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【打ち切り】クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-  作者: よぎそーと
二章

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17話 行動 → 迎撃

 接近してくるにつれて警報が次々に鳴っていく。

 その波動を体に伝わる振動と、それによってもたらされる音のような響きで感じていく。

 道具によって展開されてる探知魔法にも反応があらわれてくる。

 まだ種類や特徴は分からないが、相手が空に浮いてるのは分かった。

 地上から数メートル、並んでる家の上を飛んでるのが探知の反応ではっきりする。

(虫かな)

 そういう形を取る化け物もいる。

 移動速度や動き方からそんな気がした。

 鳥などなら、もっと直線的に飛ぶし速度もある。

 これに対して虫型の化け物は、浮遊してるようにゆっくりと、蛇行するように飛ぶ。

 それが五つほど探知魔法にひっかかっている。

 面倒な相手だった。

 空を飛べるので接近戦に持ち込むのは難しい。

 動きを止める事が出来ればいいが、それがまた難しい。

 なるべく狭い場所に引きずり込みたいが、そんな都合の良い場所もそうそう無い。

 勝てないとは思わないが、分の悪い相手だった。

 ただ、自分一人で対峙するわけではないから、そこは気が楽である。

(何とかなるかな)

 やってみなければ分からないが、消散は十分あると思えた。



「来てるな」

 トランシーバー越しにカズヤと話しをしていく。

 相馬コウジは警報が鳴ってからこうしてカズヤと連絡をとっていた。

 内線が通ってればそれを使うのだが、あいにくとこのビルにそこまで便利なものはない。

 携帯電話は、外にいる仲間との通信手段なので、使用は控えている。

 そのため、日常的とは言い難い手段を用いていた。

 元々は境界やヨドミでの使用するためのもので、電波の届かない場所では重宝していた。

 こういった場合にも用いている。

 近距離なら何一つ問題は無い。

 傍受される可能性はあったが、聞かれて困るような事は話しはしない。

「どうする。

 こっちから出て行く必要はないと思うけど」

 手にした軍用ライフル型の電動ガンを手に尋ねる。

 わざわざ向こうから来てくれている。

 外に出向いてやりあう必要はない。

 まして相手は空を飛んでる。

 開けた所ではコウジ達の方が不利になる。

『立て籠もりましょ。

 引きつけてからの方が楽だし』

「はいよ」

 意見が同じなので助かる。

「それじゃ、近づいてきたらやるから。

 そっちからも援護をお願い」

『分かった。

 けど、必要か?』

「まあ、何かあった時のために」

 実際にはそれほど必要になるとは思えない。

 相手の強さによるが、それほど手間はかからないと思えた。

 それでも頼むのは、何かあった場合の保険としてお願いする程度である。

 どこで何が起こるか分からないから、多少の慎重さは必要だった。

 飛行してるので幾分厄介ではあるが、そう気負う必要があるほどたいそうな敵とも思えなかった。



 近づいてくる敵に銃口を向ける。

 雑居ビルの最上階で窓を開け、近づいて来る敵を見定める。

 おもちゃの銃につけた本物の照準器で狙いをつけていく。

 使うのがオモチャの銃なので、射程はそれほどではない。

 せいぜい二十メートルから三十メートルというところ。

 最大でも五十メートル飛ぶかどうかである。

 なので倍率の高い狙撃眼鏡はつけてない。

 せいぜい、肉眼よりはよく見えるというくらいである。

 それで十分だった。

 化け物との遭遇による境界化などは、それくらいの距離に入ってから始まる。

 何百メートル先まで見通せるような狙撃眼鏡は必要ない。

 境界化してから相手を狙うまでの時間は短くなるが、それだけ近ければ簡単に見つけられる。

 素早く発見しないと相手の接近を許してしまう事になるが、そこは身につけた能力を信じて対処するしかない。

 最後の警報が鳴るのを感じる。

 それが置かれてるのが、雑居ビルから五十メートルの範囲。

 境界化がなされていくのも感じた。

 肉眼と照準器を交互に見て敵を探す。

 気を張り巡らして探知を開始し、すぐに見つける。

 ありがたい事にほとんど正面からやってきている。

 狙いをつける手間もほとんどかからない。

 照準器にとらえた化け物の姿を見て、遠慮無く引き金を引く。

 モーターが動き、直径六ミリほどのBB弾が発射されていく。

 当たれば痛いが殺傷力のほとんど無いはずのプラスチックの玉は、連射で射出され化け物を打ち抜いていった。



 体や武器に気をまとわせえて威力や防御を上げるように、射撃武器にもそれを用いる事が出来る。

 射撃武器の場合は、弓や銃に気をまとわせる事で、そこから発射される矢や弾丸にも威力向上させる事が出来た。

 ただ、間接的な気の付与になるため、威力はどうしても低くなる。

 この為、射撃武器による攻撃は接近戦に比べて有効打になりにくい。

 矢や弾丸などに気を付与すれば違うのだが、外れてしまったら意味が無い。

 それに、何発分も付与するのは気力の消耗が激しくなってしまう。

 こういった問題があるため、射撃武器はどうしても一段低く見られる傾向があった。

 遠距離から一方的に攻撃出来たり、飛行してる敵をとらえる事が出来るほとんど唯一の手段であるが。

 ただ、それでも使い道はあった。



 一発の威力が低くても、連射が出来るならそれほど問題にはならない。

 まとめて何十発も叩き込めるなら、一発の威力の低さをそれなりに解消出来る。

