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127話 推測/憶測/予想/可能性

「あそこには意味が無いかもしれない」

 そこから始まるカズヤの話しに、その場にいた者達は耳を傾けていった。

「やたらと襲撃が多かったけど、もしかしたら何の意味もなかったのかも」

「どういう事っすか?」

 コウジが続きを求めていく。

「あそこに化け物がやたらと集まって事件を起こしてたけどさ。

 それって事件を起こすのが目的で、特別場所にこだわりはなかったかも」

「つまり?」

「もっと大事な所から俺達を逸らす。

 それが目的だったんじゃないかって思ったんだ」

 他の者達もカズヤの言わんとしてる事を理解していく。 

「それって……」

「陽動って事か?」

「そういう事」

 素直にカズヤは頷いた。



 化け物だけで行動してたならそうは思わなかっただろう。

 だが、トガビトがいて人間らしく考えて行動しているのだから、それくらいはあり得ると思えた。

 であれば、襲撃を含めた事件が多発していた場所に意味があったわけではない。

 それこそ適当に選んだだけだったのかもしれない。

 ユガミがある場所ならどこであっても。

 もちろん、事件が起こるように、ある程度の住居が集まってる地域の方が都合は良いだろう。

 人がいなければどれだけ化け物がいてもさして問題は起こらない。

 せいぜい、その地域の雰囲気が悪くなるだけである。

 いわゆる心霊スポットや怪奇現象の発生地域にはなるだろうが。

 今回、住宅地において事件が起こっていたのがそういう理由なら、場所に何の意味もない。



「化け物を寄せ付ける場所だった、って事なんじゃ?」

 居合わせた者が考えを口にする。

 どういう訳か化け物が発生しやすい、呼び寄せる場所というのがある。

 その反対に、決して化け物が踏み込もうとしない所もある。

 理由は不明だが、そういう状態になりやすい場所というのは確かに存在する。

 だが、今回特にそういう傾向があるとは考えられなかった。

 ヨドミが発生していたので、多少は何かを引き寄せてはいたのかもしれない。

 しかし、それなら他にも同様の場所は多数ある。

 可能性として否定しきれないが、それだけが理由とはとても思えなかった。

 もちろん、何かしら化け物が集まってきていた理由がそこにあるかもしれなかったが。

 それも、

「ヨドミが無くなった今どうなるかわからん」

 そういう事になっていく。

「当分は状況を確認した方がいいと思うけど、もっと周囲の探索が必要だと思う」

 もし想像通りだとしたら、どこか別の場所で何かしら動いてるはずである。

 そこを見つけて活動を阻止しなければならない。

「もう少し皆が回復してからになるだろうけど」

 身動きが取れない状態なのでどうにもならない。

 回復につとめねばすぐに息切れを起こしてしまうだろう。

 十全な状態にはまだ遠い。

「とりあえずは、他の所に連絡を入れておこう」

 出来る事はそれくらいだった。



 応援に来てくれた者達も自分の居るべき場所へと戻っていく。

 そのついでと言ってはなんだが、カズヤの考えも伝えてもらう。

 それでどうしろこうしろとは言えないが、幾らかの警戒がなされればという程度のつもりだった。

 上意下達の組織ではないだけに、余所への命令や指示が出来るわけではない。

 互いに連絡をとりあい、情報の交換が出来るというだけで、集中的な運用がなされてるわけではない。

 だからこそ、聞いた相手を動かす事は出来ない。

 受け取った者達の自由となる。

 大半が動く事もなく放り出すだろうが、やむをえないと割り切るしかなかった。

 もっとも、軍隊のような命令に必ず従う事が求められる組織であっても、指示が徹底されるとは限らない。

 指示や命令を受けても、手を抜いて形だけの作業に終わる事もある。

 特に重要と思われない事柄や、あまりにも困難で手に余るような事であればまともに動く事もない。

 そこにいるのが人間である以上、これはどうしようもない事だった。



(まあ、それはそれでも……)

 相手がどうなろうとやる事はやらねばならない。

 化け物が消えて無くなったわけではないし、発見されてないヨドミもある。

 それらを探して見つけていかねばならない。

 協力者達の助力も得ながら日々の作業をこなしていく。

 特段変わった事もなく、今までと違った何かがあるわけではない。

 化け物の姿もあまり見なくなった。

 トガビト達の襲撃を警戒していたが、それも無い。

 いつどこでやってくるか分からないので注意はしているが、姿を見ないでいるとどうしても警戒心が下がっていく。

 それは襲撃多発地帯でも同じで、数多くの被害者を出したにも関わらず、今では静かなものだった。

 化け物の姿を見る事があっても、それは平常の時と同じくらい。

 山は越えたのかも、と誰もが思った。

(んなわけねえよなあ……)

 そう思うカズヤは、可能な限り注意を喚起しようとする。

 しかし、一度ゆるんだ気持ちを元に戻すことは出来ない。

 そもそも張り詰めたままでいる事が不可能なので、どこかで緩急をつけていかねばならない。

 だが、それと意識して気持ちをゆるめるのと、流れにのまれて腑抜けになっていくのは訳が違う。

 一度低下した意欲は簡単に戻る事は無い。

 それまでが緊張の連続だったのもあり、一度落ち込んで意欲はなかなか盛り上がる事がなかった。

 そんな中、カズヤはつとめて警戒を続けようとしていた。

 絶対に何かがあると思いながら。

 それでも気持ちがゆるんでいくのを止める事は出来ない。

 何とか日々の作業を続ける事で、気持ちが最低線を割り込まないように保つしかなかった。

 日々の情報収集と巡回。

 気力を用いた道具の作成と、それらの設置。

 封印派の内通者からの情報収集と内部の動きの調査。

 それらが何時来るか分からない敵の動きへの対応を進めさせていた。

 周辺の同業者との連絡も含めて。



 周辺への注意喚起をすると同時に、カズヤは自分達の所で起こった出来事を周囲に伝えていた。

 何も無ければ「平穏無事」と伝え、化け物を発見すれば「こんな事があった」と教え。

 そうやって連絡を取り続ける事で、疎遠になりがちな周辺の者達との付き合いを保っている。

 何かあった場合に頼むにしても、平素からの付き合いが有るのと無いのでは大きな差が出てくる。

 狙いはそれだけではない。

 こちらから教える事で、相手からも何かを教えてもらえる可能性が出て来る。

 一方的に受け取るだけで済ます者もいるが、そんな人間ばかりではない。

 持ちつ持たれつでいこうとする者も中にはいる。

 全員ではないにせよ、そういった者との付き合いが生まれればそれで良かった。

 それが無くても、相手の地域における出来事を、「聞けば教えてくれる」という状態にしておければ良かった。

 そうすれば、どこで何が起こってるのかを把握する事が出来る。

 懸念している、化け物共の活動、本命である行動の一端が掴めるかもしれない。

 それがカズヤの求めるものだった。

 当然、周辺だけとの付き合いでどうにかなるものではない。

 より広範囲に、更に緻密な情報を集めたかった。

 その為にも、まずは手近な所との接点が必要になる。

 いきなり大きく作り出す事など、まず無理だ。

 呼びかけに応じてくれる者と繋がっていかねばならない。

 以前から少しずつやってはいたが、それを今回更に推し進めていった。

 より大きな事件が発生するやもしれないのだから。

 少しでも体制をととのえておきたかった。

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