2話 ??? → 境界
(さてと)
女の子の前まで出ていきながら考える。
何から話すべきか、どうやって説明したら良いか。
今までこういった場面には何度も遭遇してきたので、話しをするのは始めてというわけではない。
ある程度やり方は分かってるつもりではいる。
といっても得意という程でもない。
必要な事をまとめて伝えるというのは、それなりの能力が求められる。
残念ながらカズヤは、自分にそんな能力が備わってるとは思っていなかった。
まして相手はこちらに警戒心を抱いてるように見える。
そんな状態なので、最初の一言には気をつけねばならない。
気の利いたやり方があれば良いのだろうが、そんなもの知らないし思いつきもしない。
戦闘の方がまだ気が楽だと思ってしまう。
「大丈夫か?」
出て来た言葉はそんなものにしかならなかった。
その声に相手は、硬い表情のまま頷いてくる。
声も出せないほど怯えてるのかもしれない。
それでも、意思表示はしてくれた。
ある程度状況を判断出来るくらいに頭は動いてるようだ。
「そっか。
ならいいけど」
とりあず安心する。
取り乱してないだけでも助かる。
「ま、災難だったな。
こんな事に巻き込まれて」
「…………」
「いきなりだったと思うし、何があったのかも分からんと思う。
けど、はっきりと理解してく」
「…………」
「これは夢でも嘘でもない。
現実だ」
ビクリ…………と女の子が震える。
「残念だけど、これは嘘でも何でもない。
実際に起こってる出来事だ。
さっきの化け物もな」
辛い事だろうが、ここをはっきりと分かってもらわなければどうしようもない。
強ばっていた少女の顔がみるみる崩れていく。
怯え、恐れといったものが揺らめいている。
何も分からないからではなく、はっきりと分かってしまったからだおう。
カズヤの言ってる事の意味が。
本当に何も分かってなければ、呆けた表情をしているだろう。
何の反応も示さない事の方が多い。
そうでないのだから、説明してる方は助かる。
事実を認識してしまった方の心がどれほど保つのか分からないが。
見ればまだ若い少女である。
子供と言う程ではないが、大人とも言えない。
街灯に照らされてる少女には、まだどことなく幼さが見える。
十代の半ばから後半くらいだろうか。
美人と言って良いだろう。
絶世という程ではないが、十分に人目をひく事が出来る。
カチューシャで前髪をまとめてるので、顔立ちがはっきりと分かる。
眼鏡が人によっては減点材料になるかもしれないが、魅力を損なうほどでは無い。
だからこそ余計に悲惨に思えるのかもしれない。
浮かんでいる表情が崩れ、無惨なものになっている事が。
説明を続けていったらどうなってしまうのかと心配になる。
それでも言葉を中断するわけにはいかない。
時間も時間であるから手早くまとめる必要もある。
気は進まないが、言葉を更に続けていく。
「巻き込まれたのは災難だと思う。
正直、かわいそうだとも思う。
けど、はっきりさせておきたい事がある」
「…………?」
「もう無関係ってわけにはいかない」
「…………」
「君も、奴らに狙われるようになる」
「…………」
今度はさすがに理解しかねるようだった。
「奴ら……さっき君を襲ってたのだけど。
あいつらは、自分らが見える者に襲いかかる。
見えない者にも、まあ悪さはするんだけど。
でも、見えてる奴がいるなら、そっちを優先する。
普通は見えない人の方が多いんだけど。
時々、見えちまう事がある。
そして、一度見えたら、今後見えなくなるって事は無い」
それがどうしてなのかは分からない。
何で見えるのか、どうして見続ける事になるのか。
そもそも、なんで見えてる者に襲いかかるのか。
全ては不明なままだ。
ただ、過去の出来事からこういった習性があるようだとは言われてる。
知りうる限り、これに例外はない。
カズヤもそうだった。
だから伝えておかねばならない。
相手がどれほど怖がっても。
案の定、少女は目に見えて震えだした。
先ほどの化け物に今後も襲われるかもしれないと言われたのだ。
当然の反応だろう。
「それでだ」
相手が聞いてるかどうかは分からないが、話しを進めていく。
「一応、対策はある。
やり方もある。
それをおぼえておいてほしい」
「…………」
「思う事は色々あるだろうけど、頼む。
今後の君のためだ」
常に身の回りにいて守ってやるわけにもいかない。
彼女自身が自分の事を守っていくしかない。
近くにいれば助ける事も出来るかもしれないが、そうでない時の方が圧倒的に多いのだから。
今後接点が増えにしても、それはさほど変わらないだろう。
同居でもしない限りは。
仮にそこまで親密になれるとしても、あるいはそこまでの協調し合わなければならないにしても。
今すぐこれからというわけにはいかないだろう。
その方が楽ではあるし、個人的にそういう風になれたらとは思ってしまうけど。
まず先に、簡単な方法でも良いからやり方をおぼえてもらうしかない。
更に詳しい事は、今後に回すにしても。
「とりあえず、雰囲気の悪い所には近づかないでくれ。
心霊スポットとかもそうだし、柄の悪い場所とかも。
そういう所だとさっきみたいな奴らがよく出てくる。
どうしようもない事もあるだろうけど、なるべく近づかないように」
基本中のの基本だ。
危ない場所には近づかない。
ただこれだけでもかなり危険を減らす事が出来る。
少女もコクリ、と頷いてくれる。
言ってる事は理解してくれてるようだった。
「それと、そういう話は聞かなくても、背筋が冷たくなったり、何となく嫌な予感がしたり。
そういう気配を感じたら、それ以上進まないよう注意をしてくれ。
そういう場所は、だいたいロクでもないのが潜んでる」
全てにおいて、というわけではないが、そういう傾向はある。
「自分の感覚を信じてくれ。
危ないと思ったら、その感覚に従うこと」
曖昧な基準だが、そうとしか言いようが無い。
最初に言われた時はカズヤもどういう事か分からなかった。
だが、こういう事に何度も遭遇してるうちに、嫌でも分かってきた。
口で説明するのは難しいが、そういう感覚をおぼえたら、とにかく気をつける。
そのおかげで避けられた危険は結構あったと思える。
もっとも、その感覚を今は逆に利用しているが。
「どういう場所がそうなのかだけど…………」
言いながら周囲を見渡す。
「ちょっと周りを見てくれ」
そう言ってカズヤも周囲を見渡す。
何の変哲もない住宅地。
一見すれば、特に変わってるところはない。
しかし。
「分かるか?」
「…………?」
尋ねる声に少女は首を横に振った。
家の近くというわけではないが、学校や塾の行き帰りに通る場所だ。
それほど細かく見てるわけではないが、かと言って見覚えが無いというわけでもない。
しかし、違いを見つけられるほど違いが分かるわけでもなかった。
そもそも、今の周囲の状況で何かおかしな所があるのか全く分からない。
「…………何が、ですか」
答えを求めて口を開く。
声が思った以上に小さく、かすれたものだった事に少女自身も驚いた。
「何が……違うんですか」
もう一度はっきりと尋ねる。
相手に確かめるために。
クイズや謎々をしてる余裕は無い。
必要なのは、確かな情報である。
頭を使って……などとやってる時ではない。
それはカズヤも同じで、もったいぶる事もなく教える。
「静かすぎると思わないか?」
続きは明日に投稿します。
時間はまだ未定ですが、とりあえず19:00を予定しています。
時間がずれる、あるいは投稿日そのものがずれるかもしれませんが、よろしくお願いします。
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