 加えて、オモチャであっても、気をまとわせればそれなりの殺傷力を得られる。

 それらを考えれば電動ガンといったオモチャの銃は割と優れた武器になり得た。

 物によるが、数百発のBB弾を内蔵し、それを連射する事が出来るのが電動ガンなどのオモチャの銃である。

 引き金を引きっぱなしで数百発を一気にばらまくのは、化け物との戦闘で大きな利点になる。

 今もコウジによって数十発の弾丸を撃ち込まれた化け物が撃墜されていっている。

 使い道を間違えなければ、射撃武器も十分役に立つ。

 実銃が手に入れにくい、所有してても携帯しづいらい日本である。

 こういった道具の方が使い勝手が良いとも言えた。

 比較的安価に手に入るという見過ごせない利点もある。

 その利点をコウジは披露していく。



 飛んできた化け物が狙いをつけられ、次々と撃墜されていく。

 予想通り昆虫型(ハチに近い形態をしている)だった化け物は、次々に体を吹き飛ばされ、中の核を剥き出しにしていく。

 そこに数発のBB弾が当たると、結晶状の核にヒビが入っていく。

 一発の威力がやはり低いのですぐには消えないが、入ったヒビが修復される事は無い。

 一旦入ってしまった傷はひろがる一方となる。

 それでも接近してくる昆虫型の化け物共であったが、それもビルに接触する前に終わった。

 境界化した空間の地面に落ち、残った体でジタバタともがいている。

 戦闘と言うのをためらう程の一方的な攻撃となった。

 化け物達はどれも核を撃たれてるので長くは保たない。

 放っておいてもいずれ消えていくだろう。

 なかなか用いる事が出来ない遠距離攻撃であるが、それが可能であった場合こういった一方的な展開となる。



「とどめはどうする?」

 窓から地面を見下ろしてカズヤに聞いていく。

 コウジの方でやるべき仕事は終わったので、あとはカズヤに任せてしまっても良かった。

 だが、下の階にいるカズヤもそのつもりはないようだった。

『そっちで片付けるなら譲りますよ』

「わかった。

 じゃ、こいつらは俺の方で片付ける」

 そう言って銃を別の物に持ち帰る。

 同じように照準器をつけたそれで、もがく昆虫型に狙いをつける。

 その場から動けなくなってるので対処は楽だった。

 狙って撃って、核にBB弾を当てる。

 持ち替えた方の銃に入ってるBB弾には、一発一発に気を込めてある。

 化け物限定であるなら、威力は通常の攻撃に匹敵する。

 数を揃える事は難しいが、動けない相手にトドメを刺すならこちらが便利である。

 こんな相手に使うのは少々もったいないが、下まで出向くわけにもいかない。

 再び襲ってくるかもしれない敵に備えて、守備位置からの移動は可能な限り控えねばならない。

 上階から下に向けて撃っていくしかない。

「あーあ、もったいねえ」

 再び気を込めた弾丸を作るのにまた手間をかけねばならない。

 それでも躊躇う事無く引き金を引いていく。

 一発一発、今度は丁寧に狙いをつけていった。

 BB弾は核を打ち抜き、砕いていく。

 ハチに近い形をした化け物どもは、動きを完全に止め、散り散りになって消滅していった。



『お見事』

 トランシーバーから消散の声が届く。

『いつもながら良い腕だ』

「そんな大したもんじゃないよ」

 謙遜はしておくも、褒められて嫌なわけがない。

「境界でしか使えないから、こういう時にがんばらないと」

 そうも加えていく。

 屋外で発生する事が多い境界でなら活用出来る場面もある。

 だが、入り組んだ構造をとってる場合のヨドミでは有効活用しにくい。

 中には広々とした空間を形成してるヨドミもあるが、それに当たるかどうかは入ってみないと分からない。

 それなりに便利な銃ではあるが、使いどころを選んでしまうのが難点だった。

 接近戦でもそれは言えるのだが、銃はそれ以上に用い方を考えねばならないと思われている。

「もうちょっと活躍したいもんです」

『いやいや。頼りにしてるよ、俺は』

「またまた」

『まあ、また何かあったらお願いするよ』

「はいよ」

 そう言ってトランシーバーを置く。

 次があるかは分からないが、備えておかねばならない。

 弾倉を交換し、使った分の弾丸を補充していく。

 使ってしまった気を込めた弾丸の方も補充しておきたかったが、さすがにそこまで余裕は無い。

 次の襲撃がいつあるか分からないので、消耗は極力避けねばならなかった。

 今までためてきた分があるから、すぐに無くなるという事もない。

 後日あらためて気力を込めた弾は作り直す事になる。

 それと、使った電動ガンの電池残量を調べる。

 それほど使ったわけではないから交換はまだ必要ないだろうが念のために。

 使ってる最中に電池切れでは洒落にならない。

(…………問題は無いか)

 多少減ってはいるが交換するほどではない。

 再び接続して銃の中に戻す。

 開いた窓も閉めて待機に戻っていく。



「さてと……」

 携帯ゲーム機を手に取り、中断した所から再開する。

 基本的に長丁場である。

 それに戦闘し続けてるわけではない。

 間の時間はこうして時間を潰していた。

 何かが接近してくれば、警報が教えてくれる。

 定期的に外を確かめる必要もさほどない。

 次の襲撃が来るか、先ほどの化け物が飛んできた場所を見つけて破壊するか。

 そのどちらからなされるまでは、こうやっているしかない。

 護衛や待機の辛いところである。

 あるいは役得であるかもしれなかった。

 続きは明日の17:00予定。

 誤字脱字などありましたら、メッセージお願いします。

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