119話 有効な手段
「……あの時に比べりゃ楽だよな」
久しぶりにノボルの事を口にした事で昔を思い出していた。
その頃に比べてレベルもあがり、色々な体験をした。
それでも、ノボルが死んでからの出来事ほど悲惨なものは起こらなかった。
どれほど大変でも、あれよりは楽なのではないかと思えてしまう。
どれほど悲惨な状況に陥っても、終わってから振り返ればあの時ほどではないと思えてしまう。
今回もそんな調子だった。
確かにそれなりに大変ではあるが、化け物があふれ出てきたあの時よりは楽である。
トガビトが出て来てるのは少し気になるが。
それでも、慎重に進んでいけばどうにかなる気はした。
問題となってる場所の周囲にあるヨドミもあらかた片付いている。
そろそろ突入しても良い頃合いに思えた。
休息も含め準備を進めていく。
全員の気力や体力を回復させ、道具も揃えていった。
面倒になる警察などにもある程度動きを抑えさせておく。
普段はともかく、一時的なカズヤにもそれらに圧力をかける事は出来る。
勢力的に封印派には大きく負けてしまうので、いつでも使えるわけではないが。
とりあえず封印派が邪魔しにこないように、周辺で足止めさせるように言い含めておいた。
その他、万が一周囲で騒動が起こった時の迅速な対象も。
化け物が起こしたものならどうにもならないが、それによって人が動いた場合なら警察でもどうにかなる。
化け物に操られていた者はかわいそうだが、その場合は騒動を起こした事で警察の厄介になってもらうしかない。
後日、化け物絡みであるならそれを取り除き、無罪放免にも出来る。
やらかした事が大事になってしまったらさすがに無理だが、化け物に操られてやらかした者を投獄するのもしのびない。
もっとも、取り憑かれるだけの下地を持った人間ならこの限りではない。
そのまま世間から隔離されておいた方が世の為人の為になるので、警察にお引き取りしてもらう事になる。
その他、何かあった場合の避難誘導など、市役所などにしてもらう事になるだろう。
この地域で顔が利く者達(ご近所で顔なじみの者や、町内会などで発言力のある者)などにも頑張ってもらう事になる。
伝手を辿り、修養値を用いてつながった者達にそれらを根回しして現地へと突入する事になる。
ついでに、近所の者達にはお守りやらお札やら盛塩などを自宅に用意してもらっていった。
気休めくらいにしかならないが、そんなものでも化け物の動きを阻害する事は出来る。
トガビトくらいになったら効果はさほどでもないが、それでも牽制になれば良い。
周囲の同業者にも声をかけ、なるべく人に集まってもらえるよう要請もしている。
どれだけ応じてくれるか分からないが、一人でも多く集まってくれれば良い。
気力を込めた道具も増やし、少しでも事が有利に進むようにはかっていった。
「精が出ますね、いつもながら」
コウジの声に「そうか?」と返す。
「これだけじゃまだ全然足りないと思うけど」
「いやいや、そんだけ手配をしてくってだけでも大したもんですよ。
俺には無理っす」
「いや、お前にもやってもらいたいんだけど」
「細かい事に気を配るなんて、俺に出来ると思います?」
「それもそうか……」
「ま、適材適所って奴ですよ」
それもそうかと思ってしまう。
カズヤも自分がこういった事前の準備などに向いてるとは思わないが、コウジよりはマシなのかもとは思う。
それでも少しは仕事をしてもらいたいとは思うが。
「それで、あの娘はどうするんすか」
「アヤナか?」
「ええ。今度の所に連れてきます?」
「そうだな……」
悩んでる事ではあった。
連れていければそうしたいが、何せまだレベルが足りない。
もう少し成長してからとは思う。
だが、残していけばいったで、トガビトなどの襲撃があった場合に対応出来ない。
足手まといになるのを承知で連れていき、身近で守るか。
他の仲間と一緒に残していくか。
そのあたりは決めかねていた。
どちらにしても面倒ではある。
「どうにか出来ないもんかな」
「それが分かれば苦労しないっすよ」
それもそうである。
「ま、それは後回しだな」
他にやるべき事もある。
電話を手に取り、それを一つ片付けようとしていく。
「また電話っすか?」
「ああ、商売敵にな」
それを聞いてコウジが嬉しそうな楽しそうなにやけた笑みを浮かべていく。
「んじゃ、脅迫電話、頑張ってください」
「人聞きの悪い……」
だが、やる事は実際にそうだったりする。
封印派へ連絡を入れ、下手に手を出すなと釘をさしておく。
協力をしないならそれで構わないが、下手にちょっかいを出したら根こそぎ潰すと言っておく。
何せカズヤ達の動く裏で色々と画策する事もある。
負担を背負い込まないのに旨みをかすめ取ろうとするのは腹が立つ。
何かしら動きを出したら相応の措置を執ると伝えておかないと色々と面倒になる。
相手はだいたいにおいて渋い態度を取るが、聞き入れるつもりもない。
少しでも動きが見えれば叩きのめして分からせる。
そうでもしないと話しが通じない。
実際に損害を出さなければ動きを止めないのだから仕方ない。
逆に言えば、損害が出るような事は控える。
こういった措置をとるのも、やむを得ない事だった。
また、こういった場合で無くても、何かしら増長してくる所が見えたら攻撃する事もある。
ある程度規模が大きくなったら居丈高になるので、こればかりは仕方なかった。
どうにも力関係だけで物事を見てる節があり、道理などをもとに行動してるようには見えない。
そのあたり、化け物と大差がないのが封印派であった。
(本当に面倒な連中だな)
そう思いながら電話の向こうの者達と話しをしていく。
それは一方的な通達であり、相手の要求や要望を踏まえて妥協点を見いだすものではない。
話し合いとはとても言えないものだ。
だが、これが唯一封印派に要望を通すために手段だった。
圧倒的な実力差があってようやく出来る事であるが、これをカズヤは有効活用していた。
使えるものは何でも使わないと生き残っていけないのだから。
木曜日以外の17:00更新予定。
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