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116話 回想2:消滅

 つばぜり合いにもならなかった。

 一撃があまりにも早く、刃を交わす事もままならない。

 どうにか軌道を予測して刀を当てるが、それすらも当てずっぽうに近い。

 カズヤの力量を考えればそれだけでも奇跡に近い。

 背後からの援護も散発的になっている状態で、ノボルを倒す事など夢のまた夢だった。

 更に悪い事に、ノボルの向こうに崩壊が見えている。

 崩れ落ちるというか、奥の方から順次消滅していってるのを見て焦りが生まれる。

(まー、落ち着けっていっても無理だわな)

 いつかどこかで聞いた言葉を思い出す。

(そういう時は無理しないで焦っておけ。

 どうせどーにもならねーんだから)

 無茶苦茶だと思った。

(けどな、そうやって今の状態を受け入れれば、結構落ち着けるもんだ。

 自分に嘘吐いて「大丈夫大丈夫」って言ってるのが一番まずいんだろうな)

 だから焦ってみた。

 どうしようもないほど追い込まれてるから。

 どうにかなる、大丈夫だとはとても思えない。

 面白いもので、そうしてると本当に冷静になれてくる。

 この二年で学んだ事の一つだった。



(でまあ、それから考えるのをやめる。

 考えてどうにかなるなら、そんな事にはなってないんだから)

 じゃあどうするんだと思った。

 考えないでどうにかなる事なんてあるのかと。

(ま、考えなきゃいけないのは確かなんだけどな。

 でもな、閃きとかってのは、そんな事で得られるもんじゃない)

 それはそうかもしれなかった。

 でも、それでは困るのだ。

 今、この時をどうにかしないといけないのだから。

(だから、そういう無駄な事すんなって)

 声はどこまでの暢気で穏やかだった。

(閃きなんて考えて出ないもんだろ。

 思いつきなんだから。

 それを自分の意志で出そうってのがおこがましいんだよ)

 そうなのかと思ったが、自信たっぷりに言われるとそれだけで説得力があるように感じてしまう。

(出て来るって信じて頭を空っぽにしておくしかない。

 考えて悩んでどうにかなるなら、毎日しかめっ面してるよ)

 それで上手くいくのか疑問だった。

(いくわけないだろ。

 思い通りになる事じゃないんだから。

 でもな、それでも不思議と出てくるもんだ)

 意味が分からない。

 頭を使わないでどうやって思いつきが出てくるのだろうか。

 しかし、そんな疑問に相手は笑いながら答える。

(だから、考えるんじゃないんだよ。

 思いつくんだって)

 意味がサッパリ分からなかった。

(その為にも余裕がないとな。

 時間でも金でも余力でも逃げ場でも、何でも良いから余裕をもっておけ)

 それはまだ納得出来た。



(けど……)

