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125話 想定外/思いつき

「待たせたな」

 外で指揮を執っていたものに声をかける。

「周りは化け物だらけみたいだが、こいつらを蹴散らせばいいんだな?」

「まあ、そんな感じですね」

 この場を守っていた彼は返事をしてから状況を説明していく。

「とにかくあっちこっちから攻撃されっぱなしですよ。

 ここから離れるわけにはいかないから大変で。

 動き回れるなら、もうちょっとどうにかなったんですけど」

「おかげで助かったよ。

 中でも襲われたからな」

 もし外から化け物が雪崩こんできたら更に悲惨な事になっていただろう。

「じゃあ、あとは勝手にやらせてもらいますよ」

「ああ、頼む」

 言いながらカズヤも仲間に声をかけていく。

 その場にいる化け物を倒すために。



 ヨドミの入り口を守っていた者達が自由を得ていく。

 外部からやってくる化け物を食い止めるため、ヨドミの入り口から離れられずにいたが、その制限が無くなる。

 移動出来る場所に制限がかかってしまい、その為どうしても主導権が握れずにいた。

 数の上で勝ってる化け物が相手だからどうしても不利にはなる。

 それに加えて更に不利な条件を背負うことになっていた。

 だが、ここからはそういった心配はなくなる。

 自分に有利な場所を探して動く事が出来るし、相手の隙を突くことも出来る。

 その事が外で待っていた者達の動きを軽くしていく。

 加えてヨドミから帰還してきたカズヤ達が加わる。

 人数の増大は状況の好転を呼び込んでいく。

 もちろんカズヤ達も消耗しているし、人数も減っている。

 だが、それでも状況が不利に傾く事は無い。

 数は多いしトガビトもいる。

 だが、カズヤ達の方が敵を凌ぐ勢いを持っていた。



 動きの自由を得た彼等は、押し寄せる化け物の勢いに逆らわずに後退し、左右に分かれていく。

 直撃を避けてから側面を突き、敵を分断していく。

 それから分断された化け物の一端を潰していく。

 分厚い敵列も、一点突破で突入し、二つに引き裂いていく。

 混乱が生じたところに更に突撃し、中を幸いに敵を倒していく。

 大きな塊となったために動きが取りづらくなってしまった敵の中を自由に動いていく。

 時に自らの意志で相手の中を切り開き、時に相手の動きに合わせて柔軟に対峙して。

 少人数だけにどうしても火力に限界が出てしまうが、小回りがきく事を活かしていく。

 動きやすく、統率しやすい。

 その一点をただ用いて化け物を攪乱していく。

 トガビトもそんなカズヤ達を捕らえようとするが、もとより力の差のある化け物では触れた途端に倒される。

 どうにかしてトガビト達がそこに近づこうにも、上手く距離をとられてしまう。

 カズヤ達を取り囲んでる化け物達が、トガビトとの壁になってしまっている。

 化け物を操ってカズヤ達を追い込もうとするが、他のトガビトが操る化け物と衝突する事さえあった。

 一度にトガビトが操れる化け物にも限りがある。

 だからこそ複数のトガビトで数多の化け物を操っている。

 しかし、トガビト同士で連携が取れてないので、無用な混乱が発生してしまう。

 大集団だからこそ発生する問題が生まれていた。

 全体を統率する者がおらず、部分部分において判断している者達が相手を見ずに動いてしまっていた。

 個別の自由や裁量は必要なのだが、全体を統括する方針も重要である。

 その方針を打ち出す統率者がいない事が混乱を発生させていた。

 もちろん各自がそれぞれの動きを読み、己のなすべき事を瞬時に把握していけば話しは違うだろう。

 その為には仲間を十分に知り、常に日頃から連携の訓練を積んでなければならない。

 でなければ、天才的な直観力が求められるだろう。

 人間を凌駕する能力を持つトガビトであっても、それらを備えてる者はいないようだった。

 あるいは互いのやりたいことを伝え合う通信手段があれば良かったのかもしれないが、それも彼等は持ち合わせていなかった。

 化け物を意のままに操る事と、トガビト同士で連絡を取り合う事は別のもののようだった。

 カズヤ達を包囲しているのは確かである。

 だからカズヤ達もこの場から逃れる事が出来ないでいる。

 しかし、出来ない事を利用してるかのうように、取り囲んでくる化け者達を倒していっている。

 それはまるで化け物が自らを処分する為の裁断機に、己の意志で向かっているようでもあった。



 カズヤ達も余裕があるわけではない。

 動き回るということは、その分疲労が溜まる。

 嫌でも持久力を消耗していく。

 気力も低下しており、長時間の戦闘は困難だった。

 化け物が先に潰えるか、カズヤ達が気力を失って昏倒するか。

 命がけのチキンレースになっている。

 ただ、動き回る中でカズヤ達もトガビトを倒し、化け物をこの場に繋ぎ止めてる強制力を断ち切っていく。

 人を見れば無条件に襲いかかるのが化け物の習性であるが、さすがにこのような状況でカズヤ達に向かっていくような者は多くはない。

 人への害意よりも己の生存を優先させたいという本能が動いていく。

