144話 ダンジョン
廃坑への突入はさすがに簡単にはいかなかった。
中の様子が全く分からないのが大きい。
地中深くまで掘り進めてあるであろうし、坑道がどのように伸びてるのか分からない。
何せ時代が古すぎる。
戦国時代の頃の図面などが残ってるわけもない。
探せばあるのかもしれないが、それを見つけるのに費やす時間は膨大なものになるだろう。
また、残っていたとしても、おそらく歴史的な価値が高くておいそれと閲覧できるとは思えない。
やむなき事だが、実際に中に入り少しずつ調べていくしかない。
素人がやるのは危険過ぎる。
せめてとばかり、専門家などを探して注意事項を聞き出そうとした。
今でも採掘を仕事としてる者はいる。
そういった所から少しでも心得を得て、作業に活かしたいところだった。
焼け石に水でしかないにしても。
いつも以上に進退の確保が難しいのが問題だった。
ヨドミがすぐに出入り出来る場所にあるわけではない。
どこにあるのか探さねばならないし、途中で遭遇線になる可能性もある。
下手に騒げば崩れ落ちるかもしれないので、迂闊な事は出来ない。
大きな音ですらどんな影響をもたらすか分からない。
慎重さがどうしても求められる。
周囲に大きな振動を与えないのは最低条件だった。
また、明かりが無いのが面倒である。
どのくらい奥まで行くのか分からないが、当然ながら日差しがそこまで届く訳がない。
照明を中に持ち込み、視界を確保していかねばならない。
各自に懐中電灯を持たせるのと同時に、通路にそれなりの数の照明を設置していかねばならない。
とりあえずキャンプ用のランプ型電灯を用意していく。
他にも、化け物相手の時の常備品として、札や塩なども用意していく。
相手の動きを封じ込め、外に出さないようにするために必要になる。
坑道に入る前の段階でも、入り口にはそれらを設置してある。
これによってどれだけ被害を防げるのか分からないが、必要以上に問題を拡大しないで済むはずだった。
同じものが坑道内においても必要になるだろう。
下手に戦闘が出来ない以上、化け物の動きを封じていくしかない。
設置しておけば化け物相手の地雷のような効果をもたらしてくれる。
特に今回は動ける範囲が決まってる坑道の中である。
外に出るためには無理をしてでもそれらを超えていかねばならない。
化け物からすれば命がけとなる。
出来るだけ多く持ち込みたいものだった。
それらを持って、少しずつ中に入っていく。
奥まで行くのは無理にしても、ある程度の位置まで探索出来るように。
状態の確認をして、地図を作りながら進んでいく。
正確な測量が出来るわけもないが、おおよその構造を把握出来るようにはしていく。
照明や化け物除けも設置し、坑道の自由を確保しながら。
「ヨドミに潜るみたいだな」
廃坑に入って作業を進めながら、そんな事を呟く。
「どうしたんすか、唐突に」
カズヤの言葉に、コウジが不思議そうに尋ねる。
「何となく、そう思ったんだよ。
現実でヨドミに入るような事になるとは思わなかったし」
「まあ、それはそうかもしれないっすけど」
違うとは言い切れないものがあった。
薄暗い通路と時折あらわれる分岐。
それらがどことなくヨドミの内部のように思えた。
「でも、どっちかっていうと、ダンジョンの方がそれっぽいと思いますよ」
「ダンジョン?」
「ゲームとかにある洞窟ですよ。
化け物とかがいる」
「なるほど」
それも違和感なく受け入れられる。
化け物が出て来る迷路みたいな洞窟というなら、確かにダンジョンと言っても良いだろうと。
「じゃあ、俺達は化け物を倒す勇者様か?」
「かもしれないっすね」
通路を記録し、照明を置いていきながらそんな事を喋っていく。
「だとしたら、もうちょっと難易度下げてもらいたいよ。
素人でもクリアできるように」
出来るわけがないとは分かっているが、そう言いたくなる。
これがゲームなら、バランス調整が全く出来てない。
手間と面倒がかかりすぎている。
「神様にでもお願いするしかないですかね」
「いるならやりたいよ」
「問い合わせようにメールを送信しながらっすか?」
「もちろん」
そう言って笑い合う。
たいして面白くもない事を言ってるのだが、それでも多少は無理して笑っていく。
そうでもしなければ気分が萎えていってしまう。
ヨドミとは違った暗さは、化け物を相手にする場合とは違った怖さを抱かせる。
それを打ち払うために、馬鹿話や笑いが必要だった。
それが洞窟の中でかすかに響く。
わずかながら残響を発生させ、カズヤ達を包み込み。
「……響くな、声」
「ですね」
言う程大げさなものではない。
しかし、確かにある現象に、二人はあらためて感じる。
たとえヨドミでなくても、ここが普段いる場所とは違うのだという事を。
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