1話 現世 → ???
(あらまあ)
いつも通りの状況に、予想外の条件が加わっていた。
ゆらりゆらりと動く赤い人影と、それに囲まれてる女の子。
珍しく巻き込まれてる人がいる事に驚く。
同時に、多少の同様と哀れみも。
(取り込まれたか)
希にそういう者がいる。
素質や才能があるのか、はたまた偶然か。
要因が何であるかは分からないが、遭遇してしまったり入りこんでしまったり。
何にせよ後戻りできないのは変わらない。
今後は、こういう事に遭遇していくし、向こう側も狙いを定めてくる。
因果なもので、干渉する力があるから向こう側にも認識されてしまう。
それは、迫る脅威を撃退する事も出来るという意味をも持つ。
しかし、自分が持ってる力に気づいてなかったり、用いる方法を知らなければどうしようもない。
生まれつき使えるならともかく。
(しゃあねえ……)
億劫ではあるが、放っておく訳にもいかない。
また面倒を増やす事になるかもしれないと思いつつ、人影達に向かっていく。
ポケットから取り出したお守りを左手に持ち、それを前方にかざした。
蓄えられた気力に指向性を持たせて放っていく。
一つ二つと放たれていく気力の塊は、人影に当たると網のようにひろがり、その身を捕らえていく。
うごめいていた人影達はそれで動きを封じられていった。
殺傷能力はないが、それで十分である。
壁を背にしてる女の子の安全はこれで確保出来た。
あとは一体一体倒していけば良い。
全部で五体。
手間はそれほどかかりはしない。
人の形をした影に接近し、手刀を叩き込んでいく。
気力をまとわせた手は、どす黒い赤さをもつ影を切り裂いていく。
人で言えば心臓に位置にある核まで届き、気が核に触れていく。
相容れない性質の両者は互いに打ち消しあい、お互いの存在を消滅させる。
核を中心に形成されてる人影はそれで消滅していく。
肉体のような確固とした実体をもたないので、中心となる部分が破壊されればそれで終わる。
それがちょっとしたヒビであっても。
もともと実体のない存在である。
ちょっとした亀裂が分解のはじまりとなり、存在の消滅につながっていく。
拘束している気力の網ごと二分されていく人影は、無害な塵になる。
やがてはその状態でいる事すら出来ずに消滅し、完全にこの世から消え去っていった。
残り四体も同じように倒されていく。
怯えるように震えながら最後を迎えていった。
(こんなもんか)
予想していた通り、人影は雑魚だった。
特別な力もなく、強靱と言うわけでもない。
対抗手段がなければどうにもならないだろうが、やり方を心得てれば初心者でもどうにか出来る。
動きもそれほど早くはない。
せいぜい人間と同じくらい。
苦労するような相手ではない。
襲われていた女の子であっても、やり方を知っていれば一対一でなら苦もなく倒せたかもしれない。
単に撃退するだけなら苦もなくこなす事が出来る。
(けどなあ)
問題はもっと別の所にあった。
こういった存在が発生するには、それなりの場所が必要となる。
住宅街という場所をさまよっていたこいつらが、そういった場所であるわけがない。
これらが出て来た場所がどこかにあるはずだった。
その場所の特定は、これからしていかねばならない。
その為には痕跡を辿っていくしかない。
世に害をなす存在の足跡を。
手間がかかる。
より強力な者ならばそれなりにはっきりと跡が残る。
しかし、簡単に倒せるような雑魚では、それほどはっきりとした痕跡は残らない。
全く無いわけではないが、それは誤差と言えるほど小さなものでしかない。
それに時間と共に修復されていってしまう。
時間が経てば、拠点を捜す事も難しい。
今倒したモノ達の住処も、これから探してたどり着けるかどうかあやしいものだった。
まして、今はここからすぐに飛び出すわけにもいかない。
(どうすっかなあ)
壁にもたれて怯えている女の子を見ながら、この先どうするかを考える。
放置しても良いのだが、さすがにそれも無責任に思えた。
赤い人影に襲われていたのだから、このままというわけにもいかない。
すぐにという事も無いだろうが、今後再び襲われる可能性がある。
そういった場合の対処方法くらいは伝えておきたかった。
(しゃあねえか)
やむなく女の子の方に向かっていく。
残念な事に、彼女は怯えた目を向けてくる。
見知らぬ男が近づいてくれば仕方ない事ではあるだろうが。
(それでもなあ……)
ため息が口から漏れていった。
やむをえないとしても切ないものがある。
それでもこんな事の先輩として、安房カズヤは女の子に最低限の事を伝えようとした。
【能力表示】
安房カズヤ
二十一歳 一百七十二センチ 六十二キロ
<主要能力>
生命 三00(一00 + 二00)
気力 三00(一00 + 二00)
刀剣:7 格闘:6 投擲:3
運動:3
感知:5 追跡:5 隠密:5
戦術:4
工作:3 運転:3
<魔術関連>
探知:3 捜索:4
拘束:4
衝撃:3 付与:3 能力強化:4
回復:5
範囲拡大:2 威力拡大:2
時間未定だけど、今日中にもう一話掲載出来れば。
無理なら明日。