12話 報酬/成長 → 協力者達
翌日。
やってきたメールを見て、仲間の都合を確認していく。
報酬の支払いは銀行振り込みでやるわけにはいかない。
やり方を知らないというのもあるが、何かしら痕跡を残すのも躊躇われる。
修養値から換金された金銭がどう扱われるのか分からないが、出所を尋ねられたら困る。
正直に、
「化け物や異空間を破壊して得た報酬です」
と言って信じてもらえるかどうか。
そんなわけで金銭のやりとりは、もっぱら現金払いが普通になっている。
もっとも、気にする必要もないのかもしれないと最近は思うようになってきてる。
こんな事に巻き込まれて何年にもなるが、その間税務署などがやってきた事はない。
ヨドミの崩壊による変化と同じで、金銭などの入手も当たり前の事として認識されてるのかもしれなかった。
確かめた事がないので分からないが。
ただ、何年間も何事も無かったので、その可能性はあるかもとは思っていた。
わざわざ確かめるつもりにもなれなかったが。
(けどなあ……)
ふと思う。
(まさか換金する時に、税金が天引きになってるとかないよな)
給料などは、渡される前に税金分が差し引かれてるという。
それと同じで換金する時点で税金が差し引かれてるのだろうかと思ってしまう。
馬鹿げた想像だとは思うが、そんな事も考えるてしまう。
気にしても仕方ないので、ほどほどに考えるに留めているが。
(んな事より、支払いだな)
何時に渡すかを考えてからメールをしていく。
金のやりとりがはっきりするような書き方はしない。
これらも、いつ・どこで・誰が目にするか分からない。
そういった用心を怠るわけにはいかなかった。
仲間や協力者は貴重な存在である。
ヨドミの封印派が多数の現状では、こういった者達はありがたい。
ヨドミやユガミに対処出来る者は少ないが、それ以外の部分での協力や助力はありがたい。
単純にヨドミの発見に協力してくれるだけでも助かっている。
ヨドミとそこから出て来る化け物達を感知する事は出来なくても、指示機を渡せば場所の特的は出来る。
今回もそういった形で協力してくれた者達がいる。
おかげで早期に発見する事が出来たし、ユウキ達を出し抜く事も出来た。
偶然ではあるが、襲われてる女の子を助ける事も出来た。
もしある程度の場所の特定がなければ、彼女を救うことは出来なかったかもしれない。
昨夜破壊したヨドミについては、周辺での異常を検出した協力者がいたから探索を開始していた。
それがなければヨドミへの到達も無かっただろう。
ユウキ達が動き出していた事を考えれば、間一髪だったかもしれない。
カズヤのように直接的に影響力を行使できるわけではないが、数多く展開してくれる事で大きな助力となってくれていた。
他にも、噂話の段階から始まる様々な情報をもたらしてくれたり、現実で必要に鳴る様々な道具や手続きなどを紹介してくれたりもする。
一つ一つは小さい事である。
だが、疎かにする事もできない。
根も葉もない噂であったとしても、そこで何かが起こってる事を示してるかもしれない。
修養値を用いる事で金銭などはどうにか用意出来ても、必要な道具がどこにあるのか分からなければ手に入れる事も出来ない。
人も道具も揃っていても、現実世界では得なければならない許可などがある。
それらをどこで入手するのかを知らなければ、入らなければならない場所に入る事も出来ない。
有形無形、様々な物事を調えるには、それに通じた者が求められる。
協力者達はそれをカズヤ達に提供してくれていた。
ヨドミへの対抗手段は持たないが、それ以外の場面での必要手段をもって。
そんな彼らへの見返りは少なからず必要だった。
その夜。
指定した待ち合わせ場所にて顔をあわせる。
全部で五人。
「よう」
馴染みとなった彼らに軽く声をかける。
かけられた方も皆、笑顔でカズヤを迎えていく
「おつかれさんです」
「ご苦労様でした」
