13話 協力者達 → 日常業務
「…………」
寝起きは決してよいものではない。
頭が回らないし、目が開かないし、体が動かない。
昨夜は早めに寝る事が出来たはずなのだが、起きても体調は万全とはいいがたかった。
なんだかんだで疲れがたまってるのだろう。
ステータス画面に表示される生命や気力の値は最大値まで回復してる。
しかし、それではあらわしきれない何かが、カズヤを蝕んでるような気がした。
単純に寝起きが悪いだけであろうが。
日が変わってもやる事は変わらない。
朝を迎えて一日が始まれば、次の作業にとりかかる事になる。
ある程度の休みは必要だが、そうしてばかりもいられない。
カズヤが動いてるように、他の仲間も動いている。
それらの動きを見つつ、自分も動いていかねばならなかった。
携帯電話など着信履歴やメールなどの確認を始め、ネットでのやりとりも確かめていく。
何本かの受信があり、それらに目を通して内容を確かめる。
大半が活動の開始や終了の報告などである。
ヨドミやユガミの対処が出来る者は限られてる。
そのため、誰の手が空いてるのか、誰が活動中なのかをはっきりさせる必要があった。
誰が空いてて誰が動いてるのか分かってなければ、手助けに行く事も援助を求める事も出来ない。
その為、今現在の状態をはっきりさせておくのは半ば義務のようになっていた。
カズヤも既に作業終了のメールを送信している。
その為、手助けを求められる可能性があった。
今のところそういったメールは送られてきてない。
だが、急に呼び出される可能性もある。
こういう時は持ちつ持たれつなので、カズヤも出来る限り応じる努力はしている。
起きてすぐの確認もその一つだった。
他にもなるべく頻繁に着信がないかを確かめている。
お互いに相手の命を支え合ってるのだ。
自分だけ手を抜くわけにもいかない。
ただ、大半の者達の状態は「行動中」である。
空いてる人間はほとんどいない。
全員が調査に乗り出してるようだった。
ヨドミが見つかったり、うろついてる化け物を発見したりというわけではない。
それらを見つけるために活動中という場合はこういう宣言がなされる。
ヨドミの破壊などの大がかりな作業があった後ならば「休養中」という者もいる。
何かと大変な作業になるので、そういう場合は休みをとる事になっている。
また、一週間に一度か二度は休暇をとる事にもなっている。
明確な勤務形態があるわけではないので、それは各自が自由にとる事になる。
このあたりはシフト制の勤務形態に近いかもしれない。
各自の体調と用事と気分、他の者達の勤務状況などを見て都合をつけている。
カズヤも休養をとっていた口だが、それを変更する。
「行動中」とだけ記したメールを送信し、作業に入っていく。
この瞬間、カズヤにとっての休暇は終わった。
アパートから駅まで出て、雑居ビルの五階に向かう。
探偵事務所の看板を掲げるそこに入り、「こんちわー」とやる気のない挨拶をする。
中にいた所長と事務員の二人が「よう」「おはようございます」と挨拶をしてくれる。
片方は中年のオッサン。
もう一人はスーツとタイトスカート姿の女。
この小さな事務所の正式な所員である。
実態はともかくとして、一応この二人で探偵業を営んでる事になっている。
そんな二人はカズヤに、
「大丈夫なんですか、昨日の今日で」
「もう少し休んでいた方が良いのでは?」
と気を遣ってくる。
「こちらの方も特に重要な情報は流れてきてませんし」
「あと一日くらいはゆっくりしてた方が……」
気持ちはありがたいがそうも言ってられない。
「まあ、そう言うなって。
情報だけでも確認しておかないと、あとで困るし」
ここには仲間が集めた情報が集約される。
各地にある同じような組織とも連絡をとりあっており、それらとも情報を共有している。
それを確かめておくだけでも対応が違ってくる。
進展は無いかもしれないが、ある程度の状況は知っておいた方が無難だなった。
「言いたい事は分かりますけど」
所長のオッサンは「やれやれ」と言わんばかりだった。
「休む事も必要ですよ。
勤勉も度が過ぎると毒になりますから」
「そうしたいんだけどね……」
カズヤとしても出来ればもうちょっと休みたいとは思う。
「稼ぎを減らすわけにもいかないし。
皆をただ働きさせるわけにはいかないし」
「そりゃそうかもしれないですが」
「あちらさんも、今は有力な情報を手にしてるわけでもないみたいですよ」
事務員が所長にあわせて声をあげる。
彼女のいう通り、あちらさんこと封印派は今の所さほど活発に動き回ってるわけではない。
彼らが調べられた範囲での話しであるが、少なくとも大がかりな動きはみせてない。
彼らが共有してる情報を見る限りはそうなってる。
「でも、油断は出来ないでしょ。
調査してる皆を疑うわけじゃないけど」
それはそれで貴重な情報だし、信用できるとは思ってる。
しかし、あくまで調べられた範囲での話である。
こちら側が及ばない場所で何かしらの秘め事を抱えてる可能性はある。
表だって動きが無くても安心は出来なかった。
「とにかく、反応が上がった所があるかどうかは調べてくるよ」
そう言ってから、背中に背負ったリュックをおろす。
「とりあえず今月分ね」
中から札束を取りだして所長の前に置いていく。
「とりあえず二百万。
今月分なら足りるかな」
「十分ですよ」
受け取りながら所長はそれを机の中に入れていく。
あとでこの金を事務所の維持費や諸々の経費にあてていく事になる。
事務所と契約という形で働いてる者達への支払いも含めて。
「お疲れ様です、本当に」
頭を下げる所長にカズヤは、
「皆がいてくれたからだよ」
と返す。
「だからここまで稼げるんだから」
その通りだった。
皆が集めてきてくれた情報があるから、ユガミを見つけらられる。
見つけられるから封印される前に破壊して修養値を手に入れる事が出来る。
そこに至る事が出来るのは、地道に調査を続けてくれる彼らがいてくれるからだった。
一番危険な所に入っていくのはカズヤかもしれないが、協力者がいなければそこにすら至れなかっただろう。
皆がいてくれたからという言葉には何一つ誇張はない。
紛れもない事実である。
少なくともカズヤはそう思っていた。
出資者の一人としてカズヤは、この探偵事務所にいる者達を頼りにしてるし、大事に思っていた。
「でも、無理はしないでくださいよ」
所長はそれでも気を遣う。
「助けてあげて欲しいですけど、それで皆さんが倒れたら元も子もないんですから」
「分かってるよ」
言いたい事は理解してるつもりだった。
「でも、二人みたいに助けられる人はどうにかしたいし」
「まあ、それは」
「そうしてもらえるならありがたいですけど」
所長と事務員の二人も、カズヤ達によって救われた者達である。
だからこそ、こうして協力をしている。
可能ならばかつての自分達と同じような状況に陥ってる者達を救いたいとも考えてる。
「でも、無理はしないでくださいよ」
そういうのが精一杯だった。
やらねばならない事ではあるが、無理はしてほしくない。
その両者の妥協点がその言葉なのだろう。
「はいはい」
気持ちはありがたいが苦笑するしかなかった。
続きは明日の17:00予定。
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