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123話 分断

 危惧していた割には、ユガミはあっさりと倒す事が出来た。

 もちろん通常の化け物よりはるかに強力ではあるが、実力者五人がかかればそれ程手間でもない。

 案外呆気なく終わった事で、カズヤ達も拍子抜けしてしまう

 それでも警戒は解けない。

 今が簡単ということは、これからが厳しくなるかもしれない。

 そんな予想を誰しも思い浮かべた。

(また、あの時みたいになるのか?)

 かつての事を思い出しながらカズヤは、帰り道の事を考えた。

 怖いと言えば一番怖いのがここからである。

 道を塞がれればかなり辛い状態になる。

 多少は楽観してはいたが。

 何せ、相手に強力なトガビトは確認されてない。

 今まで見てきたものは、対処出来ないほど強いわけではない。

 そういう連中だけなら強行突破も出来ると思えた。

 こういう風に考える事が油断なのかもしれないが、悲惨なほど追い込まれてるとは思えなかった。

 ただ、どこから何が出て来るかは分からない。

 逃げ出していくであろう化け物の流れに気をつけながらも、外に戻っていく。

 ただ、やはり敵も普通には終わらせてくれなかった。



「前から来てる!」

 先頭に立ってる者達が叫ぶ。

 普段と違い、化け物が帰り道を塞いでいた。

「崩壊に巻き込むつもりか……」

 昔と変わらないなと思った。

 トガビトがいても常にこうした事をしてくるわけではない。

 だから珍しいとは思った。

 しかし、それほど難しい問題でもない。

 どれだけ多くても化け物ならどうにかなるし、トガビトがいても簡単に負けるとは思えない。

 それなりの人数がいるし、どうにかなると思っていた。

 戦闘が始まり、実際に形成を見ていってもカズヤ達がそれなりに押している。

 数が多いので道を開くのは難しいが、それでも確実に先へと進んでいける。

 数が多いだけで、基本的に烏合の衆である。

 時間がかかってもこのままいけば敵を押し切って外に出られるはずだった。

 しかし、幾らか進んだところでそれが少しばかり変わる。



「うわっ!」

 後ろの方からの声に、カズヤが振り返る。

 狭い通路の中なので前に出る事が出来ず、後ろの方に控える形になってしまっていた。

 だから起こってる出来事を確かめる事が出来た。

 それを見て驚く。

 化け物達とともにいたトガビトが、仲間の一人を捕らえていた。

 鞭や蔦のように細く長く伸びた腕で。

 絡みつくそれに引きずられ、後ろの方へと下がっていく。

 慌てて駆け寄ろうにも、間にいる仲間と化け物が邪魔で近寄れない。

 捕らえられてる者が抵抗してくれてればどうにかなったかもしれないが、そういった様子は見えない。

 ぐったりとしてほとんど動きが取れなくなっている。

 麻痺性の毒か何かをうちこまれたのかもしれない。

 あるいは気力による束縛かもしれない。

 どちらにせよ、本人の力での脱出は不可能に見えた。

「おい、一気にやるぞ」

 仲間の一人がそちらに向かって広範囲にわたる気力の攻撃をしようとする。

「よせ、あいつに当たるぞ」

 すぐにそれを止めた。

 間にいる化け物が邪魔のは分かるが、下手をすると仲間すら巻き込んでしまう。

 手間だが、一匹ずつ倒していくしかなかった。

 後ろにいる者達もそれを理解して手にした武器で倒していく。

 どこから出て来るんだと思う程に化け物はあふれ、カズヤ達を妨害する。

 それでもカズヤ達の方が化け物の勢いを上回る。

 捕らわれた者との距離も縮まり、あと少しで手が届きそうになる。

 しかし、引きずられてる仲間の向こうを見て、悠長にやってる場合でないことを理解する。

 ヨドミの崩壊は、思ったよりも近くまでやってきていた。

 急がないといけない。

 来た道を戻る形になってしまうが、見捨てるわけにもいかなかった。

 だが、そこで更に化け物が繰り出してくる。

 救出に向かっていった事で通路を幾らか戻る事になった。

 その途中にあった分かれ道から化け物が飛び出してくる。

 仲間と分断された形になってしまった。

「くそ」

 やむなくそちらをカズヤ一人で押さえ込んでいく。

 化け物だけなら一人でどうにもでなった。

 救出の方は、一緒にやってきていた三人に任せた。

 これで戦力が更に分散させられてしまう。

 救出に向かった者達の進軍速度も落ちていく。

 そうこうするうちに崩壊が近づき、トガビトがその中に消えていく。

 絡まみついてる腕は解ける事無く崩壊によって生まれた暗がりから生えてきている。

 そこに捕らわれた者はそのまま引きずり込まれていった。



 もうどうにもならなかった。

 気持ちがどうしても落ち込んでいく。

 だが、立ち往生してるわけにもいかない。

「戻るぞ」

 仲間に声をかけて来た道を戻っていく。

 化け物が出て来てるので少し手間だが、まだどうにかなる。

 分かれ道で化け物を塞ぎ、仲間を先に逃がしていく。

 最後尾になったカズヤは、そこから化け物をある程度倒してから後退していった。

 化け物を足止めし、ある程度片付けたら一気に走って戻る。

 気力による身体強化のおかげで通常時より大幅に早く戻る事が出来る。

 それから化け物が近づくのを待って足止めをする。

 その後は、走って止まって化け物を押さえ込み、仲間が進んだ事を確かめてからカズヤも逃げるという繰り返しになった。

 それを邪魔するように化け物も動いてくる。

 分かれ道の度に化け物が押し寄せ、カズヤ達を分断しようとする。

 その分かれ道の向こう側からトガビトがあらわれ、やはり仲間を捕獲しようとしてくる。

 戦って倒そうとしないところが不気味で物騒だった。

 その為か、攻撃手段もいつもとは異なってきている。

 直接的な殺傷を目的とした殴打や斬撃ではない。

 噴霧されてくる毒や、細く尖った毒針などが飛んでくる。

 それらが与えてくる傷は大したものではない。

 それこそ針の先端で少しだけ刺した程度の痛みで終わる。

 なのだが、それらを受ける事で蓄積される毒の効果が恐ろしい。

 確実に動きを鈍らせ、行動を阻害してくる。

 いつも気力で化け物を束縛していたカズヤだが、形を変えて似たような事をやられていた。

 それがどれだけ面倒なものかをいやというほど実感していく。

 どうにかならないかと思っているが、相手の攻撃を上手く避けるしかない。

 しかし、それでも仲間の一人が再び捕らえられてしまう。

 どうにかして救出しようとするが、今度は分かれ道の奥へと進んでいく。

 追いかける事は出来るが、それも躊躇われた。

 トガビトが逃げていく方向は崩壊に巻き込まれてるわけではない。

 しかし、追いかけて救出したとしても、戻ってくる間に崩壊が迫って来る事になる。

「くそっ」

 間に居座る化け物を切り捨ててどうにか先に進もうとする。

 なのだが、後ろの方に崩壊が見えてきてしまってはどうする事も出来なかった。

 やむなく道を戻り、出入り口を目指していく。

 助けに行って自分も引きずり込まれたら意味が無い。

 それは分かっているが、助けられなかった事への後悔はどうしようもなかった。

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