口々にねぎらいの言葉をカズヤにかけていく。
彼らも昨晩は町を探索しまわっていたのだから疲労してるのは同じだ。
だが、ヨドミに踏み込んで破壊してくる苦労に比べればと誰もが思っていた。
一番大変なのはカズヤだと。
「昨日も大変だったんじゃないですか?」
「まあね」
カズヤのレベルに比べれば大した事はなかったが、全く苦労が無いというわけもない。
一人でやったわけだし、途中で気力などが切れればそこで終わりになる。
ユガミを破壊できたのはいいが、脱出に手間取っていたかもしれず、そうなったら生還は望めない。
確立は低くなっているが、昨夜で人生を終える可能性は十分にあった。
それを考えれば楽勝とはとても考えられない。
「何とかなったけどな」
運が良かった…………言外にそう言っていく。
それは他の者達も理解している。
自分達には感じ取れないし感知も出来ないが、楽な作業では無かったのだろうと。
「お疲れさんでした」
ねぎらいの言葉が再びあがっていく。
そんな彼らをひとまず止めて、報酬を渡していく。
封筒に入れた金を一人一人に手渡しをしていく。
その都度「助かったよ」「ありがとな」と一声かけていく。
他愛のない事だが、こんな一言の有無で人の気持ちは変わる。
実際彼らの協力のおかげで大分うまく事を進める事が出来てる。
礼の一言をもったいぶる理由など無い。
渡された者達も悪い気はしない。
一日の活動で渡された二万という金額も確かに大きいが、そこに合わせられる気持ちも嬉しい。
物心両面への気配りがありがたかった。
「また仕事を頼む事になるだろうけど、よろしく頼む」
「分かってますって」
「よろこんで協力しますよ」
「他の連中も、来たがってますし」
自然、そんな言葉も出てくるというものだった。
平日という事もあり、動ける人数は限られる。
大半の者達は学校や仕事、家庭があり、そうそう自由な時間などない。
その限られた時間をカズヤ達に割いている。
中には専属となって日中でも捜査や調査に赴く者もいるが、全体の中では少数である。
幅広い探索においては、少ない時間を持ちよってくれるこういった者達がいないとどうにもならなかった。
彼らのおかげで探索・調査する範囲をかなり限定する事が出来た。
事前に見込みのない場所を特定していってくれたおかげである。
最終的にはカズヤが場所を発見する事になったが、それが出来たのも他の場所を彼らの調査あってのもの。
その彼らが次もやろうという意気込みと意欲を見せてくれる事が、カズヤにとって大きな力となっている。
自発的な協力ほどありがたいものはない。
「いつも助かるよ」
「そんなの言いっこ無しですよ」
一人がカズヤの言葉をとどめる。
「助けられたのは俺達なんですから」
その言葉通りである。
ここに居る者達は、ヨドミやユガミ、そこから出て来る化け物の悪影響で人生がどうにもならなくなっていた。
そこをカズヤ達のおかげで救われた。
だからこそ協力を頼まれても断ろうとはしない。
カズヤへの恩が彼らにとって大きいのだろう。
ヨドミがあった頃と、無くなってからの落差の大きさを実感するせいでもある。
それに。
「放っておく訳にもいかないですから。
困ってる人を」
善意からであるのは確かだ。
しかし、それ以上に大きいのは、身につまされるからだろう。
そこにあるのが、かつての自分達の姿であるのだから。
だから被害にあってる者達に自分を投影している。
単なる同情とは言えないものがあった。
「封印で終わらせるわけにもいかないし」
「そうだな」
「あれ、酷いよな」
そんな思いもある。
封印という対処方があるのは彼らも知っている。
そうする理由と、破壊する事の問題点も。
それでもカズヤに協力するのは、封印後の結果を見てるからでもある。
確かにある程度は持ち直すが、最悪が低迷になるくらいで、決して良くはなっていない。
何かが消滅する可能性を考えれば無理も出来ないのは分かるが、そのまま残った結果が良好と言えないのは彼らにも気がかりなものであった。
