18話 迎撃 → 出現地
カズヤ達が化け物を撃退してる間に、調査に赴いてる者達は成果を上げていた。
襲撃が功を奏している。
出現によって足跡が残り、それを辿る事が出来る。
新しいものなので、出現地のかなり近くまでさかのぼる事が出来る。
人数を多めに投入していたので、場所の特定も通常より早く行う事が出来た。
良いことばかりというわけでもない。
封印派も足跡を見つければすぐにやってくる可能性がある。
足跡はカズヤ達だけのものではない。
見つける事が出来れば、封印派にだって格好の材料となる。
そして、人数において圧倒的な優位を保つのが封印派である。
対抗する側は無理をおしての調査が必要となった。
おかげでかなり早い段階での発見に至ったのは、各自の奮闘の結果である。
それでも二日は時間を費やす事となった。
これが早いか遅いかは分からない。
だが、まだ封印派が出現地を見つけてないのは確かである。
動ける者は即座にヨドミに突入するよう求められた。
「まったく……」
ワゴン車の窓の向こうで流れる景色を見ながらぼやく。
「補充が終わったらこれかよ」
「まあ、しょうがないでしょ」
隣に座るコウジがカズヤをなだめる。
調査のために出払っていた者達の大半が疲労を抱えてしまっている。
そのため、まともに動けるのがカズヤとコウジくらいしか残ってない。
他の者達も現地で待機しているが、ヨドミの中心部にたどり着けるか疑わしい。
疲労に加えて寝不足などもたたり、まともに行動出来るかどうかが分からない。
仮に破壊に成功しても、今後の活動や行動に差し支えが出てしまう。
ある程度の加勢はするにしても、最後の詰めはまだ余裕のある者に任せるしかなかった。
それがカズヤとコウジだったのは、皮肉なのか運命なのか。
護衛として残っていたおかげでさほど疲労はない。
気の補充につとめていたカズヤも、作業を午前で切り上げ、それからは休息につとめていたのである程度回復している。
コウジの方はほとんど消耗してない。
その為、護衛を交代して出現地に向かう事となってしまった。
交代と称して疲労した者達がワゴンで送られてきたのは冗談にしか思えなかった。
入れ替わりにワゴンに乗り込み、夜明け前の道を進んでいく。
「分かっちゃいるけど、酷いもんだな」
「いつもの事ではあるけど」
疲労が激しい者との交代はままある。
カズヤやコウジも、疲れて交代した事が何度かあった。
「もうちょっと人がいればねえ」
「引き抜きたくなるよなあ」
化け物に対応出来る人間が限られてるので出てくる問題である。
解消するには、コウジの言う通り余所から引き抜くしかない。
教育を施して人材を確保する、という事が不可能と言えるほど無理なのでどうしようもない。
それをするとなると、封印派からとなってしまう。
しかし、破壊する事で起こる変化に懸念を抱く者達ばかりなので、それが出来る可能性はほとんどない。
考えを変える者も時折出て来るが、それはさほど多くはない。
「どうにかならんかねえ」
ぼやくもカズヤとて要望がかなうとは思ってない。
思えないからこそ、落胆から転じた願望が出て来ると言える。
「とりあえず目の前のヨドミをどうにかしましょう」
つとめてコウジは前向きな事を口にした。
他の方向を見て現実を確認する事を拒否した態度から来るものであったが。
特に否定する事でもなかったので、「そうだな」とカズヤは応えた。
現地に到着しワゴンから降りる。
待っていた案内役の協力者二人が実際の場所まで先導していく。
いつも通りの住宅地の中を進んでいくと、さほど高くもないマンションの周囲に仲間が集まっていた。
対応能力者五人に、十人以上の協力者達。
それらが二人三人といった塊になって何カ所かに立っている。
化け物が中から出て来た時に対応出来るようにするため。
そして、封印派の接近を阻止する為だろう。
「状況は?」
挨拶も抜きに尋ねる。
その場を取り仕切っていた男が、
「中から二回ほど出て来た。
封印派の方は来てない」
と短く説明をする。
「場所は、このマンションの三階の部屋。
前々から出るって話があったようだ」
「事故物件ってやつ?」
「らしいな。
入居者がすぐ出ていくってので有名みたいだ。
不動産屋からも色々聞かせてもらったよ」
「よく話してくれたな」
「もしかしたら解決出来るかもって言ったら、喜んで協力してくれるって。
鍵も借りてきた」
随分と手際が良い。
何度も同じような事を繰り返してきたから慣れてきてるのだろう。
「助かるよ」
鍵を受け取ってマンションへと向かっていく。
「あとはこっちでどうにかするよ」
「頼んだ。
あいつらはどうにか止めてみる」
「頼む」
一番厄介な封印派の連中を押さえ込んでくれるならそれだけでありがたい。
また、少しでも早く解決するために、教えてもらった部屋へと向かっていく。
「ひどいな」
「よくもまあ」
低層ながらもついていたエレベーターに乗って三階に。
廊下に出て出した声がそれだった。
部屋だけでなく、階全体に不穏な空気が流れていた。
「こりゃ、他の部屋もまずいかもな」
「今までよく問題にならなかったもんだ」
直接関係ないにしても、接してる場所にはそれなりの影響がある。
当然それは上下にも及ぶ。
二階と四階でも何か問題が起こってるんじゃないかと心配になった。
「さっさと片付けるか」
「そうっすね」
目的の部屋の前で鍵を出し、あらためて腹をくくる。
表札のついてない部屋はそれだけでも周囲と違いを感じさせた。
普通の空き屋とは違う。
確かに人の気配が無いだけでも、どこか寂しげな印象を与える。
しかし、二人の前にある扉の向こうからは、それとは全く違った気配を感じさせた。
生理的な嫌悪感と忌避感を抱かせるような何かを。
「行くぞ」
「はいよ」
怯むことなく鍵を差し込み、扉を開けて中に入っていった。
続きは20:00の予定。
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