101話 回想2:決裂/対応
「駄目だな、それじゃ」
事の次第を聞き終えた一同の答えはそれだった。
「向こうの都合ばっかじゃねえか」
「話しになるとは思わなかったけど」
「ここまで酷いとはな」
「そういう連中だろ、もともと」
次々にあがる声も、「やはりそうなったか」といった色合いが強い。
今までの経緯を考えれば納得出来る事であるが、予想通りであっても嬉しくないものだった。
「で、どうする」
言い出せば切りがない愚痴や不満を遮るように誰かが口を開く。
「連中は放っておくにしても、俺らも危険なのは変わらないし」
「そうだな……」
封印派に向いていた意識がそれで元に戻る。
問題はそれだけではない。
ヨドミに向かった者達も同じように襲われている。
封印派を狙ってるものはカズヤ達にとっても敵である。
どうにかしたいのだが、正体が掴めないから対策が立てられない。
封印派と協力出来れば少しは変わってくるのかもしれないが、それも今回の事で潰えた。
「俺らでどうにかするしかないか」
たどり着いたのは結局そこだった。
今の状態で何が出来るかが問題になっていった。
この近隣は既に敵の勢いが強く手をつけるのも難しくなっている。
襲われて化け物が密集してる所を潰していくにしても、後手に回る事になる。
対象となってる場所が多く、カズヤ達では回りきれない。
封印派もそういった所の化け物を極力倒していってるのだが、どうしても後手に回ってる。
周辺を封印派が包囲してるとはいえ、それが一気に攻め込んでくるというわけでもない。
そのおかげかどうか分からないが、被害が外に漏れる事だけは防いではいる。
しかし包囲してる内側における問題は拡大していくだけだった。
そして、その範囲は結構広い。
まがりなりにも市町村規模の地域が対象なのだ。
この範囲が着々と化け物に汚染されていっている。
「でも、これだけ人を集めてるって事は……」
話しあいの途中で誰かが気づいた事を口にする。
「他の地域はどうなってんだ?」
「どういう事?」
「いや、封印派の連中って、今ここに来てるんだろ。
だったら他の場所が手薄になってるんじゃないか?」
「まあ、そうだろうな」
「だとすりゃ、化け物もかなり大手を振ってるんじゃ」
最終的な解決手段が違うとはいえ、封印派とて歩き回ってる化け物の退治はしている。
それが悲惨な出来事の拡大を防いでるのも事実だった。
しかし、各地から人手をかき集めてるとなると、どうしても漏れや抜けが発生するだろう。
「ちょっと、聞いてみるか」
知り合いに誰かが連絡を取り始める。
それを見ていた他の者も、同じように伝手のある所に連絡をしていく。
放置する事は出来ない。
封印派との関係は悪いとしても、化け物の被害が拡大していく事を容認するつもりはない。
ヨドミを破壊している彼等も、化け物による問題を無くす事を目的としている。
封印派の不手際によるものであり、責任は無いとしても、引き起こされる事件や不幸を見過ごす事は出来なかった。
思った通りというべきか。
やはり被害は増加してるようだった。
極端な増加はないが、化け物を見る機会は増えてるらしい。
それだけ人を抜き出してるのだろう。
封印派がどれほど人を集めてるか分からないが、実感できるくらいの変化をあらわすくらいには。
そうまでしても、この地域に対処する人数には達してないのが恐ろしい事だった。
この状況を解決するのにどれだけ手間をかければ良いのか検討がつかない。
だが、さしあたってはどうにもならない所より、まだ何とかなる所への対処が先である。
「じゃあ、頼むぞ」
「ああ、やってくる」
何人かが町の外へと向かっていく。
市内の状況はすぐにどうにかなるものではない。
だが、その外は違う。
今まで通りの状態で化け物が徘徊している。
封印派のほとんどいない状態で。
それだけ邪魔が入りにくいとも言えた。
これを機会に、と言ったら言葉は悪いだろうが、みすみす逃す必要もない。
無くなりはしないだろうが、封印派による妨害も低下するだろうと予想される。
化け物そのものの躍動も抑えられるとも考えられた。
どこまで効果があるかは分からないが、やるだけやるしかなかった。
もちろん全員が出向けるわけではない。
最低限の撃退をするべき残る者も必要になる。
日常的な問題で外に出かけていけない者もいる。
カズヤもそんな一人だった。
何せ受験を控えてる。
そうでなくても学校がある。
抜け出すわけにはいかなかった。
(もう、学校行くの辞めようかな)
受験を放棄し、この世界で生きていく事を考えてしまう。
半分くらい本気でその方向を検討しはじめていた。
ただ、そうは言ってもカズヤとて居残り続けるわけではない。
ある程度持ち回りで外部のヨドミを破壊しにいく事にもなっている。
カズヤも土日は外に行くことになる予定だった。
何にしても厳しい状態はまだまだ続く。