 トガビトが一体倒れる毎に、全体の統率が失われていく。

 その分を他のトガビトが引き継ぐ事もあるが、許容量を超えるほどの大群をまとめる事は出来ない。

 一部は分散していきカズヤ達の周囲に綻びを発生させていく。

 それらがある程度進んだところで、化け者達の動きが変わっていった。



「ん?」

 化け物が離れていく。

 それは一部のものだけだったが、圧力が確実に減った。

 何が起こったのかと思ったがつぶさに見ている余裕はない。

 まだ目の前にいる化け物を倒し、その先にいるトガビトへと向かっていく。

 それを倒せば化け物の統率は失われる。

 それだけでも大分楽になる。

 だが相手もそれを察したのか、カズヤ達と距離をとっていく。

 向かっていく先のトガビトだけではない。

 他のものも同じようにカズヤ達から遠ざかっていく。

 逃げるのかと思ったがそれも考えづらかった。

 とりあえず距離を置くつもりなのではと思った。

(それなら……)

 逆に距離を詰める。

 少なくとも離されないようにしていく。

 上手く誘導されてるだけかもしれないが、あえてここは誘いにのってみる事にした。

 遠巻きにされるのもそれはそれで面倒な事になりかねない。

 それよりも、敵集団に穴を開けるために一カ所くりいは破っておきたかった。

 なのだが、他の敵はどんどん距離を広げていく。

 まさかと思ったが、本当に逃げに入ってるのかもしれない。

 化け物らしくなかった。

 しかし、動きを見るに化け物は確かにカズヤ達と距離をとろうとしている。

 追いかけてるもの以外は視界から消えていこうとしている。

 それを見てカズヤも足を止めた。

 他の者達にも指示をだす。

「探知を。

 あいつらがどこに展開してるのか知りたい」

 すぐに探知能力を持つ者が周囲を捜索する。

「……どんどん遠ざかってます。

 もうすぐ探知出来る範囲を超えます」

「逃げた……まさか」

 信じられないが、どうやら本当に逃げてるようだった。

 距離をとってから再度攻撃、という可能性もあるが、それにしては探知距離から外れるというのは考えにくい。

 それでも警戒はしていたのだが、境界化が消えた事で疑いが事実に変わる。

「……本当に逃げたのか?」

 化け物らしくなかった。

 トガビトが率いてるのだからそれもあり得るが、どうにも納得しがたい。

 いくらかカズヤ達がひっかき回したとはいえ、カズヤ達の消耗も大きい。

 気力は残り二割を切り、これ以上の戦闘は危険な所まできていた。

 化け物も大分損害を受けてるようだったが、もう少し続いていたらカズヤ達の方に損害が出ていただろう。

 その直前で相手が逃げたのが不可解だった。

 ありがたい事ではあったが。

(何考えてんだ……?)

 単に自分達の損害を考えて撤退したのかもしれない。

 だが、そんな単純な事ではなく、何かしらの策謀によるものかもしれないと考えてしまう。

 とりあえず今は生きながらえたが、この先で更に悲惨な事態に陥るかもしれない。

 どうしても警戒を解く事が出来なかった。

 この場で立ち尽くしてるわけにもいかなかったが。

「撤収しようか」

 そう言って仲間を促す。

 一度車の所まで戻ってこの場から離れる事にする。

 原因は結局分からずじまいだったが、この場にあったヨドミは破壊する事が出来た。

 これでこの周囲における化け物騒動が少しは落ち着いてくれれば、と願う。

 ただ、引き続き調査は必要かもしれないと思った。

 ここにあったヨドミとユガミは他のものと大差はなかった。

 その中における化け物の行動は異色ではあったが、トガビトが動いてるならそういう事もあるだろう。

 だが、この辺りで活動が活発化していた理由は分からない。

 特に大した事も無いヨドミとユガミのあるこの場に何かがあるとしか思えなかった。

 活動理由が分からないだけに不安は残った。

 これで終わりなら良いが、今後もこの付近で化け物が活発に活動をしていくなら足を運ぶ必要がある。

 油断は出来なかった。

 人手が減った今、それもままならないだろうが。

 ……そこまで考えてカズヤは「あれ?」と思った。

(まさか……)

 確証はない。

 ただの思いつきである。

 だが、もしかしてという可能性も考えてしまう。

 その考えが頭にひろがっていく。

 もしそれが事実だとしたら、という想定で頭が回転していく。

 様々な可能性が思い浮かび、それらから考えられる仮説が組み上がっていく。

(まさかな……)

 再びそう思う。

 だが、確認が取れてない以上、無視するわけにはいかない。

 まだ確認がとれてないから存在しない、というわけではない。

 確認がとれてないなら可能性はありえると考えねばならない。

 どれほど荒唐無稽でも、それしかありえないというなら確かめにいくべきである。

 帰り道、車に乗り込み事務所へと戻っていく途中も、カズヤは考えていった。

 思いつきと空想と、今後の行動を。





【獲得修養値総計: 四万一千】

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