152話 動員
思った以上に効果があったのは喜ぶべき事ではある。
それは、もう一方の当事者を困惑させていくのに十分であった。
「やってくれたな、本当に」
苦々しいというよりは呆れた調子で言われ、カズヤは「そりゃ、どうも」と言うしかなかった。
「えらく息巻いてるのが増えて、こっちは大騒ぎだ」
「まあ、こうなったら諦めてくれ」
「仕掛けた奴が言うな」
「もともとそうなる下地があったんだから仕方ないだろ」
「まったく……」
それでも大して追求するつもりもないのか、文句を言ってる方もそれ以上突っ込まない。
「おかげで決まったよ、例の廃坑への突入が。
うちだけじゃ足りないんで他の所からも人を集める事になった」
「そりゃいいな」
化け物の数を考えれば妥当な所だった。
レベルの低い封印派では、数を揃えない事にはどうしようもない。
それも一カ所からだけではなく何カ所からも。
「手間がかかるだろうけど」
労力を思うと多少は同情したくなる。
「他人事みたいに言うな」
「他人事だよ、俺らからすれば」
カズヤは冷めた態度で応じる。
「やる気を出してくれるなら歓迎だけど」
組織力も人数も上回ってるのだ。
もう少し化け物への対応を強化してもらいたかった。
それを自分達の都合で控えてるのだから腹が立つ。
今回、多少なりともやる気を出してくれてる連中がいるのはありがたかった。
出来ればそのまま封印なんてせずに、ヨドミの破壊に向かってくれればなおありがたい。
さすがにそこまで行かないだろうとは思っているが。
「でも、気をつけて頂戴。
連中、数はべらぼうに多いから」
「はいよ」
言いながら男はため息を吐く。
「その準備でこっちは大変だよ」
封印派にいる内通者は肩をすくめた。
着々と準備が進んでるのは目出度い事である。
その間にカズヤ達も突入準備をととのえていく。
道具もそうだが、一番難航してるのは人手だった。
どうしても人数の確保が難しい。
単に集めるだけなら楽なのだが、今回は封印派の行動も絡んでくる。
出来るなら封印派が突入した跡に続く形で入っていきたかった。
ある程度片付いた後でないなら、わざわざ封印派をけしかけた意味がない。
その日程調整がどうしても難航してしまう。
時間があいてしまえばまた化け物が復活してしまう。
出来るだけ封印派が突入した直後くらいに集まって突入したかった。
そうなるとどうしても日取りは限られてくる。
その為、都合の合う人間が限られてしまう。
おまけに、封印派の行動がまだ決定ではないからどうしてもはっきりとした日取りが設定できない。
日程事態は内通者から聞き出しているのだが、そちらでもまだ確定してるわけではないのではっきりとした日付は聞き出す事が出来なかった。
なので、予定日を幾つか設定し、それに都合のあう人間をそこに当てはめていくしかない。
どうしても人数にばらつきが出てしまうし、無駄も多くなる。
全てを思い通りに動かせれば良いが、相手あっての事なのでそうはならない。
多少は働きかける事が出来ても、そうそう都合よく動くわけではない。
どうしても相手の動きに合わせていく事になる。
自分達の都合で動かしているのは確かだが、動かした相手に引きずられてしまってる。
人数が増大するという最大の利点を用いるための、どうしてもつきまとう負担と言うしかない。
ただ、集まってくる封印派の数はさすがと言えるものだった。
当初はヨドミの周辺地域から有志が集まっただけであるが、それでも一百人に迫る数に一気に膨れあがった。
更に周辺地域からも人が集まり、すぐに数百人という数になっている。
さすがにこれ以上の膨張はなさそうだが、さして労せずこれだけの数が集まるというのは封印派の強みだろう。
封印に回らず、破壊していったなら、ヨドミもそれほど拡大せずに済んでいただろう。
大げさにいうならば、思想の違いというものに行き当たるかもしれない。
その違いが行動の違いになり、結果に影響を及ぼしてしまっている。
どちらが良いとはまだはっきり判明していないから断言は出来ないが、化け物を駆除し、現実の状況や状態を改善するという部分に限って言えば大きな損失にすら思える。
カズヤ達はそう考えてるし、だからこそ切歯扼腕といった気持ちを抱いてしまう。
だが、理由はどうあれ、それだけの人数が動いたという事で今回は大いに助けられている。
それも封印が目的ではあるにしても、その事はとりあえず忘れる事にした。
場所は分かってるのだから、封印された後に破壊しに行けば良い。
ずるいと言えばそうかもしれないが、良心が痛む事はない。
日頃受けてる嫌がらせ(などと言うような甘いものではないが)に比べればこれくらいは大した事は無い。
カズヤ達ヨドミを破壊して回ってる者達の大半はそう考えていた。
過去の経緯のあるカズヤは特に強くそう考えていた。