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108話 回想2:遭遇/退却

「生存者はどうなってる……」

 ノボルから目を離さずリーダー格がカズヤに尋ねる。

「……まだ生きてます。

 でも、さっきより少ない」

「そうか」

 ここに来るまでの数分で更に倒れていったのだろう。

 トガビトとなったノボル相手にしてはがんばった方だろうか。

 だが、それらの姿が見えない。

「どこにる?」

「向こうの、化け物の中みたいです」

 探知した結果をありのままに伝える。

 助けに行けるような状況ではない。

 ノボルがいなければどうにかなるが、今は自分達の命すら危なくなっている。

「ノボルのレベル、どれくらいになってた?」

「たぶん、拳銃とかは十を超えてたと思いますよ。

 他にも幾つか、それくらいのレベルの技術があったはずです」

「最悪だな」

 もとよりレベルが高いのは分かっていたが、あらためて聞くと凄まじいものがある。

 そこまでたどり着いてる者はそうはいない。

 この中にいる者が保有してる技術で一番高いものでも、おそらく七や八といったところだ。

 味方としてはこれ以上なく頼りになるが、敵に回ると厄介なんてものではない。

 トガビトとなった事による能力向上も含めれば、力量差は更にひろがるだろう。

 ここにいる全員で飛びかかっても倒せるか分からない。

「助ける余裕もないか」

 まだ生きてる者達どころの話しではない。

 彼等自身が生きて帰れるかどうかすら怪しいのだ。

「どうする?」

「やるしかない」

 リーダーははっきりと言った。

「こいつが俺達を逃がしてくれないならな」



 戦闘が始まる。

 トガビトとなったノボルを三人が遮り、その間に他の者達が迫ってくる化け物を倒していく。

 マキを始めとした広範囲攻撃が可能な者達が、迫る化け物を一掃する。

 気力の消耗は激しくなるが、一々相手にしてる余裕もない。

 それに、なるべくノボルに対応出来る人数を増やす必要もある。

 化け物が迫っていては、そんな余裕など生まれるはずもない。

 迫って来る有象無象を、まずは一気に片付ける。

 ノボル────トガビトに飛びかかっていくのはそれからだった。

 援護射撃の気力による攻撃、行動を束縛する気の操作を仕掛け動きを制約する。

 接近戦に持ち込んでいく者達も、自分達の身体能力を気力で上昇させていく。

 六人が同時に襲いかかり、四人が気力による援護。

 五人が化け物と退治していく。

 十人でトガビトに相対するというおかしな人数比率になってるが、それに異を唱えてる者はいない。

 化け物の方は五人もいればどうにかなってしまっていた。

 ノボルとの戦闘を邪魔させないように足止めしてるだけで良かった。

 むしろ化け物を押し返してすらいる。

 生存者の救助が出来れば良いが、さすがにそこまで出来るかは分からない。

 だが、一緒にいる化け物は本当にどうにでもなった。

 問題なのはノボルである。

 数人で攻撃をしてもろくろく攻撃が当たらない。

 動きを束縛してるはずなのだが、その効果が全く見えない。

 化け物の持つ能力か何かで機能が向上してるのかもしれないが、それにしても差がありすぎる。

 それでも攻撃は何度か当たってるのだが、それもどれだけ効果があるのか分からない。

 武器の当たったところから血飛沫の代わりに黒い靄が拡散していく。

 化け物に攻撃をしたときと同じで、体を構成してる何かがそうやって空気中に拡散して消滅していっている。

 損傷は与えてるはずだった。

 しかし一向に体が崩れていく様子がない。

 相当な耐久力ありそうだった。

 そして、それもあって目の前にいるのがノボルではなく化け物だという事を感じさせていく。

 対峙してる者達にとっては辛い事実だった。

 そんな思いも一瞬で、すぐに目の前の敵と向かい合う事になる。

 彼等がどう思っていようと、ノボルが攻撃の手をゆるめる事は無い。

 容赦のない攻撃が繰り返される。

 生前よりの刀捌きは化け物になった事で更なる速度を得ている。

 人間ではありえない速さで繰り出されるそれは、仕掛けられた攻撃をすり抜けて迫っていく。

 攻撃する瞬間に発生してしまう隙に入り込んでくるノボルの太刀筋は避けようがない。

 別の誰かがノボルに攻撃を仕掛ける事で、その太刀を引き戻すのがせいぜいだった。

 だが攻撃のほとんどが刀でいなされていく。

 どれほど打ち込んでも攻撃はノボルの刀が受け止め、弾いていく。

 それでも幾らか攻撃は当たるのだが、当たった瞬間に体をよじり、ひるがえす事で威力を激減させていく。

 傷をつけてはいるのでいずれは相手を倒せるかもしれないが、途方もない時間がかかりそうだった。

 それまでカズヤ達が生きていられるかどうかもあやしい。

 ここで長時間戦ってれば、嫌でも化け物の注意を引くだろう。

 そうなったら続々と援軍がやってくる。

 今はともかく、そうなった時に化け物を食い止める事は出来ない。

 早目の解決が求められていた。



(どうする)

 リーダー格は悩んでいた。

 ノボルを倒せれば良いが、そうもいかないとは思っていた。

 手早く終わらせられれば良いが、そうもいかない。

 長期戦は絶対に自分達に不利になるのも分かってる。

(仕方ないか)

