって死ぬまで精気を奪われる事になる。

 場合によっては、そこを中心として新たなユガミに発展する事もある。

 なので、可能な限り化け物を除去していかねばならない。

 しかし、見回りで出発する対応能力者達も返り討ちにあってるようで、ほとんどが帰還せずに消息を絶つ。

 そこから生還した数少ない生き残りが、伝えてきてるのだ。

「化け物、いっぱい出て来てるらしい」

 信じたくはないが、実際に見てきた者の証言である。

 無視するわけにはいかない。

 たとえ興奮や混乱で見当違いな事を言ってるにしても、全てが出鱈目という事もない。

 何かしらの真実がそこには含まれている。

 正気を失った時に出て来た言葉であっても、起こった何かを伝えるものはある。

 それらがただならぬ事態の展開を告げていた。

「どうなるんですか」

「さあ」

 アヤナの問いかけにユウキも答えが出せない。

「でも、そのうち私らにも言いつけが回ってくるだろうね」

 対応出来る能力がある以上、それは避けられない。

 そう待たずとも事態の収拾にあたるよう言われるだろう。

 出来るかどうかはともかくとして。



「なるほど」

 話しを聞いて安房カズヤはやる気を失っていった。

「そんな事になってるとは」

「こっちとしても困ってるんです」

 情報を持ち込んできた封印派の者もかなり倦怠感に包まれていた。

「調査や撃退に出向いた者達のほとんどが全滅。

 生き残りも正気を失ってる者がほとんどで、ろくろく情報も得られない」

「あいつらも全然片付かない、と?」

「そういう事」

 あいつらが化け物を指してるのは言うまでもない。

 一目のある外での接触なので、なるべく表に出ないよう言葉は選ばなくてはならない。

 関係する誰かに聞かれる心配もあるし、素面で化け物の事を話していれば何も知らない者達からはおかしな目で見られてしまう。

 おかげで会話には「あれ」とか「それ」といった言葉が多用される事になってしまっていた。

「そんで、俺達にどうしろと?」

「こっちで片付けられないものの整理をお願いしたい」

「場所は?」

「こちらに」

 小さく折りたたんだ紙が渡された。

「いいのか、もらっても?」

 普通、書いたものを直接渡すような事はしない。

 指紋や筆跡などから何かがばれるかもしれないからだ。

 印刷したものであっても、何がどう転ぶか分からない。

 それを今回は破ってきている。

「構いません。

 それどころじゃないので」

 よほど切羽詰まってるのだろう。

「色々と起こってる場所や、把握してる現場などを記録してます。

 こちらが動く前に、可能な限り潰してもらいたい」

「なんでまた?」

 理由はある程度想像できるが、あえて聞いてみた。

「こっちが動いたら損害が増えるだけなので。

 これ以上無駄を出したくない」

「なるほどね」

 カズヤの予想通りの答えだった。

「ま、なるべく早く手をつけるようにするよ。

 そちらが出向く予定の所から」

「助かる」

 そう言うと内通者はその場を去っていく。

 これ以上話すような事はないのだろう。

 出来ればもっと詳しい事を聞き出したかったが。

(でも、これ以上の情報は持ってないか)

 こちらに渡した情報が持てる全てであるとは思った。

 だとすれば、カズヤもこれ以上ここにいるわけにもいかない。

 渡された紙切れに書かれた情報をもとに、今後の活動を考えねばならない。

 封印派の者達が襲撃された『色々と起こってる場所』や、『把握してる現場』である封印されてすらいないヨドミがある。

 それらをどうにかして片付けていかねばならない。

 携帯を手に取り、短いメールを事務所に送る。

 あとは所長や事務員が、それを他の者達に拡散してくれる。

 携帯からの一斉送信も出来なくはないが、手間がかかって面倒である。

 持ち運ぶ事が出来るとい利点はあるが、やはり手持ちの小さな危機ではやれる事に限界がある。

 中継地点として事務所は結構重宝していた。

 その事務所の方に足を向ける。

『事務所に集合』と送っただけに、呼び出した張本人が遅れるわけにはいかない。

 事務所からそれなりに離れた場所にいるので、少しばかり時間がかかってしまうが。

 折りたたみ自転車に乗り込み、ペダルに足をかける。

 少しばかり急ぎながらカズヤは、ハンドルを握っていった。

 続きは明日の17:00予定。

 誤字脱字などありましたら、メッセージお願いします。

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