師事
NPCの鍛冶屋夫婦は突然頭を下げた俺に慌てて頭を上げるように言った。そりゃ初めて来た人が急に頭を下げるなんてびっくりもするか。しかもプレイヤーだし。
「急にどうしたんだって言うんだ。鍛冶を教わりてぇなんて。お前さん見たところ山族だろう?俺なんかに習うより職人ギルドに行きゃあ教えてくれる奴はいるだろう?」
「まあ、確かにそうだとは思うんですけど。」
βテスター達の立ち上げた攻略サイトを見てみたが、このFLOには共同の生産所、所謂職人ギルドというものがある。そこでは色んなNPCが日々生産をしている場所がある。そこでチュートリアルを受けれるらしい。そこが生産職を目指すプレイヤーが第一に訪れる場所だ。
「そこじゃあ駄目なんです。確かに職人ギルドでも受けれると思います。それでも、鍛冶屋じゃなきゃ駄目なんです。」
「それは何故だ?」
鍛冶屋の旦那さんは腕を組んで真剣な眼差しで俺を見据えた。
「それは、貴方が店を構えるプロだからです。俺が育った……ていうのも変ですけど、今いる村では中途半端な人から教えれた技術は中途半端にしか伝わらない。本物になりたいなら本物から教わらなきゃ本物、そして本物を超えることは出来ないって教えられてるんです。」
恐らく俺の村は大分変わっている。村にいる人は大体の人が畑仕事、裁縫、料理など出来ると思う。しかし、全員が一流ではない。例えば、じゃがいも育てるなら隣のじいさん。トマト育てるなら何処どこの婆さんっていう風に野菜だけでも専門というか、得意な人がいるんだ。確かに、じゃがいもやトマトなんて誰に聞いても育てられそうな物だ。でも、そこそこのものならそれでもいいが、本当に美味しい物を作ろうと思ったらその得意な人に聞かなきゃ美味いもんは出来ない。
ちょっと伝わりづらいが、何でもその専門から聞くのが一番成長する。職人ギルドにいる人が偽者って訳じゃないが、俺は一流から教わって一流を超えたいと思う人だ。だから鍛冶屋に来た。
俺の言わんとしていることが伝わったのか、鍛冶屋の旦那さんは目を瞑り、組んでた腕を解き、柔和な笑みで頷いた。
「お前さんの言いたい事はわかった!よし、それならウチで修行させてやろう!言っとくが、俺の修行は厳しいぜ?」
「望む所です。私は冒険者のグランと申します。よろしくお願いします。」
そういって俺は鍛冶屋の旦那と握手を交わした。
「俺は鍛冶屋のザックスだ。こいつは嫁のアイリスだ。よろしく頼むぜ。気軽に話してくれよな。」
「アイリスよ、よろしくお願いね。」
こうして俺は鍛冶屋のザックスとアイリスに弟子入りを果たした。すると目の前に半透明な板が急に現れた。
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【クエスト 鍛冶屋に弟子入り!】
○ 鍛冶屋のザックスに弟子入りをしました。
○ スキル【鍛冶】のレベルが30を越えるまで続きます。
○ 達成報酬【???】【???】
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……どうやらクエストとして処理されたみたいだな。何か達成報酬とか貰えるみたいだしラッキーだな。
クエストっていうのは冒険者が乗り越える試練みたいなものだ。冒険者ギルドでは討伐依頼や護衛などがあり、職人ギルドでは素材の納品、作成したものを納品したりなどだが、クエストの内容によって報酬は色々あるらしい。今回は特殊なクエストみたいだ。
「どうする?今からやるか?」
「今からでもいいの……か?」
「丁度暇になったところだからな。」
「じゃあ、お願いしようかな?よろしくお願いします。」
鍛冶屋のクエストが進行しだした。ザックスさんは「着いてこい」と一言いい鍛冶場に消えていった。俺はアイリスさんに一礼して鍛冶場に入っていった。
鍛冶場には大きな炉と隅っこの方には何らかの鉱石や完成品の剣や槍などが積み上げられていた。
ザックスさんは「さて」と一呼吸置いて俺に質問してきた。
「グラン。鍛冶師にとって一番大事な技術とは何か。分かるか?」
鍛冶師にとって一番大事な技術?思いつくだけでも多々あるようにおもえるのだが……。いい鉱石を見極めるのも大事だと思うが、この世界には鑑定という便利なスキルがあるし。炉の温度?金槌の打ち方?それとも別の……?
「正直にいうと、分からないかな?炉の温度や金槌の打ち方とか大事だと思う事が多すぎて分からない。」
「ほう、じゃあこいつを見比べてくれ。」
そういってザックスさんは銅の剣を二本手渡してきた。俺はそれを鑑定してみた。
銅の剣 ATK 5 耐久値 60/60 切れ味 3
銅の剣 ATK 6 耐久値 60/60 切れ味 4
ん?微妙に攻撃力が違う?何故だ?切れ味が若干上がってるからそれが原因か?
「切れ味?」
「まあ半分正解だな。この二本の剣は素材や打ち方は全く同じ。じゃあ何故攻撃力と切れ味が高いのか。」
正解は、研磨だ。とザックスさんは言った。
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