表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/164

126話 休閑

 何とか片付けたとはいえ、状況は悪い。

 ヨドミと引き替えに仲間が二人失われた。

 トガビトも幾らか倒したが、連れ去られた者達の数を考えれば優勢とは言い難い。

 そもそも損失を出してる時点でかなり不利になっている。

 化け物は無尽蔵と言えるほど存在してるのに、カズヤ達は数を確保出来ないのだから。

 たった一人であっても、戦力が失われるのはかなりの痛手だ。

 今回、事務的に数字だけを見て考えても損害の方が大きかった。

 精神的な痛手はそれこそ天井知らずである。

 見知った者の消失に平然としていられる者は少ない。

 よほどの修羅場をくぐり抜けてきたか、気持ちを持たない冷血漢でなければ。

 この中では古参の部類に入る者達も、今回の出来事には衝撃を受けていた。

 カズヤも例外ではない。



 それでもこの先の事を考えていかねばならない。

 失ったものを取り返す事は出来ない。

 手元に存在するもので体制をととのえていかねばならない。

 人以外に失った道具もある。

 それらの補充をしなければならない。

 一般的に売られてるものなら即座に入手し、そうでないのは注文せねばならない。

 気力を込めねば作れない物はすぐにでも作業に着手しなくてはならない。

 それ以前に、消耗している気力を回復するための休息が必要だった。

 襲撃を警戒して、交代で見張りに立ち、休める場所を確保する。

 十八人で交代なので一人当たりの負担が少ないのは救いになった。

 二日三日と経てばかなりの回復がなされていた。

 大半が気力を全快させていく。

 負傷も気力を用いて治していく。

 効果が弱くても、自然治癒よりはよっぽど早く回復させられる。

 消耗を考えながら治療がなされていった。



 その間に協力者達に周囲の状況の探索もしてもらっていく。

 危険な場所はさすがに避けてもらっていたが、手の着いてない場所がどうなってるのかは見回っておきたかった。

 適当な所に警報となる札を貼ったり、化け物が侵入しにくくなるよう盛り塩やお守りを置いてもいった。

 ついでにヨドミらしき反応がないかも確かめてもらっていった。

 とりあずは安全と思われる所から。

 対応能力者の気力などが回復してきたら、それらを護衛にしてより広範囲に。

 周囲がどのように変化したのかを調べる必要があった。

 化け物による襲撃が多発していた場所が、何はなくとも解消されている。

 それによる変化がどれだけ出ているのかを調べねばならなかった。



 それと同時に、今回の一件による報酬も手にしていく。

 参観人数が多かったのでどうしても一人当たりの手取りは少なくなる。

 安全性を考慮すればそれも当然であるが、懐具合に響いてくるのは避けられない。

 今までの蓄えがあるので当面困りはしないが、いずれそれも底をつく。

 そうなるまでに稼ぎを増やしておきたい……誰もがそう思っていた。

 カズヤも例外ではない。

 が、それよりも先に別の方面への投資をしておかねばならなかった。

 修養値を使い、縁をたぐり寄せる。

 今回手に入れた分をほとんど全部使い切る事になったが、それでもやっておかねばならなかった。

(見つかるといいけど)

 そう願わずにはいられなかった。

 新たな能力者との出会いを。



 失った戦力の補充は必要不可欠になる。

 今回失った分をどうにかして確保しなくてはならなかった。

 消え去った者達の消息も気になるが、その為にも新たな戦力が必要だった。

 ただ、普通に待っていてはそのような者との出会いはほとんどない。

 化け物に襲われてる者を救出するときに、たまたま覚醒する者と出会う事もあるが、そのような偶然に頼るわけにはいかない。

 どれほど効果があるのか分からないが、手にしたものを用いて機会を増やしていかねばならない。

 無駄に終わる事も多いが、何かを手に入れる可能性もある。

 どちらかというと博打に近いものになってしまうが、それでも何もしないでいるよりは可能性は高くなる。

 それに期待するしかない。



 その一方で連れ去られた者達の救出が出来ないものかと考えていく。

 可能性は絶望敵に低いが、まだ生きてる可能性はある。

 ヨドミの崩壊に引きずり込まれた者達は死んでるわけではない。

 少なくとも最後に見た瞬間にはまだ生きていた。

 ならばヨドミの向こう側で生きてる可能性がある。

 その向こうがどうなってるのか分からないが、そこに行けば何かが分かるかもしれなかった。

 とはいえ、生きて帰れる可能性は、ヨドミへの突入より更に低くなるだろう。

 ヨドミからはまだそのまま帰ってこれるが、その先にあるかもしれない場所となるとどうやって脱出して良いか分からない。

 トガビトなどが出て来てる以上、何かしらの通路はあると思うのだが、それがどんな形をしてるか分からない。

 現状ではこちらから向こうへの一方通行にしかならない。

 こちら側から向こうにあるかもしれない場所を調べる事が出来れば良いが、そんな都合の良い方法など簡単に見つかるわけがない。

 どうにかしたいが、どうしても手詰まりだった。



 ただ、これらの事は他の者達にも伝えていった。

 かつてあった事と、その時聞いた言葉も添えて。

 特に秘密にしてる事でもないし、折を見て何人かには話していた事である。

 信じる者はさほど多くはなかったが、それでも何かしらの示唆を感じる者もいる。

 調べようがない事なので誰もが疑いはする。

 その一方で、機会をみつけて探索出来ればと考える者もいる。

 今回もそれは同様で、驚き疑う者がほとんどだった。

 だが、その中の何人かは「もしかしたら」という部分に可能性を見いだしていく。

 もしかしたら、生きてるかもしれない。

 もしかしたら、再会できるかもしれない。

 まず不可能であるのは承知しながらも、喪失感を幾分ぬぐい去る事が出来た。

 それだけでも十分に効果があった。

 たとえ無理だと分かっていても、希望があれば人は踏ん張る事が出来る。

 それは、再び希望が潰えた時に更に深く落ち込む事にもなるが、当面の支えにはなる。

 そうであれば幾らか時間を得る事が出来る。

 立ち直るまでの、気持ちの穴を埋めるまでの。

 完全に治す事は出来なくても、支障なく行動出来るようになるくらいになるまで己を保つ猶予を得られる。

 今はそれで十分だった。



 それらを踏まえて気になる事も話していく。

 もしかしたらという思いつきでしかないが、それでも話しはしておきたかった。

 どんな小さな事でも、決して自分だけのものにしない。

 どれほど取るに足らない事であっても、ちゃんと他の者達と共有する。

 すぐに何かが得られるわけでないにしても、それが何かにつながるきっかけになるかもしれない。

 だからこそ、情報は可能な限り共有しておきたかった。

 それを得た他の誰かが何かを知る事につながるかもしれない。

 既に得ている情報と組み合わせる事で、今まで見えなかったものが発見出来るかもしれない。

 より多くの者達が知る事で、それぞれが今後得てくる情報と融合するかもしれない。

 何にしろ、注意を促す事が出来る。

 意識をする事で、知り得た何かに該当する事に意識が向く。

 その事が直観の感度を上げていく事になる。

 だからその可能性について話しておきたかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