163話 暗がりへ
「道を開けろ!」
カズヤの叫びが響き続ける。
言われるまでもなく、通路の方に多くの者達が突入していっている。
気力が波のように押し寄せていき、並み居る化け物に衝撃を与えていく。
銃撃がそれらを蹴散らし、そこに近距離戦闘を旨とする者達が突っ込んでいる。
すぐ後を気力・射撃を中心とした者達が追っていく。
それらの背後をカズヤと何人かの仲間が守っていた。
あらわれたトガビトを引きつけ、食い止めねばならない。
背後から攻撃されてはひとたまりもない。
時間を稼がねばならなかった。
その時間すら、ヨドミの崩壊によってどんどん失われていく。
「とにかく粘るぞ」
方針を口にしながら襲ってくるトガビトを倒していく。
この場に残ってる数人で十体のトガビト相手は厳しい。
しかし、少しでも時間を稼がないといけない。
余裕なんてこれっぽっちも無いが、それでも他の者達が通路を開く時間を作らねばならない。
通路の確保が終わるまでは、接近を阻まねばならなかった。
通路の方の化け物もかなりの数で、簡単に無くなる事はなかった。
倒しても倒しても町の方からやってくるのか、ほとんど減る事がない。
一気に倒して道を造り、それから進んでいく。
倒した後に化け物が再び押し寄せる前に距離をつめる。
その繰り返しでいくしかなかった。
進みは遅い。
それに、気力などの残りも少なくなっている。
(せめて、広間に出られれば)
誰もがそう思った。
こんな狭い通路の中では、敵を避けて進む事など出来ない。
それよりも、蟻塚の並ぶあの空間に出ればまだ逃げ道を見つける事が出来ると。
そうであって欲しいという願望だろうが、誰もがそう考えていた。
その為に、狭苦しい通路を抜け出さねばならない。
通路を切り開いていく者達を援護すべく、ユガミのいた広間の入り口でカズヤ達は粘っていた。
崩壊が進んでいるので、そこからいずれは下がらねばならなくなる。
だが、それまで少しでもトガビトを食い止めねばならない。
通路に障壁を張ってしまえば、とは思ったが、それではトガビトを倒す事が出来ない。
障壁の耐久時間を少しでものばすため、攻撃をしてくるトガビトを減らしておきたかった。
その為、ギリギリまで戦闘を続けていくつもりだった。
(けどなあ……)
切り結んでるトガビトの向こうを見る。
進んでくる崩壊を考えると、そう悠長な事も言ってられないかもしれなかった。
(一匹だけでも倒せるといいんだけど)
なかなかどうして、トガビトもなかなか粘ってくる。
先ほどから何度か攻撃をくらってるカズヤは、下手するとここで倒れるかも、と思ってしまった。
そんなカズヤの怪我を後ろから気力で治療しているのがアヤナだった。
カズヤ達が調査などをしてる間、彼女も各地のヨドミに潜り、その攻略をしていた。
修養値を稼ぎ、成長をして、いまでは多少の援護は出来るようになっている。
まだ未熟もよい所だが、役に立たないという事もなくなっている。
だが、まだ戦場に慣れてるとは言えない。
ことに、目の前にかつての仲間が敵としてあらわれてる事に動揺している。
(ユウキさん……)
自分がこんな事に巻き込まれた時に、カズヤの次にあらわれた相手である。
以来、なんだかんだと一緒にやってきた。
分からない事を教えてくれた先輩である。
そんな者がトガビトとなってしまっているのだ。
気持ちがゆらいでも仕方が無い。
感傷にひたっているわけにもいかないが、涙が出そうになった。
相手のこちらを見る目に、何ら感情らしきものが浮かんでなくても。
あるいは、それこそが最も悲しい事にもなった。
通路を行く者達の先頭集団にあって、コウジはひたすらに銃弾をばらまき続けていた。
相変わらずのBB弾による攻撃であるが、雑魚の化け物ならばそれで十分だった。
数多くあらわれる相手には、むしろその方が都合が良かったかもしれない。
威力は大したことはないが、普通の銃器より弾丸を多く用いる事が出来る。
質より量が求められるこの場面ではうってつけだった。
それでも、さすがに弾丸が心許なくなってくる。
さすがに自分の接近戦をするしかないか、と思って胸にはりつけたナイフを意識する。
ここまで一回も使ってないが、さすがにこの先は使わないといけないかもしれなかった。
そうなる前に、せめて通路を突破したかったが。
(いけるか?)
