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第四話

何日も馬車に揺られ、たどり着いたのは当然の事だが、王都よりは明らかに劣った村だった。通りは狭く、区画もきれいに整理されていない。建物は王都のように石やレンガで作られたものより木造のほうが多かった。


王都とは雲泥の差であるが、住むのに苦労することもなさそう。というのがこのアルムの村に対してのゼファーの第一印象だった。


ここまで送ってもらった御者に礼を言って、村へ入ると、よそ者はやはり目立つのか村人からの視線が多く向けられた。もしかしたら、ゼファーが着ている服が村人たちのそれとは異なっているからかもしれない。


先ずは村長の屋敷に向かうためにそれらしい建物を探すが、よく分からないので近くにあった果物屋の店主に尋ねることにした。


「すまないが、村長の屋敷の場所を教えてくれないか?」


ゼファーの問いに豊かな口髭がよく似合う店主はおっかなびっくりと答える。客商売をしているだろうに、表情が酷くぎこちなく、頬を引きつらせている。


「あ、ああ村長の家ならこの通りを真っ直ぐ行ったところにあるでかい建物だ」


「そうか、助かった」


店主に礼を言って立ち去ろうとすると背中に店主から声をかけられた。


「おい、兄ちゃんは中央の騎士様か?」


「まあ、そうなるな」


正確にはもと罪人なのだが、そんな事を言っても仕方ないので言わなかった。

ゼファーが答えると、店主は疑わしげな目を向けてきた。


「見たところあんまり強く見えねえけど、大丈夫なのか?」


「心配されるほど弱くないつもりだ。それなりには働くさ」


まだ訝しんでいる店主を残して言われたとおりの道を進んでいくと、一際大きな建物があった。王都と同じレンガと石を用いた建築様式で、周りの建物よりしっかりとしている。


建物に比例して大きな扉をノックしようとしたところで、遠くから慌ただしい声が聞こえた。


「おお!ちょっと待っとくれ!」


声のした方に目を向けると、一人の小柄な老人がこちらに小走りでやって来ていた。手に杖を持っているが、あの様子を見る限り必要無さそうに思える。


「あんたが、中央から来た騎士様だね?迎えに行ったんだが、すれ違いになったみたいだね。待たせちまったかい?」


「いえ、今来たところですよ。あなたが村長さん?」


ゼファーの問いに老人は誇らしげに胸を張って頷いた。小柄で頭がゼファーの胸の高さしかないため、余り威厳も感じられないが。


「如何にも、あたしが村長のトキじゃ。あんた、名前は?」


「ゼファーといいます。あたしって村長さんは……」


「あたしは女じゃよ。失礼な奴じゃな」


トキがじろりと下から睨み付けてくる。こういう表情をしていると村長らしいなとゼファーが場違いな事を考えていると、トキが先に怒りを収めた。


「まあよい。まだ日が高いし、森に行かんか?そこに魔物が出ることがあるんじゃよ」


確かに、時刻はまだ昼過ぎなのでその森に下見に行くのもいいかもしれない。


ゼファーは無言で頷くと、トキと共に村の入り口の反対側にあるという森を目指して歩き出した。


森に続く村の通りを歩いていると、前の建物に筋骨隆々の体格の良い男が立っていた。くすんだ茶髪を短く刈り上げていて顎には無精髭を生やしている。


「トキ婆、おせえぞ。いつまで待たせるんだよ」


低く野太い声で脅すように言う。村長に対してとは思えない態度だが、慣れているのかトキは咎めることもなかった。


「バッカス、隣におるのが中央からはるばる来てくれたゼファーじゃ」


トキから紹介されてゼファーは会釈したが、バッカスは名乗ることなくずいっと顔を近づけてきた。鋭い眼光でじろりとゼファーの身体を見回した後、ふんっと鼻を鳴らした。


「俺はバッカスだ。ここで魔物を狩っている」


「そうですか」


バッカスの態度にトキは目を見開いて驚いた。


「ほう、お前も少しは大人しくなったんじゃな」


「まあ、俺もいい年だしな」


バッカスはそう言って薄く笑うと踵を返して立て掛けてあったゼファーの身長ほどの長さの大剣を握る……ことなく振り返りざまにゼファーの顔面に右拳を撃ち込んできた。


「らあっ!」


「っと」


ゼファーはそれを半身になってかわし、素早く懐に潜り込むと手刀をバッカスの顎先に食らわせる直前に止めて寸止めした。


「なっ!?」


バッカスがゼファーの反撃に驚いたのか、慌てて飛び退いてゼファーから距離を取った。

トキも予想外だったのか口をあんぐりと開いて唖然としている。


「そうやって誰かれ構わずに喧嘩を売るのもいいですけど、相手を見てやった方がいい。もし俺が刀を抜いてたらあんた、今頃両腕がその辺に転がってたぞ」


ゼファーの言葉にバッカスは歯軋りしてのそりと一歩近付いてきた。二人の間で緊張感が高まり、その様子にただ事ではない雰囲気を感じ取ったのか村人たちが数人集まってきた。


ここでバッカスと事を構えるのは得策ではない。

ゼファーがバッカスに反撃してしまった事を早くも後悔し始めていると、慌ててトキが割って入ってきた。


「こら、止めんか二人とも。バッカスもそれくらいにしておけ」


「分かったよ」


バッカスは渋々了承すると一人でのっしのっしと先に行ってしまった。


「悪いのう。バッカスが警戒するのも無理もないことなんじゃ。許してやってくれ」


「別にいいですよ。喧嘩するつもりもなかったですしね。それより、バッカスが警戒する理由って何ですか?」


「あんたがこの村を本当に守ってくれる人材なら話してやる。それまでは詮索せんでくれ」


そう言われれば何も聞くことができない。


それにそもそも、ゼファーはこの村の内情に余り興味もなかった。村人達がどんな事情を抱えていようとゼファーには関係のないことだし、どうでもいい。


目の前にいる魔物の命を確実に刈り取る。


己の命が尽きるまでその行為をただ淡々と繰り返すだけだ。


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