31話 探索 → 戦闘
周囲から出て来たのは、ネズミだった。
出ぱった前歯が特徴を良く表している。
物置らしいこの場所にはよく似合ってるのかもしれない。
化け物らしい特徴として、小型犬くらいの大きさがある。
こんなのに襲いかかられたら結構な怪我を負う事になるだろう。
それが何匹か出てきている。
キィキィと鳴き声をあげながらアヤナ達の周囲を取り囲んできている。
いきなり襲いかからず、仲間が集まるのをまってるように見えた。
(智慧があるってこと?)
意外に思えた。
もっと本能や衝動に任せて襲ってくるものと思っていただけに。
だが、現実の動物だって多少は考えて動いている。
化け物共だって多少は頭を使って行動してもおかしくはないのかもしれなかった。
だからこそ厄介である。
効率を考えて襲いかかられたら、撃退するのが面倒になる。
それに、数が増えていくのも脅威だ。
このまま静観していたら、対処出来なくなりそうに思えてきた。
「それじゃやるぞ」
リーダーが声をあげる。
「右から片付けよう。
そっちは銃で」
「はいよ」
リーダーの言葉で陣形が変わる。
右側に固まっていた者達が左側にうつり、射線を開ける。
引き金が引かれていく。
破裂音が鳴り響き、化け物が吹き飛んでいった。
銃にも気が込められてるので、発射される弾丸にもそれなりの威力が加えられている。
それが着弾した瞬間に、化け物の体を作ってる気と相殺して消滅していく。
加えて弾丸自体の威力もある。
まとった気力が化け物と相殺されても、高速で射出された運動エネルギーがある。
加えて、鉛という質量と硬度が掛け合わさって威力を出している。
弾丸は簡単に体を貫通し、その分の気力を化け物の核から剥ぎ取っていった。
それ以外の場所でも行動が開始されていく。
「塩をまけ、近づけさせるな」
銃声に驚いたネズミどもであったが、それで怯む事もなかった。
仲間がやられてるのを見ても、別方向から突進してくる。
前方に立つ者達はそれらに塩をまき、手にした武器で追い払っていく。
マシェットや手斧、刀といった武器で迫って来るネズミがはじき飛ばされていく。
気をまとわせてるだけに威力も出ている。
体の表面をけずられていくネズミは、さすがに近づく事を躊躇していく。
それでも逃げ出す素振りを見せない。
塩から逃げるように後ろに走っていくが、ある程度離れると振り向いてアヤナ達の方を向いてくる。
「気をつけて」
前に出ていたユウキが声をあげる。
「飛び込んでくるよ」
何の事か分からなかったが、それでネズミとの間に塩をさらにまいていく。
少しでも距離を開こうとするように。
そんな者達に、ネズミが本当に飛びかかっていった。
更に後ろまで走っていき、距離をつけたところで。
高さはないが、横にながく飛び、一番近くまで出て来ていたものに食いついていこうとする。
塩をまいていた者はすぐには対応が出来ない。
あわやぶつかるか、と思った所にユウキが出ていく。
手にした杖を野球のバットのように振りかぶり、横薙ぎに振っていった。
飛び込んできたネズミは、盛大に吹き飛ばされる。
木の棒でしかない杖であるが、振り回して叩きつけられたらそうとうな痛手を負う。
気力を込めてるので、化け物に与える損傷も大きくなっている。
核を壊してないのでまだ死んではいないが、動きをかなり止める事ができる。
げんに体を吹き飛ばされたネズミは、杖が当たった所からえぐられ、足の付け根あたりが消えている。
さすがの化け物でも、それではまともに動くことは出来ない。
だが、まだ傷を負ってない化け物が飛びかかっていく。
「ああっ!」
あぶない、と叫びたかったが脳が言語に変換する事ができない。
喉から出て来たのは意味不明な叫びだけ。
それでもユウキには伝わってようで、自分に向かってくるネズミの方を向く。
避けるにも杖で振り払うにももう遅い。
食いつかれる、と思った。
しかし、飛びかかったネズミは、ユウキに前歯をたてる直前で失速した。
壁にぶつかったように動きを止めて。
それが気力を壁のように展開する防御手段であると知るのは後の事だ。
その時のアヤナに分かるのは、ネズミがいきなり落ちて、ばらまかれた塩の中に落ちていった事。
その上でネズミが、のたうち回りながら表皮を、体をとかしていって消えていった事だった。
残された核がユウキの杖で突かれて砕かれるまでを、ただ見つめていた。
戦闘はその後も続く。
突進してきたネズミは、飛びかかるも間にある塩の上に落下していく。
その間に右側から順に射撃を続けていた者達が、寄ってきたネズミを確実に仕留めていく。
駆逐し終わった後には塩をばらまき、そちらの方に安全圏を作っていく。
突進もままならず、飛び込んでの攻撃も届かない。
次々に数を減らしていくネズミたちは、それでも逃げだそうとはしなかったが、その為に全滅に追い込まれていった。
最後の一匹は、散弾銃によって体中に穴を開け、動きが鈍ったところで接近戦担当に囲まれていった。
その中でネズミは体を霧状に消散させ、剥き出しの核に気力をまとった攻撃を受けて消滅した。
「…………大丈夫ですね。
この近くに化け物の姿は見あたりません」
「そうか」
探知の結果、とりあえず安全が確保出来た。
続けざまに戦闘に突入する危険は回避出来そうだった。
「そしたら、武器や道具の状態を確かめてくれ」
戦闘後の指示が出て、見張りを除いた全員が手元の道具を確認していく。
生き残るためとはいえ、惜しみなく道具を消費していった。
それらの残りを確かめ、予備を取り出していかねばならない。
これらが無くなればそこで全てが終わる。
残量によってはここで一度帰還しなくてはならなくなる。
さすがに今の戦闘でそこまで極端に減少したわけではないが、かなり無くなってるのも確かだ。
あらためて残量の確認はしておく必要がある。
そして、足りない分を他の者から分けてもらい、適切な量に分配していかねばならない。
一部を除いて、大半が支援団体から支給されてるものなので、こういったやりとりに抵抗はない。
これが全部個人が揃えてるものだったらこうはいかないだろう。
そして残量が分かったところで、続行か撤退の判断をしていく。
「まあ、もうちょっと行ってみるか」
まだ残りがそれなりにあるので、リーダーは奥まで進むことを決めた。
「電池とかは交換しておけ。
どこで切れるかわからないからな」
そういった注意が飛ぶ。
全員がそれに従っていく。
探索中に切れる事など珍しくもない。
それらが終わったところで、リーダーは出発を宣言する。
部屋の奥から先にのびてる通路の方へ。
その日の探索は、その先の部屋まで進んだ所で一旦終了となった。
同じようにモンスターに遭遇し、戦闘に入ったからである。
用意した道具はまだ半分残っていたが、帰り道での遭遇を考えればこのあたりで切り上げるのが無難だった。
続きは明日の17:00予定。
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