通路はかなり戻ってきたはずだった。
あと少しで蟻塚の広間に出られる。
そこまで行けばどうにかなる……と思っていた。
実際にどうなるかは全く分からなかったが、そこに希望を見いだしたかった。
(そしたら、カズヤさんに前に出てもらって、強行突破だな)
後ろから迫って来るトガビトも怖いが、それよりも道を塞ぐ化け物共である。
それらをかいくぐっていくには、カズヤの突破力が必要になると思えた。
(生きてるといいけど)
殿をつとめているのが分かってるだけに、そこが気がかりだった。
トガビトを切り捨てる。
後退しながらの戦闘なのでどうにも分が悪いが、それでもギリギリのところで勝っている。
倒したトガビトは三体。
まだ七体いるが、それらも一斉に襲ってこれるわけではない。
一度に二体、せいぜい三体。
それならば、もう一人と協力して足止めは出来る。
崩壊も含めて分の悪い追いかけっこだが、何とかやりきれそうな気がした。
しかし、後列にいるトガビトが放った気力の塊が状況を一変させる。
カズヤ達の横を素通りしたそれは、アヤナ達後列との間で派手に爆発した。
「うわ!」
「ひゃあ!」
悲鳴が上がる。
威力そのものはカズヤ達を倒す程では無かったが、衝撃が大きい。
それを受けて倒れそうになる。
慌てて踏ん張ろうとしたカズヤだが、さすがに無理と思って倒れる事にした。
受け身はとったので前後不覚になる事は無かったが、それでも隙を見せる事になる。
それでも他の者に比べれば随分とマシだった。
同じように前に出てトガビトを防いでいた者は、踏ん張って棒立ちになったところをトガビトに狙われた。
体をトガビトの武器が貫き、それが命を絶ちきっていく。
後列にいた者達も、トガビトからの遠距離攻撃を受けて一人が吹き飛んだ。
五人いた殿が三人になる。
それは戦力差を大きくする事になった。
あわてて起き上がったカズヤが、手近にいたトガビトを斬りつける。
それで相手を一体倒す事が出来たが、敵はそこで止まらない。
残った他の者達がカズヤに襲いかかる。
身をひねって避けようとするも、全部はかわしきれない。
やむなく前に出て攻撃をやりすごす。
逃げ場がそこにしかなかった。
そして、それは目前まで迫った崩壊に近寄る事になる。
振り返って戻ろうとするも、今度はトガビトが道を塞ぐ。
崩壊に追い込もうとしてるのは明白だった。
「邪魔だ!」
刀の一閃が再び一体を切り捨てる。
七対三だったのが五対三になる。
それでもカズヤの不利は変わらない。
トガビトのうち三体がカズヤに向かってくる。
さすがにこれは厳しいものになる。
負けないでいるならどうにかなるかもしれないが、それでは崩壊から逃げる事が出来ない。
必要なのは、三体を突破する事だった。
なのだが、さすがにそれは無理そうだった。
強行すれば、トガビトの一体を倒す事は出来るだろう。
だが、残り二体の攻撃を受ける事になる。
それを避ける事は無理だ。
(しゃあねえか)
迷ってる暇もない。
万が一の可能性と仲間の援護を信じてカズヤは突破を計った。
目の前の一体を切り裂く。
狙い通りそれを一気に真っ二つにする。
しかし、切っ先を切り下ろしたところを残り二体が襲ってくる。
さすがに避けきれない。
身をよじるが、攻撃があたる。
その動きで傷は浅くなったが、痛手を被ったのは確かだ。
すかさずアヤナの治療が飛んでくるのである程度ふさがりはするが、状況はあまり良くない。
それでもあと二体、いや、一体倒せばどうにかなる。
はずだった。
「え?」
突如、体が宙に浮いた。
何だと思って見上げると、目の前にユウキの顔があった。
(ああ、なるほど)
体当たり、というより抱きついて抱えあげたのか、と理解する。
その先には、崩壊した空間がひろがっていた。
(やってくれるよ……)
いずれ行くつもりだった場所に、思ってもいなかった形で突入する事になった。
(ま、しゃあねえか)
その先に何があるのか分からないが、こうなってしまったら仕方が無い。
行った先でどうにかするしかなかった。
ただ、抱きつかれたままというのも面倒そうなので、ユウキを蹴り飛ばして離す。
(さて、どうなるやら)
暗がりの中に落ちていく直前、苦笑しながらそう思った。
その耳に、
「カズヤさん!」
叫び声が届く。
目を向けると、手を伸ばしてくるアヤナの姿が見えた。
とまあこんな所で、とりあえず一度話を止めます。
終わるわけじゃありません。
思いつきで、新しい話を始めようと思ったもので。
今後はそちらとこちらで交互に話を進める事になるかと。
ただ、一日おきに交互とかではなく、どちらを掲載するかはその時の気分次第となります。
計画的に進められればいいのだけど、そういう能力がないもので申し訳ない。
こちらの話も、完結まで進めていきたいとは思ってます。
なお、新しい話は次のものになります。
異世界転生です。
少しでも楽しんでもらえればありがたい。
「 転生したけどウダツの上がらない冒険者は、奴隷を買う事にした 」
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