23話 大群 → 遺留物
コウジに通路の方を任せ、カズヤはただひたすらにユガミを斬りつけていた。
まともな動きが出来なくなったとはいえ、まだもがいてはいた。
体を切りつけるもなかなか一点に集中する事も出来ず、核の露出にはなかなか至れずにいた。
それもようやく終わり、見えてきた核に逆手に持った狩猟刀の切っ先を叩きつけていく。
一度や二度ではなかなかヒビも入らなかったが、五回十回と続くうちに亀裂が入っていった。
あとはヒビに気を打ち込み続ける事で、ユガミの核が崩壊を始める。
外側からではなく、内側から消え去っていく。
のたうちまわっていたユガミは、やがて動きを止め、完全に消滅していった。
「お疲れ」
作業が終わったところで、まだやる事は残ってる。
通路の方の片付けをしない事には帰るに帰れない。
カズヤが見る頃であっても、まだ通路には結構な数の化け物がいた。
「面倒だな」
「どうします?」
どうすると言われても、やる事は一つしかない。
「ここを突っ切るしかねえな」
「最悪っすね、それ」
「まあな……」
カズヤとて出来れば遠慮したいところだった。
だが、ぐずぐずしてもいられない。
「道具を回収してこい。
すぐに逃げるぞ」
「はーい」
言いながらコウジが残ってる化け物に連射を浴びせていく。
その援護射撃を受けながらカズヤは交代していく。
「さて……」
どうしたもんかと思うも、やる事に変化はない。
効果範囲を拡大した拘束の気を撃ち込んで、そこにいる化け物を捕らえていく。
今更倒す必要はない。
一時的にでも動きを止めてくれてればそれで十分だった。
あとはここから脱出するだけ、無理して倒す必要もない。
動きを止めておけば、崩壊に巻き込まれてくれる。
外に出ないようなるべく倒しておきたいが、それも限界がある。
やりあってる余裕もない。
毎度の事になるが、このあたりが妥協点になってしまう。
「倒せりゃいいんだけど……」
ぼやくも今は叶える事が出来ない事である。
もっとレベルが上がればどうにかなるだろうが。
そう思いつつ荷物を手に取っていく。
長居をする理由はない。
「そろそろ行くぞ」
コウジに声をかけて促していく。
その時、頭上からも物音が聞こえてきた。
何だと見上げたカズヤの顔が歪む。
「コウジ」
「ああ、こっちはもう大丈夫っすよ」
荷物を担いだコウジがこたえる。
だが、カズヤの言いたい事はそうではなかった。
「急げ、上から来てる」
「はい?」
何だと思って見上げたコウジも、すぐに言いたい事を理解したようだった。
「嘘だろ……」
そう言う彼の目に、上から壁を伝ってくる大量の化け物の姿がうつった。
何で、と思ってその更に上を見ると、化け物が出て来てる穴が見える。
おそらく、この部屋に至るもう一つの通路か何かなのだろう。
どうつながってるのか分からないが、別の経路もあったようだ。
こんな時だというのに、侵入してきた二人を追いかけてるようである。
「逃げましょう、すぐに!」
「もちろん!」
カズヤも頷く。
崩壊も始まってるし、長居をするわけにはいかない。
すぐに二人は、動きを止めた化け物がいる通路に入っていく。
防御用の魔術器具を回収して。
逃げ出す途中はいつもと同じで、同じように逃げ出す化け物と鉢合わせになる。
そしていつものように、出入り口へと向かう道をふさいでくれている。
それらを倒しながら出入り口へと戻っていく。
ただ、部屋などで数が多い場合はなかなかそうもいかない。
もともと数が多かったのもあり、部屋のなかそのものが化け物で覆われてる場合もある。
そうなってると、その中を突破する事も難しくなる。
動きを止めるにしても、数が多すぎて捕らえきれない。
特に産卵場になってる部屋では、大小様々な化け物がひしめていいた。
「どうします、これ」
壁一面にびっしりとうごめいてる虫型の化け物にコウジがうんざりしている。
おかげで部屋に入るに入れない。
下手に入ったら襲われる可能性があるだけに、踏み込むのを躊躇する。
だが、後ろからも逃げ出す化け物と崩壊が迫ってる。
ぐずぐずしてる訳にはいかない。
「塩でもまいていきますか?」
手間がかからずある程度広範囲に影響を与える手段はそれくらいだった。
あとは銃でなぎ倒していくしかない。
しかしカズヤは、
