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3話 境界 → 別派

(あ…………)

 言われて気づく。

 確かにその通りだと。

 静かだった。

 夜だから当たり前なのだろうが…………静かすぎる。

 いつもだったらどこか遠くから聞こえてくる自動車やバイクの音が聞こえない。

 立ち並ぶ家から時折あがる物音が聞こえない。

 自転車をこぐ音やブレーキのきしむ音も聞こえない。

 そんなに多くないのは確かだが、すれ違う人にも出会わない。

 時間は夜の十時。

 バイト帰りでこんな時間になってしまったが、それでも誰かしら人と出会う事はある。

 なのに、今そんな事が全く起こってない。

 風の音すらも聞こえない。

 静かだった。

 静か過ぎるほどに静かだった。



「こんな風になったら注意だ。

 ここまでになったら、もう逃げられないけど」

 淡々と告げているが、割と重要な事に思えた。

 これほど静かな状態になったら、先ほどの化け物が出てくるという事なのだろう。

 そして、

「逃げられないんですね……」

 恐ろしいけど、口にして確かめていく。

 知りたくもないが、知らねばならないのだから。

 返事は、

「ああ、そうだ」

と短くはっきりしたものだった。

 絶望的になる。

「そうなったら、さっきみたいなのが来るって事なんでね」

「そうだ。

 奴らが見つけて、襲いかかってくる。

 その前段階に入ったと思っておいた方がいい」

「手遅れって事ですか」

「そうだな」

 やるせない声が肯定する。

「そうなったら、もうやるしかない」

「…………何をです?」

 聞くまでもない。

 だが、はっきりとした答えを求めた。

「戦うんだよ」

 予想通りだった。



「今のこの状態は境界だから、まだマシだけど」

「…………キョウカイ?」

 どんな意味なのかすぐには分からなかった。

「ああ。

 境目だ」

 言いながら少女は頭の中で意味を確かめる。

 キョウカイ、サカイメと意味がまだ飲み込めてなかったが、だんだんと理解をしていく。

「どこかとの間なんですか」

「まあ、そんな所だ。

 俺達はそう呼んでる。

 人によるけどね」

 また新しい情報が出てきた。

 そう呼ばれてる……という事は確定されてるわけではないのかもしれない。

 また、「俺達」と言ってる事から他にも同じような事に巻き込まれてる人がいるようだった。

 おまけに、人によって呼び方は様々のようでもある。

 何気なく言われたから聞き逃しそうになるが、それではいけないと頭の中に放り込む。

 何も分からない今、ちょっとした情報であっても大事である。

 勉強と同じで、ほんのわずかな知識の有無で、問題が解けるかどうかが分かれてしまう。

 数学の公式や物理の法則のようだった。

 たった一つであっても、足りない式があれば問題が解けなくなる。

 そうならないようにするには、取りこぼすことなく身につけるしかない。

 ただ、説明してる相手がそのあたりに気をつけてないようなのが困る。

 相手にとっては当たり前なのかもしれないが、彼女にとっては全てが初めてである。

 分からない事しかないのだから、どんな小さな事であってもちゃんと説明して欲しかった。

 時間の余裕が無さそうなのは分かっているが。



「あいつらが出て来る場所のこっち側とあっち側。

 その境目みたいな状態がここ。

 だから境界。

 はっきりした事は分かってないけど、こういう状態の事だと思ってくれ」

「はい」

 嘘か真実か分からないが、今はそれを信じるしかない。

「こうなったらなったで、こっちからも色々出来るようになるけど」

「どういう事ですか?」

「まあ、それは後で。

 まだそんな段階じゃないだろうし」

 なんだか分からないが、答えをはぐらかされた気がした。



「それで、こうなった場合に備えてだけど。

 お清めの塩とか用意しておいてくれ」

「塩、ですか?」

「ああ。

 普通に売ってる塩でいい。

 そんなもんでも効果はある」

 意外だった。

 確かにお清めなどで塩をまくとは聞くが。

「本当に効果があるんですね、そういうのって」

 儀礼的な意味ではなく、ちゃんと効果があるとは思わなかった。

「昔ながらの方法ってのには結構使えるものがある。

 節分の豆まきとか、桃や梅とか。

 その日、一番最初に救った水なんてのもな」

 いずれも魔除けや清めなどで用いられるといわれてるものである。

「米なんかも使える。

 少しでいいから、ポケットの中とかに入れておくといい。

 あと、神社のお守りとか。

 お線香とかも役に立つ」

 思ったより身近な品ばかりで逆に驚いた。

「そんな簡単なものでいいんですか?」

「こんなもんでも役に立つ」

 断言されて安心した。

 もっと手の込んだものが必要だと思っていたが、それならどうにか揃えられそうだった。

「けどな」

「?」

「決定打にならない事もある。

 強力な奴だと、こういうのだけじゃどうにもならない事もある」

 安心したのもつかの間だったようだ。



「最初のうちはそういうのを使った方がいいけど、それだけじゃどうにもならなくなる。

 運良く弱いのにしか出会わないならいいんだけど。

 そうもいかないから」

「それは、そうなんでしょうけど」

「だから、君自身が強くなってもらわないとどうしようもない」

 ある程度予想していた事ではあった。

 どんな道具を使うにせよ、自分自身も強くならねばどうにもならないのだろう。

「さっきやっていたように、その、手で倒せるようにならなきゃ駄目なんですか」

「まあ、そう決まってるわけじゃないけど」

 そこで言葉を一旦止める。

「強さは人ぞれぞれ形が違う。

 それを自分なりに引き出していく事になる。

 俺はこういう形だったってだけだ。

 君は君のやり方があるはずだから、それを見つけて磨いていく事になると思う」

 どういう事なのか分からなかった。

 武道や格闘技、あるいは護身術を習うというわけではなそうだが。

 しかし、自分なりのやり方とか、それを見つけるという意味が分からない。

「自分なりって、どういう意味なんですか」

「そいつはなあ……」

 そこでまた言葉が途切れた。

 どう説明しようか悩んでるように見える。

「本当にその人なりのやり方になるなから、なんとも言えないけど……」

 そこで何かに気づいたらしく、顔を横に向けた。

 つられて同じ方向に目を向ける。

 近づいて来る者達の姿が見えた。

 街灯に照らされてるとはいえ、夜なのではっきりと姿を見るのが難しい。

 だが、それを見て男は更に意味が分からない事を言い出した。

「続きはあいつらが説明してくれるから」

 予定より早めに投稿出来た。

 続きも20:00に投稿予定。

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