 覚悟を決めていく。

 このままではいずれ倒れる。

「生存者は見つかったか?」

「えっと……見えてきました。

 化け物の向こうにいます」

 ノボルとの戦闘に合流させないよう阻止していたカズヤが叫ぶ。

 数は多くても烏合の衆である化け物なので、勢いを押し返しながら進む事が出来た。

 おかげで生存者との合流も果たせそうだった。

 奇跡的にまだ生き残ってる者がいる。

「なら、そいつらと一緒に撤退しろ」

 リーダー格は叫んだ。

「ここは俺らがどうにかする」

 それしかなかった。

 逃げ出せるうちに逃げておかねばならない。

 でないと全滅する。

 それをやるなら今しかない。

 生存者を連れていく事の負担を考えても、今にうちにどうにかせねばならなかった。

「早く行け」

「……分かりました」

 別の誰かが応える。

 今は、ノボルとの戦闘に直接関わってない者達が動くしかない。

「行くぞ」

 化け物を切り崩し、生存者の方へと向かっていく。



 包囲陣の生き残りだろうか、銃を手にした者達が十人程戦っていた。

 足下には倒れた者達がいる。

「大丈夫か!」

 そんな事はないのは重々承知だが、相手に呼びかける意味もあって大声をあげる。

 生存者も気づいたようで、少しずつカズヤ達の方へと向かってくる。

「逃げるぞ、急げ」

「分かった!」

 促されるがままに動きだし、撤退を始める。

 ノボルはそれを阻止しようとするが、対峙してる十人に阻まれる。

 それを見てカズヤ達も援護を始める。

「おい、あんたら」

「なんだ?」

「あの化け物を止めてくれ。

 少しの間だけでいい」

「……分かった!」

 すぐに意図を察した生存者達が化け物への攻撃を開始する。

 その間にカズヤ達がノボルへの遠距離攻撃を開始する。

「早く!」

 叫び声がリーダー達に向かう。

 攻撃を受けたノボルが隙を見せているのも見て、リーダーも決断する。

「行け!」

 後ろにいた援護の四人に向けて叫ぶ。

 撤収するにしても、まずは動ける所から移動しなければどうにもならない。

 言われた四人はすぐに移動を開始した。

 その間援護が途切れるが、そこは六人が踏ん張るしかない。

 カズヤ達と合流して援護を再度始めるまで。

 そこまで数十秒もかからないだろう。

 その数十秒が果てしなく長い。

 攻防に用いられる時間は一瞬が長くなる。

 張り詰めた緊張感が一瞬を長く感じさせる。

 命の奪い合いは気を抜く事を許さない。

 瞬間を永遠に感じるほどの重圧がのしかかり、体感時間は果てしなく延びていく。

 それでも終わりはやってくる。

 合流した者達がノボルへの攻撃を開始し、隙が生まれる。

 その間に六人も移動を始め、援護してる者達に合流を果たしていく。

 リーダー格は最後まで残り、ノボルの足止めに尽力する。

 移動した者達のうち更に数人が移動を始める。

 幾つかに分かれて移動していく事で、交互に援護をしていくためだ。

 一気に全員が動ければ良いが、そうもいかない。

 先に動いた者達が残ってる者達を援護しないと損害が拡大する。

 そのまま逃亡をしたとしても、後から追いかけてくる敵にやられるかもしれない。

 助け合わねば待ってるのは壊滅だ。

 合流出来た生存者達もそれは分かっている。

 銃撃を加えながら協力をしていく。

 元は人間のトガビトだけに、銃弾もある程度は効果がある。

 それでも撤退時に塩をまくのは忘れない。

 なんだかんだで化け物相手の足止めにはこれが簡単で効果がある。

 リーダー格も頃合いを見て移動し、撤退をしていく。

 ノボルも追いかけてくるが、それを後方からの攻撃が遮ろうとする。

 残念ながら完全に止める事は出来ず、接近を許す。

 それでも、近づいて来る間にいくつかの攻撃が当たる。

 接触してきたら再び近接戦闘を担当してる者達が相手になり時間を稼ぐ。

 その間に後方からの支援をしてる者達が撤退をしていく。

 その繰り返しが何度かあった後にノボルも追撃をやめた。

 諦めたのか、何らかの意図があるのかは分からない。

 分かってる事は、そのおかげで彼等が生還出来たという事だけだった。

 市内中央に巣くっていた化け物の掃討は、こうして失敗した。



「ノボルさん……」

 最悪の形でノボルと再開したカズヤは、自分でも驚くほどの衝撃を受けていた。

 そんなカズヤの肩をマキがポンと叩く。

「落ち込んでんじゃないわよ。

 まだ終わってないでしょ」

 それは分かるがすぐには受け入れられない。

 頭で納得しても気持ちが追いついてこない。

 だが、マキの言葉を振り払う事も出来なかった。

 ノボルと長く付き合いのあったのは彼女である。

 そのマキがそう言ってるのだから、カズヤが落ち込見続けてるわけにはいかない。

「そうっすね……」

 まだ声は暗いが、そう返事をして撤退を続ける。

 無理をして気持ちを上向かせながら。

 続きは明日の17:00予定。

 誤字脱字などありましたら、メッセージお願いします。

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