「ライターを……」
と言ってくる。
「はい?」
「ライターだ。それと、オイル」
「いや、こんな時に何を……」
最初はそう思ったコウジだが、すぐに言いたい事を察する。
すぐに荷物からオイルを取り出し当たりにまいていく。
そうしながらもライターで床や壁に火をつけていく。
「これでいいんですよね?」
「ああ、上等だ」
その結果を見てカズヤは満足そうに頷いた。
表面を覆ってる粘つく物質は、意外と可燃性の高い。
火をつけたらすぐに燃え上がる。
床や壁に接していた化け物どもはそれに包まれて燃えていく。
完全に消え去るほどではないが、手足をあぶり動きを鈍くさせるくらいに損傷を与えながら。
特にこの部屋はそれが顕著だった。
通路などに比べ、産卵場は粘性の物質も何層にもなってるらしく、火が次から次へと下の層に燃え広がっていく。
おかげで簡単には消えず、化け物を長く火であぶってくれる。
物質の下にある地肌が見えるまでには、火にくるまれた化け物が幾つも出来上がっていく。
それと同時にこの空間本来の姿も見えてくる。
地面のような土塊が剥き出しになってくる。
元々は洞窟のような場所だったのかもしれない。
それこそ虫の巣のような。
そして、燃え広がるにつれ、その下にあったものも見えてくる。
幼虫とおぼしき小さな塊と、それが集まっていた場所にあったものが。
「…………おい、あれ」
「…………うわ」
見つけたカズヤとコウジは唖然としてしまう。
嫌悪感を抱く事すら忘れて。
ある程度火が回ったところで部屋の中に入っていく。
出入り口にいた化け物もまとめて火にあぶられてくれていた。
おかげで突破するのがかなり楽になる。
塩をまいてまだ残ってる化け物を片付け、動いてるものには拘束をかけていく。
通り抜けが可能になったところで通路に入り、崩壊から逃れていく。
あとは同じ事の繰り返しだった。
いくつかの部屋で同じ事をやり、通路にいた化け物は蹴散らすか足止めをする。
たどり着いた出入り口でも、化け物が出ないように防戦を展開した。
今回は防御用の器具があるからかなり楽が出来る。
必死に逃げようとする化け物達を押しとどめ、崩壊が迫って来るまで粘っていく。
空間の消失が目前にまで迫ってくるまで、二人はひたすら防衛につとめた。
ギリギリまで粘って外に出る。
あらわれたのは、事故物件として扱われていた部屋の玄関だった。
入る時に感じたおぞましさや違和感は消えている。
掃除もされずに放置されていたのもあって埃などはたまってるが。
それとて化け物の存在に比べればかわいいものである。
「終わりましたね……」
「ああ……」
作業の終了を確かめあう。
が、その声はどこか重い。
疲れもあろうが、それとは別の理由が二人の気分を沈ませていた。
「あれって、やっぱり……」
「そうだろうな」
燃えさかる部屋の中で見つけたものを思い出す。
小さな虫に囲まれるように存在していたもの。
既に動かなくなっていたが、それは間違いなく人の形をしていた。
「引きずりこまれたのか、あるいは……だな」
化け物によってヨドミに引きずり込まれる場合もある。
あるいは、偶然化け物と接触する能力を得てしまったが故に、我知らずヨドミに入り込んでしまったか。
神隠しなどと呼ばれる現象の理由の幾つかには、これらが関わってると考えられている。
そういった者が今回のように捕らわれてしまっていたのかもしれない。
しかし、カズヤもコウジも別の理由を考えている。
自分の意志で、明確な意図を持って突入した者達。
それが出来る者達。
「封印派の連中っすかね」
「それ以外ないだろうな」
わかりきった結論である。
カズヤ側でそういった者がいたという話は聞いてない。
少なくとも、見知った仲間でそういった者はいない。
であるなら、そういった能力を持つ者が中に入っていったのだろう。
「他の連中かもしれないけどな」
両者に関わらない第三者である可能性もある。
だが、結構な人数が巻き込まれてるのを見ると、それだけではないだろう。
「いるんだろうな、封印派の連中も」
その可能性を否定する要素は何一つ無かった。
続きは明日の17:00予定。
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