研磨
研磨。一言に言ってしまえば簡単に聞こえるこの作業だが、どうやら違ったみたいだった。
「……銅を素材としたものは研磨の最適回数は10-15回だ。その中でも槍は12回、斧は11回、剣は13回、鎌は12回。さらに斧と槍を複合したハルバードは斧の部分は斧と同回数の研磨、穂先には槍と同じ回数必要だ。大剣は切る武器というより叩き切る武器だから研磨の回数は少なめの10回、切れ味も必要という場合には12回までだ。大鎌は切り裂く武器だから最大数まで研磨する。この回数を増やしても切れ味は良くならず、耐久値が低くなってしまう。逆に足りないと切れ味が悪くなっちまって攻撃力が低い武器しか出来ねぇ。あとは経験で打った武器がどの程度の研磨に耐えられるか見極めなきゃならん。さらに、修理する場合は今言った回数の半分くらいだ。使い方によって最適回数が変わっちまうからだな。次に鉄の研磨回数についてだが……」
……頭が痛い。高校を最後に村での生活は習うより慣れろの精神だったからこうやって理論的に教わるなんて、くそが付くほど久しぶりの事だった。鍛冶ってこんなに頭使うのかよ……。
最初に道具の説明から始まり、素材、武器の種類、特徴、そして今は素材に対して必要な研磨回数だ。かれこれ3時間くらい鍛冶についての講義が行われているが、金槌を握ってもない。
……今漸く基本の鉱石の研磨回数の講義が終わったところだ。
「っんん!今までの所で質問はあるか?」
「……今の所は……ないです。」
「そうか!じゃあ今から実際にやってみるか!」
おお!実技の時間に到着したみたいだ。昔から頭使うより身体を動かした方が好きだった。赤点取るほどじゃなかったが頭は良くなかった。
「じゃあ早速研磨に取り掛かりたいと思う!」
「はい!」
正直また研磨か、とは思ったが最初はこういうものだろう。職人の技を盗もうとするからには下積みは絶対だ。下積みなくして一流には成れない。成れたとしたら神に愛された天才くらいだ。
ここからみっちり1時間、研磨のやり方について教わった。力加減や角度、研磨につかう砥石の手入れなど。やってみて分かるのだが、鍛冶の行動はリズムゲームの様だと気付いた。というのも、研磨を始める際に視界にメーターが現れたからだ。そのメーターにそってテンポよく腕を動かせば良いようだ。あとはザックスさんに教わった回数こなせば研磨完了だ。
「おっ!おめぇ筋がいいじゃねぇか。」
「ありがとうございます。」
「筋がいいと言ってもまだまだだがな!」
ザックスさんから手渡された打ったばかりの銅の剣を研磨したのだが、最適回数研磨したのに、店売りの剣と同じものが出来上がった。先程見た、切れ味4の銅の剣にはならなかったようだ。
「まだ力加減と速さが甘いんだ。数こなせば切れ味も良くなるだろうよ。」
恐らくリズムゲームによくあるgood、nice、excellentの違いなんだろうな。だからこそのメーターで、そのライン見極めるのは経験しかないのだろう。もしかしたら今後見えるようになるのかも知れないが。
「とりあえず、どんどん研磨してみるこった!目標は、俺の打った切れ味のいい銅の剣が出来るようになることだ!」
そういってザックスさんはまだ研磨していない武器の入った籠を指さした。
「まずはあれを全部店売り基準になるように全部研磨してみろ。それが終わったら、次のステップだ。もちろん休み休みで構わんぞ。」
籠の中には剣だけでなく、槍や斧、鎌といった武器が入れられていた。説明の中にあった大剣や大鎌、ハルバードはないみたいだな。というかやはり今日中に実際に剣を打つ事は難しそうだ。
「また近いうちに来ます。来た時はアイリスさんに声を掛けたらいいですか?」
「ああ。」
「ではまた来ます。」
鍛冶場を後にし受付にいたアイリスさんにもまた来る旨を伝えて街に出た。正直こんなに長く鍛冶屋にいるなんて思わなかったな。基本から学べて勉強にはなった。他の鍛冶プレイヤーから遅れは取ったが、すぐに巻き返せるだろう。
最初の噴水まで戻ってきたが、プレイヤーの装備が若干変わっていることに気付いた。大体のプレイヤーが初心者装備に皮鎧や胸当て、篭手、すね当て(レッグガード)や恐らく魔法使いと思われる人はローブなんか着てたりしている。初心者装備の人は俺くらいかもしれない。
そりゃゲーム開始からもうすぐ5時間も経ってたら装備の一つくらい増えるか。
よし、冒険者らしく冒険しよう。
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