なまじ自分の姿を、もしかしたらそうなってたかもしれない自分の現在の可能性を目にしてるようなものだ。
背筋が震えるような冷たさを感じていってしまう。
「なるべく協力するから、頑張ってくださいよ」
「ああはなりたくないし、ああいう人を増やしたくないんで」
切実さを滲ませる要望である。
カズヤは無言で、力強く頷いた。
「ま、次もあると思うからその時にね」
気持ちをありがたく受け取りながらそう言う。
彼らには彼らの時間があり、優先すべき事がある。
そちらをまずは大事にしてもらいたかった。
いてくれて助かってるし、彼らを利用してるのは否定出来ない。
それでも彼らを下僕のように扱うわけにはいかない。
その線引きだけは決して違えたくなかった。
「あと、何かあった場合にもね。
昨夜は大丈夫だったけど」
その言葉に一同の表情が硬くなる。
最悪、カズヤが帰還しなかった場合、対応する能力を持つ別の者に彼らが連絡を入れる事になっていた。
カズヤが倒れてもヨドミを処理する為の方策であるが、それをする事を望んでる者はいない。
出来ればそうならないように物事が動くよう彼らは願っている。
だが、やらねばならない仕事ではある。
誰もが頷いて、
「分かってますよ」
「そうなったらだけどね」
と返事をしていく。
その言葉を聞いてカズヤも「頼む」と一言だけ口にした。
彼自身も、そうなる事を望んでるわけではない。
必ず帰ってくるのを第一としている。
そんな事にならないように。
料金を渡してしまえばやる事は無い。
今後も連絡を取り合う事と、可能な限り情報を持ち込む事を確かめあって分かれていく。
誰もがそれぞれの居場所へと戻っていくのを見て、何ともいえない感慨に耽ってしまう。
その中の一人は、借金まみれでにっちもさっちもいかなくなっていた。
別の一人は、事故で家族の全てを失っていた。
他の一人は、いわれのないイジメ…………いや暴行によって心身共に摩耗していた。
他の二人も、似たような境遇に陥っていた。
それが今では持ち直し、以前より良い状態の中で生活している。
今ではこうして協力者としてカズヤを助けてくれている。
自分がやってき来た事が間違ってはいないと思える瞬間だった。
悩みも迷いも消えないが、何かしら良い所があったと思える。
(あの子も……)
ふと、昨日の娘を思い出す。
襲われていたのを助け、ユウキに押しつけた。
名前も知らない女の子を。
(どうなんのかな)
ユウキに預けてしまったので、おそらくあちら側でどうにかするだろう。
多少は物事を教えはするだろうし、技術も授けていくはずだ。
だが、ほぼ確実に封印派になってしまうだろう。
今更ではあるが、もったいない事をしたと思う。
こちら側に引き込めば、有望な戦力になったかもしれないのだから。
(ま、仕方ないか)
そうならなかったのは運命と思って諦める。
こういう巡り合わせだったのだろうと。
そう思いつつも、
(ま、なるようになるか)
と楽観もする。
もし敵対する運命なら、例え味方同士であっても争うようになるだろう。
だが、協調していく星の下にいるなら、やがてはそうなるはずだと。
運命論者のつもりはないが、世の中には何かしら流れのようなものがあるとは思ってしまう。
変えられないほど強烈ではないが、逆らえるほど悠長なものではない何かが。
それに沿って物事が動くなら、その中での巡り会いがあるだろうと。
今はこういう形になったが、いずれは合流するかもしれない。
強烈に反発しあうかもしれない。
それはその時になるまで分からない。
ただ、今いる中で出来る事をやっていくしかない。
(上手くいくといいけど)
今分かれたばかりの協力者達のように。
そういう方向に向かえばいいし、そうなるようにしていきたいものだった。
続きは明日の17:00予定。
誤字脱字などありましたら、メッセージお願いします。