 相対しながら思う。

 どうにもならない状況であるが、それを認めてしまうと不思議と落ち着いてきた。

 危機であるには分かっているし、どうにかしようとも思う。

 拒絶して否定しても仕方が無い。

 実際にそうなのだから、それを認めるしかない。

 嫌々でも渋々でもない。

 淡々と。

 ありのままに。

 怖いという事も含めて。

 その瞬間、カズヤは今という状況を受け入れる事が出来た。

 悲惨なまでに危機に陥ってるこの瞬間を。

 途端に周囲の様子が次々と理解出来るようになった。

 素直に浸透してくるというように。

 認めたくなくても拒絶していては手に入らなかった状況が手に取るように分かってくる。

 今、どこで誰が何をしてるのか。

 目の前にいる敵と、自分達のいるこの場所と。

 背後にいるはずの仲間と、まだ残ってこちらに向かっているかもしれない化け物と。

 それらの全てが今ここにいる事を実感する。

 拒絶していては見る事もかなわなかった何かが頭に入ってくる。

 状況は好転しないが、考える土台が出来上がっていくのを感じた。

 その為に必要な現状認識が出来ていく。

 もちろん、全てが最悪である。

 好転する要素は何一つない。

 だが、それを含めて状況が何となく分かっていく。

 分かっているから考える事が出来る。

 何が出来るかを。

 だからなのだろうか、不安が消えていく。

 何が出来るか分からないが、何か出来そうな気がしてくる。

 策は出てこないが、すぐそこまで出て来そうな気がしてくる。

 そして、余裕。

 今の自分にそんなものがあるとは思えなかった。

 それなりにいつも用意はしていたが、それを上手く用いる事が出来るかも分からない。

 だが、それを使うとすれば今しかない。

 どれだけ効果があるかは分からないが、使わずに捨てるのももったいない。

 その為にも流れを感じ、流れに乗らねばならなかった。

 相手の動きを見て、でもなく。

 どう動くかを考えて、でもなく。

 人の意志でどうにもならない部分に身を任せていくしかなかった。

 その流れの中で、己の力が最も勢いづく瞬間に動いていかねばならない。



 打ち合いは続く。

 上手く相手の攻撃にのって後ろに下がり、崩壊から距離を起きながら時期をみる。

 思うようにはならない事の中で、思いがかなう瞬間を見極めるように。

 如何ともしがたい実力差を覆す事は出来ないが、出来る中でやりくりして今を凌いでいく。

 相変わらずノボルは強いが、太刀打ち出来ない程ではない。

 一緒に化け物退治に勤しんだ日々がカズヤをそこまで成長させた。

 防戦一方だが、勝つことを考えなければそれなりに戦えるくらいにはなっていた。

 それが相手の動きを見る余裕を生み出していく。

 伝わってくる気配を察知もしていく。

 動きがもたらす流れを感じていく。

 そこに合わせて動いていく。

 何かが出て来る瞬間を待ちながら。

 あるいは、何かが失われるその時に期待しながら。

 刃が散らす火花を何度も見ながらそれが訪れるのを待つ。

 そうしていると何となく分かるようになってくる。

 乱れのない太刀筋にも何カ所か動きが滞る時があるのを。

 全く無駄のない動きなどありはしないのだろうが、それはノボルも同じだった。

 ただ、他の者達よりそれが余りにも少なく小さい。

 つけいることなどまず無理だろう。

 なのだが、確かに存在する。

 それがきっかけになりそうな気がした。

 ほんの一瞬、わずかな瞬間。

 そこに全てを賭けていく。

 瞬間、カズヤの動きが加速する。

 太刀筋が鋭く、踏み込みが力尽く良く、切っ先が急所へとのびていく。

 格段に違う動きでノボルへと迫る。

 すぐにそれを避けようとノボルも動くが、遅い。

 わずかの差であるが、全く動きについていけてない。

 刀がノボルの体にめり込み、トガビトとなった証である核を切る。

 刃が表面を滑る程度であったが、それで十分だった。

 刀がまとってるカズヤの気が核に触れ、削った表面から浸食していく。

 ほんの一瞬の隙を、流れから外れた瞬間を、狙うと意図する事もなく狙った。

 その結果だった。



(たとえばこいつだけど)

 そう言いながらステータスを表示させていく。

(修養値ってあるだろ。

 これも金にしたりレベルを上げるだけに使うわけじゃない)

 こういった事を始めた頃だった。

 知らない事をとにかく色々教えられた。

(運良く何かが起こった、って事にも使える。

 やれば、今まで接点の無かった奴と知り合えたり、必要なものとかに巡り会えるようになる)

 とはいえ、いつどこでそうなるか分からないから、さほど当てにはならないとも言われていた。

 いずれ必ず巡り会うのは確かだとも言われたが。

(それ以外でも、瞬間的に能力を上げる事が出来るみたいなんだ)

 はっきりと断言はしなかったが、そんな事も言っていた。

(瞬間的にレベルが上がるのかなんなのか知らんけど。

 使うとその瞬間だけ太刀筋が早くなったり、威力があがったりする……事もある。

 俺もそういう使い方をあまりした事がないから何とも言えないけど。

 でも、そういうのもあるらしい)

 やれば修養値が減ってるから、後から分かる事もある、というものだった。

 ただ、どの瞬間に用いたのかはそれほどはっきり分からない。

 意識して使えるかどうかもあやしいものだという。

(まあ、それでもさ、何かの切り札になるだろうから。

 全部使い切らないで、ある程度修養値は残しておけよ)

 言い分はごもっともなので、それはいずれ実現しようと思った。

 もっともその頃のカズヤは、レベルをとにかく上げる必要がある段階だったので、余らせておくほど修養値に余裕がなかった。

 また、いつも金が無いと嘆いてるノボルが言うと、なんだか矛盾も甚だしいと思えた。

(うるせー)

 笑いながらそんな返事が出てきた。



 思い出に浸ってるほど余裕があるわけではない。

 だが、ほんの一瞬で思い出した過去の出来事が、今を生き抜く手段を提示してくれた。

 振り切った刀から感じた、核をなぞる硬い感触。

 それがノボルの動きを止めた。

 思いついてステータス画面を開く。

 そこに表示される修養値に目を向ける。

 かつての教えが正しかったのか分からない。

 でも、確かに修養値は減っていた。

 木曜日以外の17:00更新予定。

 誤字脱字などありましたら、メッセージお願いします。

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